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第三章 コラボはムリなんですが?
#07:嘘だろ、おい!
しおりを挟む綺麗な女の人だった。真っ赤な口紅が印象的で、サラサラのロングヘア、サングラスをしていても分かる目鼻立ちのハッキリした印象で、小顔な顔立ち。俺と同じくらいの背丈はあり高身長ではあったが、お高いハイブランドのトレンチコートに、赤と青のスカーフを首に巻いている。長いコートの裾からは白いパンツスーツが見えていて、真っ白なパンプスだった。
「えっと、俺ですか?」
「そう。他に誰がいるのよ」
サングラスを外して、頭に掛け直した女性は、ツカツカと俺に歩み寄って来た。
「ねぇ。この辺にある筈のオウミパティスリーって知らない?」
近江先輩が店を開いた店名のことだ。
「あ。それなら、この公園を抜けた反対側にあります。あそこ。外観がちょっと丸っこくて白いコンクリートの建物なんすけど。見えますか?」
俺は指を差して教えてあげた。
「あれね。ありがとう!」
女性は、またツカツカと店に向かって歩いて行った。
ハキハキと応じる声音が快活で、明るくて元気が溢れる体格会系にいそうな人にみえたから、大股で歩いていく姿もどこか清々しく美しかった。
「あ、そういや今日は休みじゃん!」
店のことを聞いてくるから単純に予約客かと思ったが、店が定休日であることを思い出して俺は駆け出した。
「すいませ―――!」
もう女性は店に着いていて、ドアを開けていた。声を掛ける直前に、俺は見てしまった。
女性の長い腕が、近江先輩の首に巻き付いて向き合うように抱きしめていた。
「…あ、嘘…」
ハッキリと、この目で、先輩の口に女性の唇が当たっている現場だ。
俺は、何を見せられているのか。来た道を戻るように部屋に戻った。コンビニに行く目的は、もう頭から抜けていた。
代わりに頭の中にあるのは、完全に二人が抱き合っていて、再会のキスシーンをしていたこと。
姉か親戚または従妹、姪であっても、店のオープンを祝いに来たところで、普通にキスなどしないだろう。キスをするってのは、親しく付き合っている人であって、故に彼女。あるいは元カノかもしれない。
間違っても親族ではないだろう。仮に、ただの友人で海外で言うフレンチキスみたいな挨拶と言われるなら、まだ分かるけど。ここは日本だ。
「はぁ。最悪だ」
俺の胸の内側にチリチリと感じるものが渦を巻く。正直、夢見の悪いものを見てしまった。ホラーやスプラッタ映画を見るほうがまだマシだ。
もてあます時間を次なる凸者からの相談事に目を通すのは大事なことだが、今の俺の脳内には全然入って来そうもない。
気分を変えてサブスクで加入しているストリーミング配信ネットフェリックス、通称ネトフェで最新ホラーを見ることにした。しかし実際にホラーを目にしても、俺の頭にはやっぱりイマイチ入って来なかった。
「はぁ。なんでだよ…もう!」
俺に新たな悩みができてしまった。好きな人には、女の影あり。異性との恋愛に敵うものはなく、仮に彼女との将来があるのなら、俺が間に入ることなどできないだろう。淡い恋心も抱くだけムダ。
近江先輩に問い質す必要はあるかもしれないが、自分の返事もままならない今、追及できる立場でもない。
モヤモヤとした気持ちの悪いものが、だんだんと広がってゆくように感じて、俺は横になり不貞寝を決め込むことにした。
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