VR『異世界』より

キリコ

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20.嘆願書の内容がヤバい



 食べていいとクルト様に促され、そっとフォークで小さく切り分け口に運ぶ。

 フランボワーズに似たベリーの香り。甘いのに爽やかな酸味のお陰でくどくはなく、舌ですり潰せば滑らかな舌触りで簡単にほどけていく。下に薄く敷かれたスポンジには少し果実酒が含まれる甘すぎないシロップが沁みていて、ムースとのバランスは秀逸としか言いようがない。

 グラサージュされた表面も鏡の様に艶々として美しく、センス良く飾られたミントの葉や数種類の生の(おそらく)ベリーも、酸味があるものから甘味が強いものまであり、何度も味変しているように最後まで美味しく食べられる。

 途中にクラウスさんの一等美味しい紅茶で口内をリセットしながらゆっくり食べ切り、ほう、と息を吐いた途端にクルト様に笑われた。

「本当に幸せそうに食べるな。リカルドに見せてやりたい」
「・・・・・・そんな変わった食べ方はしてないつもりですけれど」

 というかリカルド誰。

「変わってはないぞ。マナーは完璧だ。うっとりした表情で食べているから、美味しくて堪らないと言うのがよく分かるだけだ」
「えっ、そんなにですか? やだなぁ恥ずかしい。・・・・・・これから昼食は別でとる事にしません?」

 そう言うとクルト様はハッとしてバツが悪そうに謝ってくる。

「悪いがそれは聞き入れられない。いや、食事姿をジロジロ見るのはマナー違反だった。許してくれ」
「いや、あの、はい。ならいいです」

 いや、馬鹿にされてたんじゃないんならいいんですけどね。ただ、慈愛がこもった視線が何とも言えないといいますか。

 どうせあれでしょ。ちっちゃい動物がご飯食べてるのを見守る気持ち。ハムスターに食べ物やる時の友人がそんな顔してたよ! ちくしょう。

 もう一切れおかわりし満足すると、残りは時間停止の棚にしまっておいてくれるとの事。

 なんとここにある収納棚とハイカウンターみたいなやつにも時間停止が付けられているらしい。リオルに言えば分かるとの事だけど、ひえーとしか言いようがない。ちゃんとお礼は言ったけどね。 





「ご馳走様でした。手配ありがとうございました」
「満足してくれたなら良かった。これはユーリへの対価だからな。礼は要らない」
「ふふ、はい。あの、クルト様、今日もお忙しいです?」
「いや、それ程差し迫ったものはないが。前倒しで片付けていっている状態だからな」
「でしたら、件の書簡を見に伺っても大丈夫でしょうか」
「もちろんだ」

 暫く雑談などして休んでから、二人揃って席を立った。



 クルト様の執務室に入ると、丁度クロード様も外から戻って来た所だった。補佐官の方々もちゃんと交代で休憩をとっているみたい。勝手にうんうんと頷いているとクルト様に頭を撫でられた。なぜ。

 いつもの応接セットのソファまで連れていかれ座って待っていると、封筒の束を手にしたクルト様が戻ってきた。

 えっ、ちょっと??? 普通そこで隣に座る? 近い。向かいに行くものではないの? 助けを求める様にクロード様に視線を投げるも、うわ、みたいな反応をされて目を逸らされた。

「今の所これで全部だ」

 束ねていた紐を解き並べていく。クルト様とのお勉強と読書し続けていた甲斐あって、もうスラスラとこちらの文字も読める様になった。

 多分スキル的なアシストが盛大に働いてくれているんだろうとは分かっているけれど、達成感を感じられて嬉しい。

 一つ一つ読んでいく。

 一件は預かってるリベルが、寂しいのか自分達が何かしてしまったのか分からないけれど、塞ぎこんでしまってどうすればいいのか分からないと言うもの。元気付けようとしたあれこれも負担になってしまったのか益々疲れた顔をする様になってしまい、僕に同郷として何か知恵があれば借りたいとのこと。他のリベルより、神殿所属の僕の方が人格が保証されてるので頼ってしまい申し訳ないとも。

 あー、そういう系か。利用するしない系かと思って警戒してたけど。そっかぁ。ホームシックとかなのかな。最初の一週間は調整の関係でログアウト出来ないんだよね。7×3で21日は立たないと無理。今何日目だっけ?

 この人には会っても良いかな。音楽とか聞かせてあげたら慰めにならないかしら。僕と言う日本人と話すのも効果は少しあるだろうか。

「クルト様、こちらの方になるべく早くお会いできる様にして頂く事は可能ですか? 食事量が減っていると言うのが気になって」
「ああ、分かった。手配しておこう。日程が決まったら伝える」
「ありがとうございます」

 では次の書簡へ、って、あれ? こっちは日本語の手紙が同封されてる。

 えーと。うわぁーこれは、うわあああ。これ、うちで保護した方がいい様な気がする。

 内容はこうだ。普通に友人として気に入って貰いたくて、日本で過ごすのと同じ様になるべく笑顔で、お礼や感謝を忘れないように接していたんだそう。贅沢させて貰っている自覚がある程お世話になってるから、と言うのはとても分かる心情だ。僕もそうだし。で、そうしたらそこのお家の若様(日本では未成年)に惚れられてしまった事。

 一度言葉にしてハッキリ断ったものの、諦めないと言われアプローチが激しくなり辛いと。同性愛に偏見は無いけれど、普通に異性愛者なので彼をそう言う目で見る事は出来ないし、そう言う仲になるのは年齢も相まって生理的に受け付けない。

 それなのに屋敷の者は若様の応援をする派と、物慣れない時にそういう対応をするべきではないという良識派がいて、なんとか守って貰っているが、可能なら神殿に入れるなら入りたいとの事だ。

 これはヤバい。結構緊急事態じゃないか? この世界、基本的に人種が北欧サイズだからみんなデカい。クルト様みたいにただ愛でるタイプじゃなくて、こういう押せ押せで来られたら普通に怖いんじゃないの? しかも生理的に無理だなんて。

「クルト様、こちらのお家はどの様な家ですか?」
「どの様な・・・・・・、確か良識的なご当主だったと記憶しているが。後ろ暗い事も無いし、領地経営も良好だったはずだ。何か不味い事でも書かれていたか?」
「・・・・・・この方の個人的な事なので話し難いんですけれど、話さないと対処出来ないので話しますが内密にお願いします」
「もちろんだ」

 気が乗らないけれど仕方ない。話さないと助けも頼めないし。

「こちらのお家の若様に気に入られてしまい、中々強引に迫られているみたいで。祖国では常識の範囲内で感じ良く接していた為かも知れないとは本人も書いているのですけど、僕はこの方が悪いとか思わせ振りにしたとかとは思いたくないです」
「それはそうだろう。常識が違う部分がある事は最初から相手も織り込み済みのはずだ」
 
 えっ。何それ。そこまで常識が違うって感じた事はなかったけれど。生活様式の細かな事は置いておいて。・・・・・・もしかして僕もそう思わせる様な事を何かしでかしてたりするの??



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