VR『異世界』より

キリコ

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29.イケメンは距離の詰め方がエグい


「いや、ユーリ様は今まで通りがいいと思いますよ」

 そう考えていたのに、当の澤村くんから一緒にご飯食べよっていう提案を反対されるとは思ってなくて。

 懐いてくれたと思っていたから余計にか、少しショックを受けると同時に、自分がそうだからって相手もそう思ってくれるとは限らないっていう当たり前の事を思い出させられた。

 ・・・・・・というか、ここに来てから周囲の好感度がやたら高いから傲慢になっていたかも知れない。もろにあの嘆願書のリベルと同じ事してる・・・・・・。

 自分の状態に愕然として、少し血の気が引いた。あっぶな!

「そ、そっか。ごめんなさい。僕が一緒がいいからって、ちょっと傲慢になってたね」
「あ!? 違います! おれっ、私だって一緒にいられるのならそちらの方がいいに決まっています!」

 言わせちゃってるし。せっかく若様から解放されたのにこれじゃ、意味ないじゃん!

「あー、ごめん、そんな事言わせるつもりじゃなくて。本当に気にしないで。と言うか話し方崩していいよ。さっき俺って言ってたじゃない」
「いや、公私は分け・・・・・・、そうだ。それなら一人称だけ。それで口調は二人きりの時だけ崩させてください」

 さてはキミ、真面目くんだな? 

「そう? 澤村くんがそれで疲れないならそれでいいけど」
「その、呼び方も、エイトってよんで貰えませんか? ユーリ様ともっと親しくなりたいです。他の方は名前で呼んでますよね」

 僕は様付けなのに? それに、ご飯はダメで名前呼びはオッケーとかどう言う事なの。

 ジッと見つめられると反論が出てこない。確かにクルト様もリオルもクロード様も、名前で呼んでるけど・・・・・・。

「・・・エイトくん?」
「呼び捨てで」
「え、エイト?」
「はい」
「なら僕もユーリで」
「すみません、ユーリ様はユーリ様なんで」

 なんでだよ。粘ってみたけど無駄に意思が固くて諦めた。

 もう一度名前を呼ぶと嬉しそうに返事するし。イケメンスマイルを間近で浴びせないで。心臓が酷使されます。

 何これ。なんか恥ずかしいんだけど。エイトはやたらニコニコして嬉しそうだし。可愛いなこのヤロー。

「もー! 可愛いんだから。あざといぞエイト!」
「うわ、はは、くすぐったいですって」

 そう言いながらもついつい頭をもしゃもしゃしちゃう。ツルツルサラサラの髪が触り心地いいんだよね。ショートだからもふもふし易いし。

 こっちの人のカラフルな細い髪と違って、艶々と輝く黒髪で髪質も如何にも日本人、みたいな感じで張りがあるものだから、触るのもそうだけど、目に入るとどこかホッとする。

 僕も思ってたより寂しかったのかな。

 それにしてもでっかいワンコは癒し効果が大きい事がよく分かりますね。アニマルセラピーすごい。人間なのに失礼か。

 乱してしまったエイトの髪を手櫛で整える。モシャモシャしてごめんね。

「コホン」

 リオルの咳がやけに部屋に響いて、ハッと我に返った。

 いつの間にか、立ったまま正面からエイトにもたれかかって頭を撫でていて、俯いたエイトの腕が僕の腰のあたりを抱きしめている。どう考えても今日初対面の距離感じゃない。顔も近いし体の前面は殆ど密着状態。は?

 こんなのやばい奴じゃん、僕。距離ナシ野郎すぎる。

 慌てて離れるとエイトがシュンとした顔をする。・・・・・・僕が距離ナシになっちゃうの絶対この子のせいなんだけど! 

「コホン。それより、なんで僕はそのままなんて言うの? 一緒に食事したくないの」

 ・・・・・・なんか言い方間違ったかも。めんどくさい彼女みたいな事言ってしまった。

「まさか。俺も一緒に食事できたら嬉しいですよ。用事がなくても毎日顔を見れるって事ですし。でも、貴方が食堂に行くとなればパニックが起きる事くらい、来たばかりの俺でも想像がつきます」
「・・・・・・そんなに? いや、注目を浴びてるのは分かってるけど。と言うかそれならエイトもリベルなのだし同じじゃない」
「全然同じじゃないです。外国人観光客は存在を気にしなくても、他国のプリンセスが街中に突然現れたら大変な事になるのは分かりますよね。自覚した方がいいですよ」

 例えがおかしいでしょ。モブ男を捕まえてプリンセスて。あと頬を撫でるな! なんでみんな彼氏ムーブするの!?

 そもそも男なんですが。日本人の彼までお姫様扱いしてくるとか、もしや、みんなして僕の性別があやふやになる魔法でもかけられてる? 

「いや、正気に戻って欲しいんだけど、僕、普通のその辺りにいるモブ男子よ? プリンセスじゃない事は確かなのよ」
「本当に自分を分かってないですね」

 そんなため息吐かなくてもいいじゃない。やれやれ系主人公かおのれは。イケメンだから、首が痛いポーズがこれまたさまになる事。

「兎に角、貴方は今まで通り生活して下さい。・・・・・・そんなに心配しなくても直ぐに這い上がって来るので。大人しく待ってて」

 ん? 僕たちって付き合ってたっけ??? 何その恋人みたいな言い方。イケメンの無意識こっわ。知らん間に彼女にされるじゃん。

「・・・・・・よく分からないけれど、エイトがそう言うなら待ってる。けど、その代わり、なんかやな事があったら必ず言う事」
「はい、姫様の仰せのままに」

 もお、手にキスはキザだってば!

「リオルもなんかあったら取り次ぎお願いできる?」
「お任せ下さい」

 にっこり笑うリオル。こっちも可愛い。正統派エンジェルですね。すき。
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