追放された私はどうやら魔王だったらしいのだが、せっかくなので前々からなりたかった勇者を目指すことにしました

ihana

文字の大きさ
12 / 64
【第一章】 捨てられた少女

第一次試験

しおりを挟む
 急に一人になって寂しい思いをしてしまうも、こればっかりは仕方がない。

 さて、ここからどうしたものか。
 他の受験生の札をどうやって奪えばよいかに思考を巡らせる。
 あそこにいた人たちは恐らく実力者揃いであろうから、可能な限り戦闘をしない方向で札をゲットしていきたい。
 が、そんな方法は思い浮かばないのでやっぱり戦うしかないであろう。

「あれ……ちょっとまって、そもそも――」

 この街の誰が受験生なのか、わからないじゃん……。
 会場にいた人たちの顔なんて全然見ていなかった。
 自分が知っている人と言えば、メイリスさんくらいしかいない。

「あぅぅぅ、どどどどどうしよう、これじゃあ合格できない……」

 ウジウジしながらも、立ち止まっていても仕方がないと思い、街を歩き回ってみた。
 だが――、

  *

「はぁぁ……。ダメだ。見つかんない……」

 歩き回っているだけでいつの間にか夕方になってしまい、焦りだけが募っていく。
 物は試しにと人通りがほとんどない裏路地を探索してみたが、何の成果も得られなかった。

 このまま、何にもできないで勇者になるって夢は終わっちゃうのかなぁ……。

 タイムリミットまであと二日あるが、それを有意義に過ごせるとは思えず、冷や汗だけが流れていく。
 日が落ちると人そのものが見つからなくなってしまったため、仕方なく私は宿に帰ることにした。


 二日目。
 今日こそ受験生を見つけるぞ、と意気込んで街を歩いてみたのだが、

「あぅぅぅ。見つからない……」

 受験生二千人に対して、この街の人口は十万人ほど。
 2パーセントに巡り合うには相当な運が必要だ。
 こうなったら、やっぱり人と話すしかない。
 私としてはかなりハードルの高いことだが、ここで勇者試験は諦められない。

 小さめの路地でそれっぽい人を探して、勇気を振り絞って声をかけてみることにする。

「あ、あのっ!!」
「ん? なんだこいつ」

 三人組の男たちがチラと視線を向けてくる。

「あの、も、もし違ったら、その、も、申し訳、ないんですが、ゆゆゆゆ、勇者学園の受験者さん、とかじゃ、ないでしょうか……」

 男三人が互いに顔を見合わせて肩を竦める。
 この段階でだいぶ違う。
 あまりの居たたまれなさに、彼らが返答を述べる隙も無くその場から逃げようとしてしまった。

「あ、おい、ちょっと待てよ」
「ひぃぃ!」
「俺らはちげぇんだけどさ、それっぽい奴なら知ってるぜ」
「……え!? ほ、本当ですか!?」
「ああ、こっちだ、ついてきな」

 男たちがにんまりと笑っている。

「あ、ありがとうございますっ!」

 よかったぁぁ。
 やっぱり話しかけて正解だ。
 すんごく怖かったけど、親切な人もいっぱいいるんだなぁ。

 小通りを抜けてさらに薄暗い裏路地を進んでいく。

「そういや、なんで受験生を探してんだ?」
「あ、えっと、第一次試験が、その、受験性同士での札の奪い合いでして」
「なるほどな。それで探してるってわけか。ちょうどこの先だ。ちょっと覗いてみてくれ」

 男が唇を吊り上げている。

「あ、は、はい」

 曲がり角を除こうとしたのだが、途端に体が持ち上がった。

「え?」
「なっ! なんだこいつっ!?」

 男の一人が私の首を羽交い絞めにしようとして体が持ち上がったのだが――、
 常時展開している防御魔法に阻まれて絞めるには至っていない。

「あ、あの、ななな、何をされているのでしょうか?」
「ちぃ! お前ら手伝え!」

 三人がかりで私を拘束しようとしてくるのだが、魔法を纏っていない状態で不用意に私に触れることはできない。
 ……もしかして……この人たち、私のこと、騙してた?

「あの、何をされているんですか? 離れてもらえますか?」
「くっ! なんだこいつ!」
「ツラがいいからどこぞのお嬢様かと思ったら実力者か! ズラかるぞ!」

 暖簾に腕押し状態となっていた彼らは、やがて諦めたと思ったら顔を見合わせて逃げ出してしまった。

「あっ! ちょ、ちょっと」

 やっぱり、私、騙されてたんだ……。

 誰もいなくなってしまった通りでため息をついてしまう。
 騙されていたこと自体はあまり気にしていない。
 元々無茶なお願いをしてた身だし、もやもやとした気持ちがないかと言われたら嘘になるが、そんなことより今はやるべきことがある。

 はぁ……、結局振り出しか……。
 このまま、私落ちちゃうのかなぁ……。

 涙が出てきていたところで、背後から声をかけられた。

「ねえあなた、勇者学園の受験生?」

 話しかけてきたのは二十代の女性で、そのほかにも男が二人いる。

「え!? あ、は、はい、そうですけど……」
「ぶっ! あっはははは! まさかホントに「はい」って言う奴がいるなんてねっ!」

 三人になぜだか大笑いされてしまった。

「え? えっと? え?」
「はんっ、まったくどこの田舎娘よ。番号札を持ってるか否かが重要なのに、わざわざ正直に答える馬鹿がいるとは思ってなかったわ」

 あっ……、そっか。
 この試験は誰が受験生であるかがわからないところがポイントとなる。
 なので、たとえ受験生であったとしても、この問いかけには「いいえ」と答えるべきだ。
 一般人も当然いいえと答えるから、はいと答えた段階で相手が受験生だとわかる。

「さっ、札を渡しなさい。素直に渡すんなら痛い目を見ずに済むわ。でも、抵抗するんなら――」

 三人とも武器を構えてくる。
 男の方はハンマーと剣、女の人は鞭のようだ。

「お、お断りします!」
「ふっ。どうやら本物の馬鹿のようねっ! あんたたち、行きな!」

 男二人がその言葉を待っていたとばかりに飛び出してくる。

 えと、殺しちゃダメだから、でも、札は――って考えてる時間ないしっ!

「【ブレスファントム】!」

 エルガさんとの訓練の賜物であろう。
 思考せずとも、魔法を瞬時に発動できた。
 男どもが瞬き一つをする間もなく壁に激突する。

「へ?」
「あっ!!」

 ヤバいーっ!
 壁にすんごいめり込んでるっ!
 死んでないよね??

 相手を死傷させた場合は失格だし、そもそも人殺しなんてしたくない。

「あ、あんたっ! 何もn――」
「【アクセルバースト】」

 待っている余裕がないと判断した私はすぐさま地面に倒れる男どもの元へと飛び寄る。
 状態を確認すると、幸いにも死ぬようなケガではないようだ。

 はぁ……。よかった。死んでない。
 しかし……まさか防御魔法もかけてないなんて。
 油断が過ぎる気がするのだが。

「はんっ! よそ見とはいい度胸だな! 喰らいなっ! 【マジックロック】!」
「封印魔法?」
「そうさっ! あんた魔法使いだろ? 残念ながらあたしは封印魔法の適性者。魔法の使用は封印させてもらったよ」

 そのまま女性が鞭を振り回しながらこちらへ飛び込んでくる。

「さっさと札をよこしなっ!」

 だが、私は彼女の振るう鞭を片手で受け止めた。

「へあ!!?」
「鍛練不足ですね。目をつぶってても音だけで追えそうな速さでしたよ。それに、封印魔法ってそういう魔法じゃないです。【アクセルバースト】」

 加速魔法で一気に女性の元へ。
 ビーゼルさんとの戦闘で鍛え上げた体術により、すぐさま腕を取って組み伏せることに。

「【ホールドクラスト】」

 拘束魔法をかけて身動きを取れなくする。

「くそっ! このっ! なんで魔法が使えるっ! 放せや! このガキがっ!」

 あぅぅ。
 この人怖い。
 でも、怖がってばっかりはいられないよね。

「ふ、札を頂きます。わ、悪く思わないで下さい」
「ふざけんなっ! てっめ! ぶっ殺してやるっ! 試験期間はまだあんだぞ! 必ずてめぇを見つけ出して殺してやるっ!」

 彼女の懐に札があるのを見つけて、それを大事に鞄へとしまう。

「こ、殺したらあなたも失格になりますよ?」
「知るかボケェ! 試験に受かんなきゃ全部終わりだろうがっ! 学園の試験は今年が最初で最後だ! 落ちたら終わりなんだよ! だったらてめぇも巻き添えだ!」

 意味もなく、そんなことを……?

「そ、そしたら、私も自分たちの身を守るためにあなた方に危害を加えることにします」
「はんっ! 田舎娘に一体なにを――」
「【アストラルブレイク】」

 女性が手にしていた鞭に分解魔法をかける。
 すると鞭は砂へと変化してそのまま風に吹かれて飛んで行ってしまった。

「分解魔法と言います。人間にかけると皮膚がバラバラになって、肉が溶けていきます。それはそれは痛いそうです。一度だけ魔物に使ったことがありますが、のたうち回りながら長い時間をかけて死に絶えました」

 あまりの残虐性に、それをやったあとは一週間ほど、その魔物を供養しながら後悔したものだ。

「次来たらこれを使います。……それか、次でなくとも今ここで――」

 彼女の腕を掴んで、今ここでやってみせるぞと態度で示す。
 むろんそんなことをするつもりが、それだけで女性の顔は青くなってしまった。

「ひ、ひぃぃぃ! や、やめてくれっ! わかった、もう何もしない! しないからっ!」
「こ、これに懲りたら、悪いことはしないで下さいね」

 そのまま私は小走りでそこから逃げていくのだった。

 はぁぁ。
 そっか、気付いてなかったけど、札を取ったら残り期間も逃げ続けなきゃいけないのか……。
 ずっと逃げ続けるのは疲れそうだけど、頑張るぞ!
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

処理中です...