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32.魔導士長ジュリアン
「話を戻しますけど、彼、結構精神にダメージがあったみたいで。僕に話してない事があって、それの内容が原因だろうとは思ってるのですけど」
「そうか・・・・・・、辛い思いをしたのかも知れないな」
そう呟いたきりクルト様は、カップを持ったままその水面に視線を落としている。彼にも過去に近い事がありでもしただろうか。その時、エイトにとっての僕みたいに連れ出してくれる人はいたの? とてもじゃないけれど聞けはしない。
「ええ。若様に話をつけに行くことになった時などは、身体が強張ってしまう上に過呼吸の様に息は乱れるしといった有様で。体格のいい男性がああなるなんて、何かあったに違いありません」
あの時の事は思い出してもムカついてくる。
「ただ、公に何か処分をとなるとその辺りも詳らかにしないとならなくなるでしょう? それはエイトは嫌だろうなと思いまして。それに神殿に保護されたとなれば、その家はリベルを預かるに足らなかったと言われたも同然ですし、それどころかあの若様を知っている者なら原因は自ずと察せるはず。これからそう言う目で見られる事になるでしょうからそれが罰でもいいかなと思うのですけど」
「・・・・・・そうだな。彼自身がどうしたいかが全てだが、私もその辺りが落とし所としては良いと思うよ」
口を潤したくて一口含んだ紅茶はぬるくなってしまっている。顔に出てしまっていたのか、クルト様が替えを頼もうとするのは断った。
「彼、頭を撫でてあげると気持ちが落ち着くみたいで、何がしたいか決まるまでは僕の近くに置いておこうかなと思うのですけど」
ん? なんか今、一瞬、悲しい顔した? 何というか傷付いた時みたいな。
「・・・・・・まぁ、それなら仕方ないだろう」
見間違いだったのかな。
「とは言っても何か考えがありそうでしたので、もしかしたら直ぐ手が離れるかも知れないのですけどね」
「そうか。もしユーリが対処や判断に困った時は遠慮なく私に言うんだぞ」
「はい。いつもそうさせていただいてますよ。クルト様がいて下さるから僕も自由にしていられるので。いつもありがとうございます」
気持ちを込めて微笑むと、微笑み返される。クルト様といる時は穏やかな時間が流れていて、心地いい。
「ああ。ユーリに頼りにされる立場は私が独占しているからな。気分がいいし当分他のものに渡す気はないぞ」
「まぁ。そんな大層なものでもありませんでしょうに。大袈裟なのですから。面倒事を自分から抱え込むなんて奇特な方ですこと」
「はっ。それを持ってしても余りあるものがあるのさ」
「はぁ。おかしな事でなければ何でも良いですけれどね。でもまぁ、信頼度はクルト様がぶっちぎりですから。よっぽどの事がなければずーっとクルト様のものですよ」
そう言うと突然、お茶を飲んでいたクルト様が咳き込んだ。器官にでも入っちゃった?
「・・・・・・んん、それで、話は変わるが、伝えていた通り午後に魔導師長がポーションを受け取りにくる事になっているが、問題はないか?」
「はい。クルト様も立ち会って下さるのですよね?」
「勿論」
「良かった。ふふ、早速頼りにしちゃってますね」
「はぁ。ユーリが一々可愛くて困るよ」
頭が痛い時のように額に手をあてるユーリ様。待って。一瞬見えただけだったけど、この人のオールバックめっちゃかっこ良いのでは? イケメンってすごいなぁ。新たな魅力がどんどん出てくるんだね、知らなかったよ。
美人は三日で飽きるとか絶対嘘じゃん。所詮あれはただの『すっぱい葡萄』だよね。
それから其々別れ、僕も調合室へ戻るとポーションの製作を続けた。丁度一回分出来た所で扉がノックされる。
応えを返すとクルト様が一人知らない人物を伴って入って来た。この方が魔導師長様だろうか。あ、棚とかのお礼も言っておかなきゃ。
「お初にお目にかかります。ユーリ・サトウと申します。棚に魔法をかけて下さったり、ありがとうございます。お会いできて嬉しいです」
「こちらこそ、お姫様。棚も活用してくれているみたいで嬉しいよ。私はジュリアン・レクザンスカ。ここで一応魔導士の長としてこき使われている、しがないエルフだよ」
「何がしがないエルフだよ、だ。自由きままに好き勝手やっているくせに」
「おやおや。またキミはそんなに眉間にシワを刻んで。その内山脈ができてしまうんじゃないかい」
「誰のせいだ誰の」
なになになに。なんか仲良いじゃんすか? クルト様のキャラが違うんだけど、一体何者? 友達? 二人の気やすさはそのくらいの感じに思うけれど。
「もしかしてお二人はご友人でいらっしゃる?」
「違う」
「よく分かったね」
なるほど? どちらにしろ気安い関係なのに違いは無さそう。
「ただの腐れ縁だ」
「またそう冷たい事言う。幼馴染サマに向かって」
「はっ。王国を出たエルフにそんなもんあるかよ」
ひえ。ワイルドな口調のクルト様の世界線も存在したの? ちょっとドキッとする。これもギャップでしょうか。
それにしても二人並ぶと益々神々しい美しさですね。体格はほぼ同じだし双生神ですって言われても頷ける雰囲気。
クルト様はプラチナブロンドにうすーく水色を混ぜた感じだけど、魔導士長は白銀の髪に薄い色の紫と緑のメッシュが所所入っている。地球じゃありえない髪色だ。まぁ、綺麗なんだけど。
魔導士長の目は薄い紫色で僕と似ている色かもしれない。お顔は大変よろしいです。乙女ゲーなら絶対攻略対象の一人だろうなって感じ。
美しいもの好きの癖が出てしまってついぼーっと二人を眺めていると、魔導士長にまじまじと覗き込まれている事に気が付いた。びくっとして後ずさる。
「な、何でしょう?」
「いや? クルトがご執心のお姫様はどういう子なのかなと思って」
「はぁ。どこにでもいる普通の男ですけれど。というかご執心だなんて、弟みたいに可愛がって下さってるだけですよ」
ほらまたクルト様の眉間に皺が。僕にちょっかいかけて彼を揶揄おうとしてません? ついジト目になりそう。猫は被ったまま我慢ですけどね。
「ふっ、ククッ。面白いねキミ。私の顔は好みじゃなかった?」
「えっ? お顔は大変美しいと思いますよ。クルト様とも引けを取らないくらい」
ぼーっと眺めちゃうくらいにはね!
「ふーん? ならどうして私にはドキドキしてくれないの?」
「へ? ドキドキ?」
「さっきクルトを見ていた時は、顔を赤らめて可愛い顔をしていたじゃないか」
はえ? うっそ。ワイルドな口調にときめいてたのバレてたの? 恥ずかしすぎるんだけど。しぬ。
「そ、そうですか? クルト様のお顔も好きですけど、どちらかと言うと性格の方にいつもきゅんとしてるので、その違いかと。魔導士長様の事は何も知らないですし」
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