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自分の物語を紡ぐ本/テーマ:一冊の本
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ある日、本屋に来ていた綴里は、何かいい本はないかと、棚に並べられている本を見ていた。
だが結局、自分好みの本は見つからず、そのまま家へ帰ろうと本屋を出た。
「とくにすることもないし、今日は違う道を通ってみようかな」
気に入る本は見つからず、このまま家へ帰ったところですることもないため、今日はいつも通らない道を通り帰ることにしたのだが、歩いているうちに路地に入ってしまい、段々と道は狭くなる。
選ぶ道を間違えたかなと思ったとき、ようやく路地を抜けた。
すると目の前に、古びた建物があることに気づく。
看板を見ると、本屋とシンプルに書かれている。
「こんなとこに本屋さんなんてあったんだ」
古びた外観に、今でも営業しているのかすらわからないが、何かいい本が見つかるかもしれないと思った綴里は、店の扉から中の様子をうかがう。
店の中には誰一人としていないが、棚には本が並べられている。
そっと扉に手をかけると簡単に扉は開き、中へと入ると、本棚に並べられた本の数々に綴里は視線を向けた。
「何だか、見たことない本ばかり」
「当たり前だ。ここにある本は全部、小説家のタマゴが書いたものだからな」
誰もいないと思っていたのだが、いつの間にかレジ近くの壁に背を預け立っている男性の姿があった。
いつからいたのかわからないが、エプロンをしているところを見ると、どうやらこの店の人のようだ。
「小説家のタマゴって……」
「ここは、まだ世に出てない本を扱ってんだよ。まぁ、名も知られてないような本を買う客なんていないからな。来るのは少人数の客ばかりだ」
「そうなんですか。少し見ていってもいいですか?」
「ああ」
何だか感じの悪い人だが、気にせず並べられた本のタイトルを順番に見ていく。
男性の言った通り、作家の名前も知らない人ばかりだ。
小さな店で売られている作家のタマゴの本は珍しいものの、どれも綴里は手に取ることはなく、やっぱり自分好みの本はここにもないのかと思ったとき、ある本に目が止まり、気づけばその本を手に取っていた。
「この本をください」
「……何でこの本を選んだんだ?」
「他のと、何かが違ったからです」
柔らかな笑みを浮かべ答えると、男はフッと笑みを漏らす。
綴里が選んだ一冊の本。
それはタイトルがなく、作者の名もないものだった。
ただ表紙には、本を読む一人の女性のイラストが描かれている。
だがその表紙を見た瞬間、綴里は中身も見ずにレジへと持っていった。
どのタイトルや表紙を見ても、どれも買うとまではいかなかったというのに、何故かこの本に惹かれたのだ。
タイトルがなく、内容がわからない本。
だが、その表紙のイラストは、どこか他のとは違っていた。
早速家に帰って袋から本を取り出すと、表紙をめくる。
薄い本の中に書かれていたのは、一人の女性のお話。
とある古びた本屋に女性がやって来て、タイトルも作者の名も書かれていない本を買うというお話で、それはまるで綴里の事のようだった。
読み進めていくと、その女性はそのタイトルのない本を気に入り、その本を買った店を再び訪ねると、この本を書いた人は誰ですかと尋ねる。
すると、店の男性は、それを書いたのは私ですとこたえた。
「え、これで終わり?」
薄い本だとは思ったが、あまりの短さと続きが気になる内容に、翌日綴里は、またあの本屋へと来ていた。
「あの、この本の作者は何という方ですか? 続きを買いたいんですけど」
昨日の男性に尋ねると、男性はフッと笑みを漏らし口を開く。
「その作者は秘密。んで、続きは」
これからかな。
と耳元で囁かれるように言われ、綴里の頬は熱を持つ。
一冊の本を選んだ綴里だが、もしかしたら、本の方が綴里を選んだのかもしれない。
《完》
だが結局、自分好みの本は見つからず、そのまま家へ帰ろうと本屋を出た。
「とくにすることもないし、今日は違う道を通ってみようかな」
気に入る本は見つからず、このまま家へ帰ったところですることもないため、今日はいつも通らない道を通り帰ることにしたのだが、歩いているうちに路地に入ってしまい、段々と道は狭くなる。
選ぶ道を間違えたかなと思ったとき、ようやく路地を抜けた。
すると目の前に、古びた建物があることに気づく。
看板を見ると、本屋とシンプルに書かれている。
「こんなとこに本屋さんなんてあったんだ」
古びた外観に、今でも営業しているのかすらわからないが、何かいい本が見つかるかもしれないと思った綴里は、店の扉から中の様子をうかがう。
店の中には誰一人としていないが、棚には本が並べられている。
そっと扉に手をかけると簡単に扉は開き、中へと入ると、本棚に並べられた本の数々に綴里は視線を向けた。
「何だか、見たことない本ばかり」
「当たり前だ。ここにある本は全部、小説家のタマゴが書いたものだからな」
誰もいないと思っていたのだが、いつの間にかレジ近くの壁に背を預け立っている男性の姿があった。
いつからいたのかわからないが、エプロンをしているところを見ると、どうやらこの店の人のようだ。
「小説家のタマゴって……」
「ここは、まだ世に出てない本を扱ってんだよ。まぁ、名も知られてないような本を買う客なんていないからな。来るのは少人数の客ばかりだ」
「そうなんですか。少し見ていってもいいですか?」
「ああ」
何だか感じの悪い人だが、気にせず並べられた本のタイトルを順番に見ていく。
男性の言った通り、作家の名前も知らない人ばかりだ。
小さな店で売られている作家のタマゴの本は珍しいものの、どれも綴里は手に取ることはなく、やっぱり自分好みの本はここにもないのかと思ったとき、ある本に目が止まり、気づけばその本を手に取っていた。
「この本をください」
「……何でこの本を選んだんだ?」
「他のと、何かが違ったからです」
柔らかな笑みを浮かべ答えると、男はフッと笑みを漏らす。
綴里が選んだ一冊の本。
それはタイトルがなく、作者の名もないものだった。
ただ表紙には、本を読む一人の女性のイラストが描かれている。
だがその表紙を見た瞬間、綴里は中身も見ずにレジへと持っていった。
どのタイトルや表紙を見ても、どれも買うとまではいかなかったというのに、何故かこの本に惹かれたのだ。
タイトルがなく、内容がわからない本。
だが、その表紙のイラストは、どこか他のとは違っていた。
早速家に帰って袋から本を取り出すと、表紙をめくる。
薄い本の中に書かれていたのは、一人の女性のお話。
とある古びた本屋に女性がやって来て、タイトルも作者の名も書かれていない本を買うというお話で、それはまるで綴里の事のようだった。
読み進めていくと、その女性はそのタイトルのない本を気に入り、その本を買った店を再び訪ねると、この本を書いた人は誰ですかと尋ねる。
すると、店の男性は、それを書いたのは私ですとこたえた。
「え、これで終わり?」
薄い本だとは思ったが、あまりの短さと続きが気になる内容に、翌日綴里は、またあの本屋へと来ていた。
「あの、この本の作者は何という方ですか? 続きを買いたいんですけど」
昨日の男性に尋ねると、男性はフッと笑みを漏らし口を開く。
「その作者は秘密。んで、続きは」
これからかな。
と耳元で囁かれるように言われ、綴里の頬は熱を持つ。
一冊の本を選んだ綴里だが、もしかしたら、本の方が綴里を選んだのかもしれない。
《完》
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