黒崎くんと佐藤さん

金魚

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第二章:再生編

真の救済

​佐藤はゆっくりと、しかし確かな力で、黒崎に掴まれた自分の裾を解いた。

そして誘うように差し出された黒崎の手を、優しく押し戻す。

​「……黒崎くん、立って。
床に膝をつくのはもうやめようと言ったはずだ」

​佐藤の声はいつも通りの穏やかさを保っていたが、そこには一切の妥協を許さない「拒絶」の意志が込められていた。

​「私を痛くしてもいい……なんて、二度と言わないでくれ。
私は君を傷つけるためにここにいるんじゃない。
君が自分を傷つけることを許すために、君を連れてきたわけでもないんだ」

​「……っ、でも……! 
佐藤さんは、あの方と楽しそうに……。私がいなくても、あなたは……!」

​黒崎の声が震える。

独占したい。
自分だけの特別な「支配者」であってほしい。

その歪んだ情熱を受け流されたことに、黒崎は激しい焦燥を感じていた。

​佐藤は黒崎の肩を掴み、無理やり立たせると、そのまま壁際まで後退させて背中を預けさせた。

逃げ場をなくし、対等な視線の高さで向き合う。

​「いいかい、黒崎くん。
私が他の誰かと笑うのは、私が人間だからだ。
そして、君が私の前で笑ったり怒ったりするのも、君が人間だからであってほしい」

​「……私は、人間なんかじゃ……。
こんなに身体を汚されて、ご主人様がいなければ何もできない、ただの……っ」

​「天童は君に『痛み』を与えて君を縛った。
もし私が今、君の甘えを受け入れて君を特別扱いし共依存に陥れば、それは形を変えただけの別の『蹂躙』だ。

……私は、二代目の天童になるつもりはない」

​佐藤の言葉は、鋭いメスのように黒崎の歪んだ依存心を切り裂いた。

​佐藤は黒崎の頬を両手で挟み、まっすぐにその瞳を見つめた。

​「君が私を独占したいと思うのは、それだけ私を信頼してくれている証拠かもしれない。
それは嬉しいよ。
でも、その表現方法に『痛み』や『服従』を使わないでくれ。
……私と君の間には、鎖もピアスも必要ないんだ」

​「……佐藤、さん……」

​「君が私を必要とするように、私も、君という一人の人間が大切なんだ。
どちらかが上でも下でもない。
君がわがままを言っても、誰かと仲良くしても、私は君を捨てない。

……それを信じてほしい」

​佐藤は最後に、ポン、と優しく黒崎の頭を叩いた。
それはかつての「撫でる」動作よりもずっと軽く、対等な人間同士の親愛の証だった。

​黒崎は壁に背を預けたまま、呆然と佐藤を見つめていた。

力でねじ伏せるのではなく、言葉で、理性で、自分を一人の人間として繋ぎ止めてくれる佐藤の強さ。

​「……ごめんなさい……。私、また……醜いことを……」

​「いいんだ。何度間違えてもいい。
そのたびに、私は君を『黒崎くん』として呼び戻すから」

​佐藤はそう言って、台所に立った。

​「さあ、さっきの同僚がお土産にくれたクッキーがあるんだ。
三人分あったけど、あいつはもう帰ったから、二人で全部食べてしまおうか」

​佐藤の毅然とした態度により、黒崎は「依存」という甘い罠から一歩踏み出した。
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