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31.経緯説明
食事が終わりテーブルの上が片付けられデザートがサーブされる。今日のデザートはチョコレートケーキ。
ビターなスポンジの間に厚くチョコレートクリームが三重に挟まれている。
硬過ぎずゆる過ぎずの、それでいて甘過ぎないどこか軽く感じるクリームに、しっとりとしているのにふわふわのスポンジの相性は最高だ。
オシャレに飾られた薔薇や葉っぱのチョコ細工も、ちゃんとテンパリングしてあって口に入れると一瞬で溶ける。と言うことは水飴を混ぜているわけでは無さそうだ。魔法だろうか。
ケーキの味は極上で見た目も美しい。もしも幸せホルモンが視覚化できるなら、今の僕からは洪水のようにあふれ出ているのが見える事だろう。
「もう、本当にここのパティシェは素晴らしいですね。ひとり立ちできる様になっても、ここから出ていくのは難しいかも知れません」
「おや、それは私達としては願ったり叶ったりだが」
「ふふ、それなら無為徒食とならないように精進せねばなりませんね」
「ここに居てくれるのなら理由はなんでもいいさ。甘味に負けていると言うのは少々複雑だが」
顔を上げるとクルト様がテーブルに頬杖をついてこちらを見ていた。視線が合うと優しく微笑まれる。まぶし。
「なら半分はクルト様のせいという事にしておきましょう。甘やかされている自覚はあるので」
「はは、ばれていたか」
ばれるも何も、やたらめったら可愛い可愛いしてくる癖に何を言ってるのやら。お母さんの次くらいには僕の自己肯定感を上げるのがお上手ですよ。
ケーキを食べ切りお茶で口をサッパリさせていると、待っていたかのようにエイトの事を尋ねられた。いや、ように、じゃなくて実際待っていてくれたんだろう。
「そうですね、内面は少し寂しがりの普通の男の子ですよ。祖国では美形と言われる類いのルックスなのでそこは普通じゃゃありませんが」
「なんだと? ・・・・・・ユーリもああいうのが好みか?」
「好みって! ふふ、男性じゃないですか。まぁ顔が良いとは思いますけどね。僕としては、性格の方が可愛らしくて好きですけれど」
「なるほど・・・・・・」
何をそんなに考え込んでるの? もっと聞く事あるでしょ? クラウス様が口を挟みたそうにソワソワしてますよ。普段は顔や態度を崩さない完璧執事サマなのに。言いたい事は分かってるのでご安心ください。
「それで、経緯なんですけれど。向こうの若様が権力ずくで彼を自身の配偶者に据えようとしていたみたいなんです。僕が思ってたのと逆で、若様は可憐な少年でしたけど」
「可憐? へぇ、そうなのか」
まって、若様の事一瞬で興味無くし過ぎ。可憐って言われたらもっと気になったりしないの?
「触れ合ったりする事は無かったそうなんですが、二人きりになりたがったり人目のある所でやたらくっつこうとして来られて、外堀を埋められそうだったんですって」
「それはまた・・・・・・」
あ。言ってから気付いたけど、トラウマ刺激しちゃってたらごめんなさい。
「女性相手じゃあるまいし二人きりになったくらいで、とは思ったのですけど、相手が貴族ならそういう事もあるのかなと」
「それは勿論あるだろう。・・・・・・そう言えばユーリの世界では、同性での結婚も許可されたのも最近の事だと言っていたか」
クルト様が徐に腕を組んだ。そんなことしたら逞しい隠れ胸筋がばれちゃいますよ! そうやってると服のシワから腕が筋肉質なのも察せるし、クロード様といいクルト様といい、もしかして文官もみんな剣を嗜んでるの?
「そうですね。他国ではもっと前から許可されていた国もありましたけど、祖国ではそれ程前の事でもありません」
「だからか。ここでは一般市民は気にしないが、貴族となると男女関係なく部屋に二人きりになる事はない。あったとしても扉を開けたままにしておくんだ。異性は勿論の事ながら男性同士や女性同士で婚姻を結ぶ事も当たり前の事だからな」
「でもそれなら、何故神殿では男女で棟が別れているのですか?」
「ただの利便性の問題だが」
「利便性・・・・・・」
「神官は一般市民と同じ価値観だから、気にしているのは男女の違いではない。それに正確に言うと男女で別れているわけではないぞ? 名称も便宜的に呼んでいるだけで本来はゼルコバ棟とアイべ棟となっている。使い易い方へそれぞれが部屋を置いているだけだからな」
「どう言う意味ですか?」
「食堂のメニューの内容が違ったり一階に入っている施設が違うんだ。棟内の内装も違うが」
うっそー。そんな話だったの? 禁欲がどうちゃらが理由じゃなかったの??
でも確かに神官の結婚が普通にある事なら、ここって厳しい戒律とかも無いし感覚的にはおっきな会社みたいなものだったりするの?
施設が違うっていうのはあれかな。魔力量の話なのかな。
この世界では女性の方が魔力が多いんだったよね? 確か。勿論個人差は当然あるし、突き抜けて高い頂点付近は男性ばっかりらしいけど、並から上の中レベルの辺りまでの数は圧倒的に女性の方に軍配が上がるそう。だから魔導士は女性が多い。
食堂のメニューが棟で違う事も初めて知ったけどね。
「色々学んだはずでしたけど、なんだかまだまだ僕の知らない常識がありそうですね」
「まぁそれは仕方のない事だろう。まだここで生活を初めて一月も経っていない。これから知っていけばいい」
「ありがとうございます。クルト様がそう言って下さるならのんびり覚えていきます」
「ああ。こういうのは急いだせいで間違って覚えてもしようがないからな」
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