11 / 101
理由は一つ/テーマ:春の月【リクエスト:桜 様】
しおりを挟む
今年もこの季節がやって来た。
春。
それは、この女にとって待ちに待った季節だ。
何故春を待っていたのか。
それは、春になると城にやって来る、ある武将がいるからだ。
女が十の頃に初めてやって来たその武将は、自分と同じ十の男だった。
城ばかりにいる女に同い年の友達などいるはずもなく、最初はどう接したらいいのかわからずにいたのだが、男は女に近づくと、城の外を見せてもらえないかと声をかけてきた。
「ええ、いいわよ」
女は男を城の外へと案内する。
すると男は一本の桜の木の前で立ち止まり、綺麗だと呟いた。
そんなに桜が珍しいのか尋ねると、男は嬉しそうに、これが桜なのだなと言う。
話によると、男の城には桜の木はなく、見に行こうにも許可などされるはずもないまま気づけば十となり、いままで一度も桜を見たことがなかった。
初めて見る桜に瞳を輝かせる男。
そんな男に女は言った。
春になればこの桜は毎年咲くから、また来年ここへ見に来ればいいと。
それから毎年桜が咲く季節になると、男は城を訪れた。
そして現在、二人はすでに二十。
二人がであって十年目の春だ。
だが、城の外に出た女は暗い表情をする。
いつもなら咲く頃だというのに、桜は蕾のままだ。
もうじき男が来るというのに、桜が咲かなければ意味がない。
いままでこんなことはなく、何故桜が咲かないのかもわからない。
男が来たらガッカリされてしまうかもしれない。
それどころか、もう来てくれなくなるかもしれないと思うと、表情は暗くなり顔を伏せてしまう。
「まだ咲いていないんだな」
「っ、秀吉様」
背後から聞こえた声に振り返れば、そこには待ちに待った人物の姿があった。
一年ぶりに会った秀吉は、去年よりも男らしく見える。
だが、今はそんなことを考え胸を高鳴らせている場合ではない。
毎年桜を見に訪れてくれているというのに、肝心の桜が咲かなければ意味がない。
悲しげな女の頭の上に秀吉の手が乗せられると、久しぶりに会ったのだから部屋で話そうと言い、女の腕を掴み引っ張っていく。
部屋で向かい合い座る二人だが、女の表情は暗いままだ。
「桜が咲かないのが悲しいのか?」
「違うのです。秀吉様に桜を見せられないことが嫌なのです」
本当は違う。
桜が見せられないからではなく、秀吉が来なくなることが嫌なのだ。
だが、そんなこと言えるはずがない。
こんな自分の想いなど伝えても、秀吉を困らせてしまうだけ。
膝に置かれた女の手には力が込められ、気持ちを伝えられない情けない自分が嫌になるのを感じていると、女の手に秀吉の手が重ねられ、驚きに顔を上げると、秀吉の額が女の額に当てられた。
優しい声音で聞こえたのは、お前の気持ちはわかっている、という秀吉の言葉。
一体いつから気づいていたのか尋ねると、最初からだと笑う。
そんなに前からだったとは思わず頬を桜色に染めると、ここに桜が咲いたな、と秀吉は笑みを溢す。
女が怒ってそっぽを向くと、俺はお前が好きになる前から好きだったと聞こえ視線を戻すと、頬を掻きながら照れくさそうにしている秀吉の姿がありクスッと笑みを溢すと、それから二人は毎年のように、この一年で会ったことをお互いに話した。
すると、いつの間にか部屋は暗くなり、夜になってしまったことに気づく。
「少し城の外に出ないか」
「でも、桜は蕾のままで……」
再び顔を伏せそうになった女の腕を掴み立ち上がらせると、行こうぜ、とニッと笑みを浮かべ、女を外へと連れ出した。
暗い中歩いていると、桜の木がある場所まで辿り着く。
だが、折角蕾だけでも思っていたのに、こうも真っ暗では見ることはできない。
残念ですが戻りましょうと、桜の木に背を向けたその時、頭上から何かが降ってくると、女の横を遮った。
先程まで真っ暗で何も見えなかったというのに、今は地面に自分の影と、桃色の何かが見え振り返る。
すると、満開に咲く桜を月が照らしている光景が、女の瞳を輝かせる。
「さっきのは嘘なんです。本当は、桜が咲かなかったら秀吉様がここに来る意味がなくなってしまうと思って」
綺麗な光景を見ていたら、先程言えなかった気持ちが簡単に口からこぼれ落ちた。
そんな女の言葉に秀吉は笑みを浮かべ、理由ならあるだろと言い唇を重ねた。
最初は桜を見に来ることが理由だった。
でも今は違う。
女に会うためにここへ来る。
ただそれだけだ。
《完》
春。
それは、この女にとって待ちに待った季節だ。
何故春を待っていたのか。
それは、春になると城にやって来る、ある武将がいるからだ。
女が十の頃に初めてやって来たその武将は、自分と同じ十の男だった。
城ばかりにいる女に同い年の友達などいるはずもなく、最初はどう接したらいいのかわからずにいたのだが、男は女に近づくと、城の外を見せてもらえないかと声をかけてきた。
「ええ、いいわよ」
女は男を城の外へと案内する。
すると男は一本の桜の木の前で立ち止まり、綺麗だと呟いた。
そんなに桜が珍しいのか尋ねると、男は嬉しそうに、これが桜なのだなと言う。
話によると、男の城には桜の木はなく、見に行こうにも許可などされるはずもないまま気づけば十となり、いままで一度も桜を見たことがなかった。
初めて見る桜に瞳を輝かせる男。
そんな男に女は言った。
春になればこの桜は毎年咲くから、また来年ここへ見に来ればいいと。
それから毎年桜が咲く季節になると、男は城を訪れた。
そして現在、二人はすでに二十。
二人がであって十年目の春だ。
だが、城の外に出た女は暗い表情をする。
いつもなら咲く頃だというのに、桜は蕾のままだ。
もうじき男が来るというのに、桜が咲かなければ意味がない。
いままでこんなことはなく、何故桜が咲かないのかもわからない。
男が来たらガッカリされてしまうかもしれない。
それどころか、もう来てくれなくなるかもしれないと思うと、表情は暗くなり顔を伏せてしまう。
「まだ咲いていないんだな」
「っ、秀吉様」
背後から聞こえた声に振り返れば、そこには待ちに待った人物の姿があった。
一年ぶりに会った秀吉は、去年よりも男らしく見える。
だが、今はそんなことを考え胸を高鳴らせている場合ではない。
毎年桜を見に訪れてくれているというのに、肝心の桜が咲かなければ意味がない。
悲しげな女の頭の上に秀吉の手が乗せられると、久しぶりに会ったのだから部屋で話そうと言い、女の腕を掴み引っ張っていく。
部屋で向かい合い座る二人だが、女の表情は暗いままだ。
「桜が咲かないのが悲しいのか?」
「違うのです。秀吉様に桜を見せられないことが嫌なのです」
本当は違う。
桜が見せられないからではなく、秀吉が来なくなることが嫌なのだ。
だが、そんなこと言えるはずがない。
こんな自分の想いなど伝えても、秀吉を困らせてしまうだけ。
膝に置かれた女の手には力が込められ、気持ちを伝えられない情けない自分が嫌になるのを感じていると、女の手に秀吉の手が重ねられ、驚きに顔を上げると、秀吉の額が女の額に当てられた。
優しい声音で聞こえたのは、お前の気持ちはわかっている、という秀吉の言葉。
一体いつから気づいていたのか尋ねると、最初からだと笑う。
そんなに前からだったとは思わず頬を桜色に染めると、ここに桜が咲いたな、と秀吉は笑みを溢す。
女が怒ってそっぽを向くと、俺はお前が好きになる前から好きだったと聞こえ視線を戻すと、頬を掻きながら照れくさそうにしている秀吉の姿がありクスッと笑みを溢すと、それから二人は毎年のように、この一年で会ったことをお互いに話した。
すると、いつの間にか部屋は暗くなり、夜になってしまったことに気づく。
「少し城の外に出ないか」
「でも、桜は蕾のままで……」
再び顔を伏せそうになった女の腕を掴み立ち上がらせると、行こうぜ、とニッと笑みを浮かべ、女を外へと連れ出した。
暗い中歩いていると、桜の木がある場所まで辿り着く。
だが、折角蕾だけでも思っていたのに、こうも真っ暗では見ることはできない。
残念ですが戻りましょうと、桜の木に背を向けたその時、頭上から何かが降ってくると、女の横を遮った。
先程まで真っ暗で何も見えなかったというのに、今は地面に自分の影と、桃色の何かが見え振り返る。
すると、満開に咲く桜を月が照らしている光景が、女の瞳を輝かせる。
「さっきのは嘘なんです。本当は、桜が咲かなかったら秀吉様がここに来る意味がなくなってしまうと思って」
綺麗な光景を見ていたら、先程言えなかった気持ちが簡単に口からこぼれ落ちた。
そんな女の言葉に秀吉は笑みを浮かべ、理由ならあるだろと言い唇を重ねた。
最初は桜を見に来ることが理由だった。
でも今は違う。
女に会うためにここへ来る。
ただそれだけだ。
《完》
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ウインタータイム ~恋い焦がれて、その後~
さとう涼
恋愛
カレに愛されている間だけ、
自分が特別な存在だと錯覚できる……
◇◇◇
『恋い焦がれて』の4年後のお話(短編)です。
主人公は大学生→社会人となりました!
※先に『恋い焦がれて』をお読みください。
※1話目から『恋い焦がれて』のネタバレになっておりますのでご注意ください!
※女性視点・男性視点の交互に話が進みます
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる