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56.守りの香を渡しましょう
「貴様どう言うつもりだ! 姫様から離れろっこの慮外者め!」
「あででででで」
エイトが離れてくれたので見上げると、ギルベルト様がエイトの顳顬を掴んでいて、謂わゆるアイアンクローをしていた。僕から離れたのを見てエイトから手を離し、ギルベルト様の背に僕を庇う。
いや、エイトは他人だけど弟みたいというか後輩みたいなものなので、そんなに怒らなくてもいいんだけど。でも困ってたのは本当だし、助け出してくれたギルベルト様の背を撃つような事はしたくない・・・・・。うーん、困った。
「ひどいですよ。センパイ」
「姫様にあの様な無体を働いておいて何をぬけぬけと。リベルでなかったら首を落としている所だ」
チッと舌打ちをするギルベルト様。やばい。ブチ切れてらっしゃる。
慌てて彼の腕を掴んだ。
「ありがとう存じます、ギルベルト様。ですがエイトは弟みたいなものなので、どうかその辺で」
「姫様。ですが、・・・・・・いえ。出過ぎた真似をしました」
ああ、言い方間違えた。違うんです!
「そうではなくて! あの、言い方を間違えました。恥ずかしくて困っていたのは本当なので、助かったのは確かなのです。誰も動かない中反応してくださったのはギルベルト様だけでしたし、ありがとうございます」
「な、そ、そのような勿体無いお言葉、光栄ですが私は当然の事をしたまでの事で・・・・・・、」
吃りながら返事をしてくれたギルベルト様がみるみる内に赤くなっていく。あ! しまった。
「勝手に触ってしまってごめんなさい」
「いえ、喜びこそすれ、ではなく! その、謝られるような事では、」
「近い」
「ハイそこまで。少し離れましょうか」
「隊長」
「クルト様」
ギルベルト様はジュリアン様に襟を掴んで後ろに引かれ、僕はクルト様に抱き上げられた。でた、過保護兄。
「クルト様、降ろしてくださいませ」
一瞬忘れてたけど周りに騎士様が沢山いるんだよ! 抱き上げられてる所なんて見られたくないんですけど。恥ずかしいです!
「ユーリ、ダメだよ。ここはお前にとって獣の洞窟と同じくらい危険な所なんだ。さっさとアレを渡して出よう」
「まぁ! クルト様というものが、民の生活を守る誇り高き騎士様方へなんという仰り様ですか!? 貴方とジュリアン様の側以外では、彼らのいるここが一番安全だと、僕ですら知っていますよ」
ズシャ、と音がして振り返ると膝をついている騎士様が数人。なんで? 顔を戻すと、クルト様もジュリアン様も、それどころか殆どの騎士が顔を赤くしていた。なんだこれ。
「何事ですか・・・・・・?」
「いや、全方位爆撃しといてその反応はどうなんですかユーリ様」
「エイト? 正気に戻った?」
「はい、人のいる所でしていい事じゃありませんでした。ごめんなさい」
しゅんと項垂れるエイトに思わず、クルト様に抱えられたままおいでと手振りで近くに招き、頭を撫でた。
「もう、仕方ないんだから、エイトは。許してあげます」
「へへ」
「それにしても、いったいどんな鍛錬を積めばたった一週間でそんな体になるのです?」
「体? ああ、筋肉ですか? そうだ、聞いてくださいよユーリ様。ここの訓練、ほんっとスパルタなんですよ!」
「あらまぁ。・・・・・・そんなに辛いならやめてもいいんですよ? 他の方法を探してもいいし」
ゲーム(僕にとってはそうではないけれど)でまで辛い思いをする必要はないと思ってそう言うと、心外な事を言われたかの様に片眉をあげる仕草をした。
「はぁ? 辞めるわけないでしょ」
「ふふ、そっか。・・・クルト様」
呼びかけると言外の意を察してか、今度は降ろしてくれた。
インベントリから守りの香を取り出し、胸元の菱形に空いた穴から見える加護の印から力を掬い取り、香に刻印する。エイトを守ってくださいますように。
「これをエイトに」
手のひらに乗せ差し出す。エイトが珍しく躊躇う仕草を見せた。あ、これがそもそも何なのか分かるわけないか。
えーと、これの情報を出してくださいな、と。
ユーリの守り香(一級品)
※エイト・サワムラ専用装備
創造主の愛し子たる異界の姫の聖なる魔力を潤沢に使用した最上の逸品
姫の慈愛と祈りが宿るサクロの実を使用している為一定時間特別な力が宿る
但し飾り気のない陶器の器は質は良いが量産品の域を出ない為美術品としての価値はない。
器の聖刻へ個人の為の祈りがこもっている為、持ち主の手を離れても持ち主が念じる事で手元に出現させる事ができる。
装備中魔法防御力物理防御力上昇
使用効果継続時間:7時間
スキル:祈りの雨使用可能
瘴気・呪い無効・反射
魔法防御力物理防御力上昇
幸運+10
「これを見てくれれば、ってなんかストーカーみたいな機能がついちゃった・・・・・・」
って事は、クルト様とジュリアン様に渡した分にも?
「は? これを、俺に? 」
香と僕の間をエイトの視線が行ったり来たりしている。ふふ、ジュリアン様のデジャブを見てるみたい。
「うん。同じリベルなのに僕の騎士になってくれるんでしょう? 僕の騎士の証だとでも思って貰えれば」
目元を手で覆って隠したエイトから、力無い声が聞こえる。
「もちろんそうなれる様努力はしますし、諦めるつもりは一ミリもありません。・・・・・・でも、実際やって見て、やればやるほど、どのくらいかかるのかどんどん分からなくなって来ていて。そんな未熟な俺がこれを貰って良いのでしょうか・・・・・・」
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