VR『異世界』より

キリコ

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25.リベルが心配な伯爵2



 我が家の一員にハルカが加わり、賑やかに生活を送っていた。少しおっとりしていて心優しいハルカを、屋敷の者は皆好いていた。料理長やメイド等はあからさまで異世界の少女の好物を探ったり、世話をするのを楽しんでいた様に思う。

 かく言う妻も、年頃の少女の世話をするのが楽しい一員らしく、ドレスを選んだり商会をよんでリボンを選びあったりしているのを見た。

 その中で別格なのはエリーだ。いつもハルカと一緒にいたがり、ハルカの勉強の時間もとり難い有様だ。四六時中一緒にいてはハルカも息が詰まるだろうと引き離すも、ハルカの方から会いに行っている節もあり、ならばと放っておく事にした。




 それから少しして料理長が、この所ハルカの食事量が落ちていると相談に来た。油物を減らしたり胃に優しいものに変えたりしてみてもあまり効果がないと。

 屋敷に籠りきりの状況のせいかと、歓迎パーティを開いてみたりピクニックに連れ出すも、エリーを構っている間は楽しそうなのに、時折空を見つめ涙ぐんだりしていて妻と二人して蒼白になった。

 まさかここでの生活が嫌になったのであろうか、と。この十日足らずで皆ハルカのいる空間がとても好きになっていた。もちろん私も妻もだ。

 それから、ハルカが天に帰ってしまうのではと心配になってしまい、構い過ぎたのが良くなかったのだろうか、あまり部屋から出てこなくなってしまって、食事量も益々減っていた。

 誰も打開策が浮かばず悩んでいた頃、一筋の光明が差す。

 大神殿にはリベルの姫様がお入りになったとの噂を耳にしたのだ。少し調べて見るとどうやら本当の事らしい。

 邪な者は神殿に所属する事はできないので、性根がおかしな者ではないと保証されているのと同義。その方には迷惑をかける形にはなるが、ハルカの健康には変えられない。

 藁にも縋る気持ちで相談してみると、転移陣を使ってまで直ぐに返答をよこして下さった。ハルカに直接会って話を聞いてくださるとの事。

 ハルカにその方に会ってみないかと話すと会ってみたいと言うので、こちらはいつでもいいと直ぐに返信すると、緊急性があると思って下さったのか転移陣を使ってやり取りし、大神殿に行くのは二日後と決まった。

 

 ハルカに姫様はどの様な方なのか聞くと、ハルカは知らないのだと言う。そうなると現状、かのお方の情報は何もないに等しいが、神殿にいらっしゃるということは、人格は保証されているので何も案ずる事はないと言うと、ホッとしたようにハルカは笑った。

 久しぶりに見たハルカの笑みに妻と二人して少し涙ぐんでしまったが。いや、良く見ると気配を消しているメイド達も・・・・・・。

 姫様に会うのを楽しみにしているのか、ハルカの食事量も少し戻って来ていた。やはり心因的なものだったのだろうか。お会いして良い方に向かうといいのだが。



 大神殿に向かう前日から、休憩を挟み途中一泊しながら一日かけて大神殿へ向かう。この魔道車はハルカの天の国にも似たものある様で、良く聞き取れなかったがろーるすもいす?とかいう名で富裕層の乗り物だそうだ。此方でも下級貴族では魔石の維持管理費が賄えないので、所持しているのは似た様な者になるのだろう。価値基準は似ているのかも知れない。

 神殿に到着し、騎士の案内でハルカを迎えに来た時にも使った控え室に向かう。そこから姫様に会う部屋に行けるのはハルカだけという事の様だ。

 神殿騎士が多数常駐するこの神殿内で心配するような事が起こり得るはずが無く、ハルカが元気になってくれれば私達はそれでいいので直ぐに了承する。

 


 行く時は少し不安そうだったハルカは、控え室に戻って来た時には様子が一変していた。


 帰りの車内で少し興奮気味に話してくれた内容によると、やはり同郷の者というのは大きな存在だったようだ。

 姫君は男性だったけれど、佇まいはやんごとないお家のお姫様そのものだったようで、有り体に言えば清楚で上品な方だった様だ。

 途中途中で、男性だと言う口で聖母だのお嬢様ウケ(?)だの言っていたのは私には理解が難しかったが。

 ハルカの話を静かに話を聞いてくださり、促す声も包み込むように優しく、更には姫様手ずからお作りのデザートを振舞って下さったらしい。

 ハルカは私達が呆気にとられる程、すっかりその姫様に心酔してしまっている。姫様は男性という事だし恋だろうかと問うも、どうやら違うらしい。『オシ』という存在になったのだとか。

 リベルにとって『オシ』とは崇拝するもので神に匹敵する存在らしい。日々の活力の源なのだとか。それならばこの様な心酔具合も致し方ないのかも知れないが・・・・・・、娘を取られたような複雑な心地だ。

 

 それからみるみる内にハルカは健康になり、少々行き詰まっていた文字の書き取りや読みもあっという間に完璧に習得した。

 喜ばしい事ばかりだが、その原動力の源は件の姫様なのだと思うと少し複雑だったが。

 その姫様とハルカは手紙をやり取りする様になっていて、書かれていたアドバイスによりハルカは最近魔術紋を学び始めた。

 
 魔術紋は私も妻もある程度習得している。通常の魔石から魔術紋を彫んだ魔石も手広く販売する商会を持っていて、運営は領内一丸となって行っている。

 なので教える人材に困る事はない。ハルカはゆくゆくは宝飾師として店を持ちたいらしく、魔術紋の入った魔石でお守りの魔術具やアクセサリーを作ったらどうかという姫様のお言葉でやりたい事が具体的に思い描けたようで、活力に満ち満ちている様だ。

 件の姫様からは私にも代筆ではなく、まさかのかの方の手によるであろう感謝の手紙が届いた。要約すると

 『我が同胞の為にいち早く動いて下さりありがとう存じます。また何か困った事がございましたらご連絡くださいね。誠実な貴方に神の祝福があらんことを。』

 という感じの内容のもの。


 これは、格別のお心遣いをいただいたと思って良いだろう。神の使いでもあるリベルのその更に姫様自ら福を祈ってくださるなど畏れ多いが。

 要するにハルカに関する事なら相談してもいいと言う事なのだろう。リベルを迎えるにあたって、彼女を何からも守らなければと肩に力が入っていたが、万一の時は頼る先があると思えばホッと肩の力が抜ける心地がした。

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