1話完結のSS集

月夜

文字の大きさ
41 / 101

もう一度会えたなら/テーマ:この仕事を始めた理由

しおりを挟む
 私には、小学生の頃からの夢があった。
 それは、薬を開発する研究者になること。
 でも、当時の私の周りに同じ夢を持つ者はおらず、その上、私の成績が悪いということもありバカにされた。

 頭が良くなきゃなれっこない。
 それが将来の夢なんて変なの。

 そんなことを言われ続けた。
 そして、それは両親も同じだった。



「もうすぐ貴女は中学生になるんだから、せめて大学くらいは行っていいところに就職しなさい」



 母はその後付け足すように言う。
 夢は夢で終わらせなさい・・・・・・・・・・・、と。
 その言葉は、夢は叶わないと言われたも同然だった。


 それから時は過ぎ、私は両親が望んだ通り高校に入学した。
 だがその高校は普通のところではなく、製薬開発技術者を目指す者の学校。
 私はその大学で新薬開発のための製造技術の開発、研究など、それぞれの専門分野をもとに、製薬に関わる研究を行った。

 勿論大学に入るのも簡単ではなく、勉強もだが、両親の反対があったのは私にとって辛いものだった。
 両親には、何度も普通の大学に行くだけでいいと言われたが、私はこの大学にしか興味はなく、他を受けるつもりなんて最初からない。

 受からなかったらどうするつもりなのかと言われたが、私は両親の言葉も無視して必死に頑張り、そして見事合格することができた。

 だがこれで終わりではなく、ようやく夢に近づいたというだけでしかない。
 合格すると両親達の反対はなくなったが、大学から近い場所で私は独り暮らしを始めた。


 それから数年後──。



「若博士、聞きましたよ。新しい新薬を開発されたんですよね」

「ええ。って、その若博士ってやめてくれないかな」

「何言ってんですか! 大学卒業後、凄い新薬を開発して、そこから一気に俺達なんか足元にも及ばない、今じゃあ若博士じゃないですか」



 そう、私は必死に頑張った。
 その結果、大学の研究機関に就職し、その後いくつかの新薬を開発した天才として名が知られた。
 今では研究者の仲間が私を尊敬し、若くして天才となった私を若博士として呼ぶ。
 なんだか博士と呼ばれることに違和感しかないのだが、私の今は充実している。



「そういえば若博士って、なんで研究者になったんですか?」

「憧れ、かな」

「若博士が憧れるほどの人ってどんな人なんですか?」



 興味津々といった様子で尋ねてくるが、私は秘密と答えた。
 そして頭の中では、あの日のことを思い出す。

 あれはまだ私が保育園の頃の話し、家の近所に暮らす大好きなお兄さんがいた。
 そのお兄さんは研究者で、薬を研究する仕事をしていたのだが、新薬の開発が簡単にできるはずもなく、お兄さんはこれといった成績を残すこともできずにいた。

 そんなある日、私が高熱を出して寝込んでいると、微かに声が聞こえてくる。
 熱のせいか、その声はどこか遠い。



「これを飲んだら治るからね」



 私の意識はそこで途絶え、どうやら寝てしまったらしく、目を覚ました私は高熱が嘘の様に引いて、1日でいつもの元気な状態に戻っていた。

 昨日お兄さんが来て薬を飲んだところまでは覚えている。
 きっとあの薬のお陰に違いない。



「風邪が治ったばかりなのにどこへ行くの?」

「お兄さんのお家!」



 直ぐにお礼を伝えたい。
 そう思ったのに「もうお兄さんはいないのよ」と母は言う。
 何でか聞いたけど母は答えてくれず、それから私が小学五年生になった頃、母から真実を聞かされた。

 発売前の薬を私に飲ませたことにより、お兄さんは研究者としての人生を捨てたことを。
 その薬はお兄さんが開発したもので、すでに安全性も確認されていたため販売は決まっていた。

 だがその薬をお兄さんは私に飲ませた。
 販売前だった薬を。
 話さなければ誰にもわからなかったことなのに、お兄さんは自分のしたことを正直に話したらしい。

 それを私に知られたくなくて、お兄さんは引っ越した。
 私が傷つかないように。
 幼い頃の私なら、それがどんなことなのかはわからなかっただろう。
 でも、大人になるにつれて、私が責任を感じてしまうんじゃないかとお兄さんは考えたようだ。

 でも私がその話を聞いたあとの気持ちは違った。
 自分のせいでという気持ちはあったけど、私はあの薬がお兄さんの開発したものだったんだと知って、凄いと思った。

 その後、その薬は予定通り販売されたらしいけど、お兄さんは自分のしたことが間違っていたと、研究者としての仕事を自ら辞めた。

 でも今は、私がお兄さんと同じ研究者になっている。
 それも全て、お兄さんがあの薬を私に飲ませてくれたから。

 あんな薬が作れて、あれだけ苦しかった症状が直ぐに治った。
 それは幼い私にとっては魔法みたいで、私もお兄さんみたいな薬を作りたいと思いこの仕事を始めた。

 きっと今も私の開発した新薬で、あのときの私のように救われてる人がいるのかなと考えると、自然と心があたたかくなる。



「どうしたんですか? いつも険しい顔してるのにそんな嬉しそうな顔して」

「いいのよ。ほら、あの薬品持ってきて」



 今もどこかにいるお兄さんにもう一度会えたなら、あの時のお礼を伝えたい。
 私に素敵な夢をくれてありがとうの言葉と共に。


《完》
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ウインタータイム ~恋い焦がれて、その後~

さとう涼
恋愛
カレに愛されている間だけ、 自分が特別な存在だと錯覚できる…… ◇◇◇ 『恋い焦がれて』の4年後のお話(短編)です。 主人公は大学生→社会人となりました! ※先に『恋い焦がれて』をお読みください。 ※1話目から『恋い焦がれて』のネタバレになっておりますのでご注意ください! ※女性視点・男性視点の交互に話が進みます

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...