1話完結のSS集

月夜

文字の大きさ
22 / 101

転生者

しおりを挟む
 人は死ぬと無だとか、生まれ変わるとか言われているけど、結局どうなるかなんて死んだ者にしかわからない。

 でも、前世の記憶を持って生まれた人が現実に存在するため、生まれ変わりはあるのだろう。

 死んだあとにも新しい人生があるのだと思うと、死も少しは怖くなくなる。
 物語では、死んだあとに生まれ変わることを転生とよくきく。



「神様、自分から命を手放したり私も、転生できますか」



 神に問いかけたその言葉とともに、私はマンションの屋上から落ちた。

 真っ暗な世界、何もしようとは思えないし、自分が何故今こうなっているのかもわからない。
 ただ瞼を閉じた真っ暗な世界にいた。



「き……ゆき……美雪みゆき!!」



 煩い声に閉じていた瞼を上げると、何故か私は抱きしめられていた。

 訳もわからず私は救急車で病院に運ばれ検査をされたが異常はなく、看護師さんの話によりと私は車に跳ねられたらしい。

 とくに異常もなかったため直ぐに帰れることになったが、ずっと私のそばにいるこの人は何者なのか。



「異常もなくてよかったよ。じゃあ、帰ろうか」

「帰るって何処に?」

「何処にって、勿論僕達の家だよ」



 先程から何一つ理解できていないが、兎に角私が車に跳ねられた事だけはわかった。

 でも、僕達の家とか美雪とかこの場所とか、私は全く知らない。
 そもそもこの人と一緒に暮らしているということは同棲か結婚しているということなのだろうか。



「あの、私と貴方はどういった関係なんでしょうか」



 車に乗り、発進させようとした車内で問いかけた私の言葉に、男性は驚いた表情を見せたが、直ぐに視線を前に戻し車を走らせる。

 きっと事故で混乱しているのだろうと、1つずつ話してくれる。

 男性の名は山中やまなか やまなか とも
 そして私の名前は時奈 美雪みゆき
 同じ23歳、交際して3年。
 今は一緒に同棲をしているらしい。

 ここまで聞いても全く思い出せないどころか、まるで自分ではない別の誰かの人生のように思えてしまう。

 智さんがいうように混乱しているだけなんだろうと思うことにして、私は同棲しているというマンションの部屋へと入る。



「美雪の部屋はそこだよ。今日は色々あったし休むといいよ」

「はい、ありがとうございます」



 私は自分の部屋に入ると、姿見を見る。
 自分の姿だというのにやっばりわからない。

 次に目に入ったのは写真立て。
 手に取ると、そこには智さんと私が写っている。

 何もわからないことが怖くて、私は布団を頭から被り目をぎゅっと瞑る。
 まるで自分だけがこの世界の人間ではないような恐怖。
 でもきっと思い出せる。
 今は混乱してるだけ。


 翌日。
 やっぱり何も思い出せていない。
 昨日はあのまま眠ってしまったため、タンスから着替えを出すとお風呂場へと行く。

 通路にある扉が3つと、奥はリビングのようだ。
 ということは、3つのうち1つは智さんの部屋で残り2つがお風呂かお手洗いということになる。

 私は1つの扉をまず開けてみると、そこはお風呂場。
 扉を閉めて着替えとタオルをカゴに置き、お風呂に入る。

 ちゃんと温かさも感じで感覚もある。
 やはりこの身体は私のだと実感して少し安心できた。


 お風呂から出ると、リビングから音が聞こえ扉を開ける。
 そこには起きていた智さんの姿があり、テーブルには朝食が用意されていた。



「すみません、作っていただいて」

「僕達は恋人同士なんだから遠慮することはないよ」



 優しい私の恋人、幸せな朝。
 でも、いつもと何かが違う。
 その違和感が何なのかわからない。

 朝食を食べ終わると、智さんは仕事へ行ってしまい、私は一人になった。

 兎に角家の中を把握しておこうと、部屋を見て回る。
 まず今いるリビング。
 そしてお風呂の横がお手洗いだった。
 残りは智さんの部屋と思われるところだけだが、人の部屋に勝手に入ることに少し躊躇ってしまう。

 少しでも思い出せれば智さんに心配をかけなくて済むと思い、思い切って中へと入る。
 部屋にはベッドにタンス、本棚とシンプル。

 特に思い出すことはなかったため部屋を出ようとしたとき、写真立てが目に入り手に取る。
 私の部屋にあったのと同じ写真。
 早く思い出せたらいいのになと心で思いながら写真立てを戻そうとしたとき、写真立ては床に落ちてしまった。

 後ろの蓋が外れ中の写真がでてしまったので慌てて拾うと、写真が二枚あることに気づく。
 どうやら重なっていたようだ。

 なんの写真だろうかと手に取ったとき、私は一気に血の気が引いた。
 何故ならその写真はもう一枚と同じものなのに、私の顔が黒く塗り潰されていたから。

 兎に角元に戻しておいて、何事もなかったように仕事から帰ってきた智さんを迎える。



「お疲れ様です。朝は作っていただいたので、夕食は作らせてもらいました」

「ありがとう。あれ? 顔色悪いけど大丈夫?」



 顔を覗きこまれ体が強張るが、なんでもないですよと言いリビングへ行く。


 翌朝。
 今日は朝食も私が作り智さんが仕事へ行くのを見送ると、再び智さんの部屋へと入った。

 あの写真は何だったのか、私が何なのかわかるかもしれないと、部屋の中に何かないかと探していると、小説が並べられている本棚に一冊だけアルバムが紛れていた。

 手に取り開いてみると、そこには智と誰かが写った写真。
 誰かというのはきっと私なんだろう。
 なぜ曖昧なのかというと、どの写真も顔が黒く塗り潰されていたからだ。



「やっぱり見たんだね」



 突然の耳元で聞こえた声に驚きアルバムを落とす。



「智、さん……仕事に行ったはずじゃ」

「昨日から様子がおかしかったから、記憶が戻ったのかなって」



 顔は笑っているのに、智さんが怖くて後ずさる。



「事故に見せかるつもりだったのに。まぁ、次はしっかり殺してあげるからさ」

「どうして……」



 どこからか取り出したナイフで私は刺され、マンションの屋上から落とされた。

 でも何故か、この感覚には覚えがある。
 そう、私は転生していたんだ――。


《完》
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

先生の秘密はワインレッド

伊咲 汐恩
恋愛
大学4年生のみのりは高校の同窓会に参加した。目的は、想いを寄せていた担任の久保田先生に会う為。当時はフラれてしまったが、恋心は未だにあの時のまま。だが、ふとしたきっかけで先生の想いを知ってしまい…。 教師と生徒のドラマチックラブストーリー。 執筆開始 2025/5/28 完結 2025/5/30

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...