黒崎くんと佐藤さん

金魚

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第零章

​蹂躙の始まり

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意識を浮上させたのは喉を焼くような不快な薬品の匂いと、逃れようのない「重み」だった。

​(……ここは……?)

​黒崎は重い瞼を押し上げた。

視界に飛び込んできたのは自分が寝かされていた客室の天井ではなく、見たこともない重厚な石造りの部屋。

そして、自分の自由が物理的に奪われているという現実だった。

​重厚なキングサイズのベッドの上、彼の四肢は太い革ベルトで四方に固定され、身動き一つ取ることができない。


​「ようやく目覚めたか。

……実に、美しい。
意識を失っている間も、君は私の想像を遥かに超える芸術品だったよ」


​傍らに立つ男、天童は、悦に浸った瞳で黒崎を見下ろしていた。
財閥の権力を盾に、美しいものを「モノ」として収集する歪んだ執着。

黒崎はその標的に選ばれたのだ。

​「……天童……さん……? なに、を……。放して、ください……」

​「放す? 冗談はやめてくれ。

君は今日、この瞬間に『人間』であることを辞めるんだ。

私の完璧な『コレクション』として、永遠に私の傍に置くためにね」

​天童の指先が、黒崎の形の良い耳たぶをなぞる。
その手には、鈍い銀の光を放つ太いリングピアスが握られていた。

​「……何、するんですか?放してっ…放せ……!」

​黒崎が声を荒らげ必死に腕を振りほどこうと抗う。
しかし天童は薄笑いを浮かべたまま、一切の躊躇なく、鋭利な銀の針を黒崎の右耳へと押し当てた。


​「……あっ!!?」


​熱い鉄条を通されたような激痛が走る。
麻酔などという慈悲はなく。

​生身の肉を強引に引き裂き、銀の輪が貫通する生々しい感触。
黒崎の口から短い悲鳴が漏れ、喉の奥が引き攣る。

銀の重みが耳に固定された瞬間、黒崎の瞳からそれまでの人生で培ってきた「他者への信頼」が、一滴の血と共に零れ落ちた。

天童は血に濡れた指で黒崎の震える唇をなぞる。


​「泣くことはない。
君の価値は、この痛みの先にあるのだから。

これから時間をかけて君のその美しい肢体のすべてに、私の所有印(ピアス)を刻んでいく」


​耳たぶから滴り落ちた一滴の血が、白いシーツに赤い染みを作る。

それは黒崎という一人の人間の尊厳が、天童の「コレクション」へと作り替えられていく、あまりに過酷な序章に過ぎなかった。



耳たぶを貫かれた衝撃に、黒崎の呼吸は荒く乱れる。
しかしまだ彼の瞳には強い拒絶の光が宿っていた。

​「……ふざけないで…、ふざける、な……誰が、……コレクションになんて……!」

​縛り付けられた手首を血が滲むほどに動かし、黒崎は天童を睨みつける。
その不屈の意志が、かえって天童の加虐心を煽ることに気づかぬまま。


​天童は黒崎の顎を乱暴に掴み、上を向かせた。

その指先には耳を通したものよりもさらに太い、冷徹な輝きを放つニードルが握られている。

​「その美しい唇で、二度と私に逆らえないようにしてあげよう」

​「…!?やめろ……! やめてくれ!!」

​黒崎が叫んだ瞬間。

容赦のない銀の針が、柔らかい下唇の中央を無慈悲に貫いた。

​「…………っ!!!」

​言葉にならない衝撃。

粘膜を引き裂き、神経を逆撫でする激痛が頭の中を真っ白に染め上げる。

耳とは比較にならない、生々しく熱い痛みが顔中を支配していく。

​天童は逃げ場のない黒崎の唇にゆっくりと、しかし確実に銀のリングピアスを通していく。

カチリ、と金属が噛み合う冷たい音が響き、黒崎の唇に「所有者の証」が固定された。


​「……あ、……ぅ……」

​叫ぼうとしても、唇を通る異物感と激痛がそれを阻む。

あふれ出た涙が耳元へ流れていく中、黒崎は己の言葉さえも物理的に奪われていく恐怖に身体を震わせるしかなかった。
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