VR『異世界』より

キリコ

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22.リベルとの初めての対面



 あれから数日。今日は件の引きこもりさんをお招きしている日だ。

 食が進まないと書かれていた彼女の為に昨日、日本ならどこでも売っているような柔らかめのプリンを作ってみた。 

 こちらで出るものは結構硬めで、海外のプリンに似ているのでこういう違いもホームシック時には気になるだろうし。分量は普通に目分量だけど作り慣れているものだから問題なかった。


 砂糖と卵の配合で硬さは結構調節できるのだ。完成品は冷やした後インベントリにしまってある。なんと駄目元で言ってみたらちゃんとバニラビーンズもあったので、卵臭さは消えています。

 材料とカップとかだけリオルに用意して貰って調薬室にある道具で作ったんだけど、クルト様とリオルに微妙な顔された。それはそう。

 だけど調理部門まで行って、忙しく仕事してる中僕の気まぐれの為にキッチン借りるとか、小心者の日本人には無理ですよ。

 もちろん完成後はクルト様と味見済み。材料を調達して来てくれたリオルも。二人にもそこそこ好評でした。

 まぁね、人間食べ慣れたものが美味しく感じる様になってるからね。決して失敗した言い訳とかじゃないよ! 本当に。日本人なら普通に美味しく食べられると思う。



 午前中はいつも通り過ごした。彼女が来るのは昼食を済ませてお茶の時間くらいの予定なので、向こうが到着したらリオルが呼びに来てくれる手筈になっている。

 昼食もしっかり食べ終わって、それまではと地道に中級ポーションを生産しています。結構作り溜めているポーションだけれど、遂に新しく選考された商会からポーション瓶が納品されました。

 最初からちゃんとポーション瓶用の木箱に入れてあったので、早速ポーションを詰めていつでも持っていけるようにしてある。今作ってる分を換算せずに400本。

 ぶっちゃけポーションを作る作業よりも、完成後に測りながらロートでポーション瓶に入れていくこの作業の方が面倒になってきている今日この頃。

 まぁこういうのもおつとめの一貫なのだしやるしかないんだけど。と、いう事で地味に黙々とこなしています。



 薬品を全て瓶に詰め終わり木箱にしまい、使った器具も洗って片付けまで終わったけれど、一向に呼ばれる気配がない。僕の気が急いているだけかしら。

 呼ばれるまで読書でもしとこう。




「ユーリ様、お招きした方が到着されたそうです」
「ありがとう。じゃ、行こう」
「お待ちください。少しそのまま」

 立ち上がろうとしたのをやめじっとしていると髪を一度とかれ、櫛ですかれてから丁寧に結い直してくれた。作業してたから乱れてたのかも。因みに僕の髪型はいつもハーフアップです。何か髪飾りを付けられた気がしたけど気の所為? 

 身だしなみもチェックして貰いOKが出たので向かうことにする。



 調薬室から出ると、騎士様が五人も待ち構えていて少しビクッとしてしまった。同郷の人に会うだけなのにこの物々しさは一体・・・・・・。

 先導されて辿り着いたのは、僕がまだ来た事がなかった一般市民が出入りする区画。正面入り口から入って一番手前の建物にある応接室のような所で。

 僕達の棟から向かう通り道に、コンビニみたいな売店や、扉の無い控え室の様な部屋など気になるところがいっぱいあったけど我慢だ。人を待たせてるからね! クルト様にいつか案内して貰おう。多分勝手にうろうろしたら不味いだろうし。


 扉を守る騎士へ、リオルが取り次いでくれて中に入る。

 部屋の中にいたその人は、僕が部屋に入ると立ち上がって礼をしてくれた。お辞儀じゃなくてカーテシーだ。貴族のところで習ったのかな。グラつかず姿勢も綺麗に出来ていると思う。頑張ったんだね。どうやら真面目で礼儀正しい人みたい。

「お初にお目にかかります。宮原はるかと申します」
「ご丁寧に挨拶いただきましてありがとうございます。佐藤悠理です。よろしく」

 僕もこちらに来てから習ったボウアンドスクレープに似た礼をとった。左手を胸に当て、右手は手を開いて背中に当てる形。

 僕も何故かカーテシーも覚えさせられましたけどね。なんならそっちの方が細かく指導されたし。どうして。

 まぁ、だから頑張りが分かったんだけど。

 二人とも空気を読んで姿勢を戻すと、少し笑いあった。

 ソファへ座るよう勧めて僕も座る。

「体調が優れないとの事でしたが大丈夫ですか?」
「はい、今はなんだか息がし易くて」
「それは良かった。それならプリンを作って来たので召し上がりませんか?」
「プリン・・・・・・」

 ちょっと顔が強張っちゃった気がする。もしかして失敗したかなぁ。

「ええ、こちらのも美味しいのですけど、日本の柔らかめのが食べたくて作っちゃいました」
「あ、食べ、いえ、頂きたいです」
「ふふ。良かった」

 プリンをそっと音を立てないようにテーブルに置く。プリンはカップから皿に開けて小さなクロッシュを被せた状態でインベントリに入れていたので、彼女の分もクロッシュを外してインベントリにサッとしまった。

 彼女の前にプリンを移動させると、プリンがぷるんと震えた。それを見て涙ぐんだ気がしたけど大丈夫だよね? 嫌いとかじゃないよね?

 何らかのハラスメント行為に抵触してたらどうしよ。

 一人焦っているとリオルがナプキンとスプーンをセットしてくれた。はい、スプーンの用意忘れてました。そんなやらかしもリオルが優秀なおかげで事なきをえました。何やってんの僕。

「先に口をつけますね。いただきます」

 スプーンで掬い口に入れる。うん、我ながら美味しい。相手を見ると、丁度彼女も口に含んだところだった。喜んでくれるといいんだけど。

 って、えええええ。嘘ー、何故に泣く。これ僕が泣かした事になる感じ?

「・・・・・・美味しいです。凄く」

 あ、プリンは悪くなかったらしい。

「ごめんなさい、困りますよね。すぐ泣き止むんで」
「えっと、大丈夫ですよ。泣くとスッキリしますからね。泣く事自体は悪い事じゃないと思いますし」
「ありがとう・・・・・・」

 なんか、大丈夫かな? 結構精神的にキテたりするのかな。
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