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   どこを狙うべきか、狙いが決まらずに剣先がブレる。剣の未来を見れども、見れども決定打が全く見えない。


「不味いわねっ」


   振り回された足が横腹を抉る。ふらつきながら後方に飛んで態勢を立て直す。血がかなり勢いよく流れている。戦いの最中に止めるわ余裕もなく、見なかった振りをする。勝ち筋が見えない戦いは初めてだろうか。相手の追撃を捌ききれずに尻餅をつく。死の気配を感じて身を捻ると横の地面に右腕が降ってくる。

   ゴーレムの左手が振り回され下敷きにされる前に飛び退いて少し離れ息を整える。正面に構え直した両手の剣が震えているのが目に入って我に帰る。どうして一撃で仕留めようとしているのか。どんなに強い人でも攻撃が通じないことがあるのにまだまだ弱い私がなにを自惚れていたのだと。大きく息を吸った。脳に酸素が行き渡って止まっていた思考が動き出す。


「落ち着け、落ち着いて。相手の動きをしっかり読む…。出来る出来る」


   暗示のように剣の師匠達の言葉を脳に心に刻み込む。迷いが出ていた剣筋が軌跡を描くような洗練されたものに変わる。確実に刃が通る場所だけを狙い、少しずつ刃の通らなかったところに、剣筋が通るように削っていく。

   鋭く突いたゴーレムの肩からカキンっと音がして腕がごとりと下に落ちる。微動だにしない落ちた腕を見て、私は頰を緩めた。実力通りに動けば私の剣はこのゴーレムの強さに届く。あとは完璧に自分がやり切るだけ。


「きたっ。あと3つ?」


   全力で薙いだ剣が片足の核を砕く。核を壊したところは回復していく様子がない。格段と攻撃が避けやすくなり、攻撃を捌くための剣が減って手数が増えた。

   右手の剣を突き立て、左手の剣を振り切り、残りの核を剣で砕くと巨体が鈍い音を立てて地面に崩れた。剣で巨体を満遍なくつついて様子を見るがもう動きそうな感じはしない。手の甲で汗を拭い、剣についたゴーレムの破片を振って落としてから背中に背負う。ぶん投げた短剣も回収するが傷なく落ちていたのでよかった。


「ふぃー。終わっ」


   急に意識が遠くなる。怪我を負ったことを忘れていたが、血を流しすぎたのだろうか?確かに無茶をやり通した自覚はなくもないが。

   商人が馬車から様子を伺っているのが見えた。…不味い核を回収していない。高額で売れるから生活費のあてにしようとしていたのに。商人であればこんなお宝見逃さないだろう。だが、すでに時遅し。力が抜けた体が崩れ、ゴーレムの隣に伏せる。ぼやけていく意識のまどろみで微かに両親の影が見えた気がした。

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