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その瞳に嘘はない
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人は変われる。
そう言った花ちゃんに私は「変われないよ」と小さな声で口にすれば、両肩を掴まれてまた同じ言葉を言われた。
真っ直ぐに私を見るその瞳から逃げるように視線を逸らそうとすれば、肩を掴んでいた手が私の両頬を挟んでぐっと前に向かせる。
「変われるんだ。そうしないのはお前自身が変わろうとしないからだ」
何も言い返せない。
変われるのに変わろうとしない自分自身に気づいているから。
髪の手入れなんてしてないボサボサな髪。
いつも顔を伏せて人を避ける自分。
そんなだからイジメられ、からかわれるなんてことはわかってる。
それでも変わろうとしないのは、変わることが怖いから。
なのに花ちゃんは私に変われと言う。
「イヤだ。怖いもん……」
「おまえが変わっても俺はおまえの側にいる。だから怖がるな」
花ちゃんの優しい瞳が私は好きであり苦手だ。
その瞳で言葉で、大丈夫だと思えてしまうから。
それから数日が過ぎた月曜日。
私は久しぶりに学校へと向かった。
ガヤガヤと騒がしい廊下を歩き教室が近づくと、私の心臓は早鐘を打つ。
やっぱり教室に入れないと思ったとき「大丈夫だ」と言う花ちゃんの声が頭の中で聞こえた。
昨日花ちゃんが私に言ってくれた言葉。
私は心の中で「大丈夫」と唱えて教室へと入る。
周りの視線が自分に向けられているのに気づいたが、視線は真っ直ぐにして席に座る。
「うそー、本当に地味暗ー?」
「ボサボサな髪どうしちゃったわけ?」
「これじゃあ地味暗って私達がつけた名前似合わないじゃーん」
私をイジメてた三人の女子が近づいてきて投げかけてくる言葉。
その声を聞くだけで手に力が入り、視線を逸したいと思ってしまう自分を押さえ込む。
ここで逸らしたら、本当の意味で変わったことにならない。
彼女達を真っ直ぐに見ると、三人は顔を見合わせ顔を歪めた。
教室にいる生徒はみんなこちらに注目している。
「なんかつまんないしいこー」
「そうだね」
「ホントだよねー」
三人が私の側から離れていくと、一気に緊張が解けて身体の力が抜けたのがわかる。
ボサボサだった髪を綺麗にして、目が隠れるくらい長かった前髪を切っただけなのに、あれほど怖かった三人が私をからかう事なく離れていくのを見て、自分は変わったんだと実感すると、少し離れた席からこちらを見ていた花ちゃんと目が合いニッと笑みを向けられた。
私も口元に少しの笑みを浮かべる。
教室はいつの間にかガヤガヤと再び騒がしさを取り戻し、チャイムが鳴り響く。
「な、変われただろ」
「うん、ありがとう。全部花ちゃんのお陰だよ」
イジメられて学校に行かなくなった私の元に毎日プリントを届けに来てくれた花ちゃん。
最初はそんな情けない自分を見られたくなくて会うことが出来なかった。
そんな私にイラついたらしく、ある日突然、花ちゃんは部屋の扉を勢いよく開けて入ってくると「いつまで引き篭もってるつもりだよ!」と開口一番に言った。
それから毎日私の部屋にズカズカ入って来ては、その日に出た宿題などを一緒にさせられたけど、無理に学校に連れて行くことはしなかった。
そんな花ちゃんが変わる勇気をくれたから、今私はこうして学校にいる。
お昼休みの屋上で、一緒にお弁当を食べながら思い出すのは自分が変わった事でも、私をイジメてた三人の女子の事でもない。
花ちゃんと過ごした時間のことばかり。
「んじゃ、礼として玉子焼きもーらい」
ほいっと取られた玉子焼き。
また花ちゃんとこんな風に過ごせるなんて思わなかった。
家が近い花ちゃんとは小さい頃から一緒で、高校生になってもその関係は変わらなかった。
私が高校に行くと言えば、花ちゃんも行くと言って同じところを受け二人合格。
ずっと私の後を花ちゃんがついてきてるような感覚だったけど、本当は違うんだって気づいた。
「花ちゃんって、私の事が心配だから側にいてくれてるの?」
自意識過剰だろうかと思いながら尋ねたら「気づいてなかったのかよ」と笑みを向けられ、私は本当にいい友達を持ったなとしみじみ思う。
私は知らず知らずの間に、花ちゃんに守られていたみたい。
「じゃあ、私は花ちゃんを守る」
「ばーか、おまえに守られるようになったらおしまいだっつーの」
誰も来ない屋上には、私と花ちゃんの笑い声が響き渡る。
今まで私は何を怖がっていたんだろう。
頼りになる友達がずっと側にいたのに。
「いい友達をもったなー」
空を仰いで大きな声で呟けば「だろ?」と目を細めて笑みを向けてくる花ちゃん。
やっぱり私はこの優しい瞳が好きであり苦手だ。
《完》
そう言った花ちゃんに私は「変われないよ」と小さな声で口にすれば、両肩を掴まれてまた同じ言葉を言われた。
真っ直ぐに私を見るその瞳から逃げるように視線を逸らそうとすれば、肩を掴んでいた手が私の両頬を挟んでぐっと前に向かせる。
「変われるんだ。そうしないのはお前自身が変わろうとしないからだ」
何も言い返せない。
変われるのに変わろうとしない自分自身に気づいているから。
髪の手入れなんてしてないボサボサな髪。
いつも顔を伏せて人を避ける自分。
そんなだからイジメられ、からかわれるなんてことはわかってる。
それでも変わろうとしないのは、変わることが怖いから。
なのに花ちゃんは私に変われと言う。
「イヤだ。怖いもん……」
「おまえが変わっても俺はおまえの側にいる。だから怖がるな」
花ちゃんの優しい瞳が私は好きであり苦手だ。
その瞳で言葉で、大丈夫だと思えてしまうから。
それから数日が過ぎた月曜日。
私は久しぶりに学校へと向かった。
ガヤガヤと騒がしい廊下を歩き教室が近づくと、私の心臓は早鐘を打つ。
やっぱり教室に入れないと思ったとき「大丈夫だ」と言う花ちゃんの声が頭の中で聞こえた。
昨日花ちゃんが私に言ってくれた言葉。
私は心の中で「大丈夫」と唱えて教室へと入る。
周りの視線が自分に向けられているのに気づいたが、視線は真っ直ぐにして席に座る。
「うそー、本当に地味暗ー?」
「ボサボサな髪どうしちゃったわけ?」
「これじゃあ地味暗って私達がつけた名前似合わないじゃーん」
私をイジメてた三人の女子が近づいてきて投げかけてくる言葉。
その声を聞くだけで手に力が入り、視線を逸したいと思ってしまう自分を押さえ込む。
ここで逸らしたら、本当の意味で変わったことにならない。
彼女達を真っ直ぐに見ると、三人は顔を見合わせ顔を歪めた。
教室にいる生徒はみんなこちらに注目している。
「なんかつまんないしいこー」
「そうだね」
「ホントだよねー」
三人が私の側から離れていくと、一気に緊張が解けて身体の力が抜けたのがわかる。
ボサボサだった髪を綺麗にして、目が隠れるくらい長かった前髪を切っただけなのに、あれほど怖かった三人が私をからかう事なく離れていくのを見て、自分は変わったんだと実感すると、少し離れた席からこちらを見ていた花ちゃんと目が合いニッと笑みを向けられた。
私も口元に少しの笑みを浮かべる。
教室はいつの間にかガヤガヤと再び騒がしさを取り戻し、チャイムが鳴り響く。
「な、変われただろ」
「うん、ありがとう。全部花ちゃんのお陰だよ」
イジメられて学校に行かなくなった私の元に毎日プリントを届けに来てくれた花ちゃん。
最初はそんな情けない自分を見られたくなくて会うことが出来なかった。
そんな私にイラついたらしく、ある日突然、花ちゃんは部屋の扉を勢いよく開けて入ってくると「いつまで引き篭もってるつもりだよ!」と開口一番に言った。
それから毎日私の部屋にズカズカ入って来ては、その日に出た宿題などを一緒にさせられたけど、無理に学校に連れて行くことはしなかった。
そんな花ちゃんが変わる勇気をくれたから、今私はこうして学校にいる。
お昼休みの屋上で、一緒にお弁当を食べながら思い出すのは自分が変わった事でも、私をイジメてた三人の女子の事でもない。
花ちゃんと過ごした時間のことばかり。
「んじゃ、礼として玉子焼きもーらい」
ほいっと取られた玉子焼き。
また花ちゃんとこんな風に過ごせるなんて思わなかった。
家が近い花ちゃんとは小さい頃から一緒で、高校生になってもその関係は変わらなかった。
私が高校に行くと言えば、花ちゃんも行くと言って同じところを受け二人合格。
ずっと私の後を花ちゃんがついてきてるような感覚だったけど、本当は違うんだって気づいた。
「花ちゃんって、私の事が心配だから側にいてくれてるの?」
自意識過剰だろうかと思いながら尋ねたら「気づいてなかったのかよ」と笑みを向けられ、私は本当にいい友達を持ったなとしみじみ思う。
私は知らず知らずの間に、花ちゃんに守られていたみたい。
「じゃあ、私は花ちゃんを守る」
「ばーか、おまえに守られるようになったらおしまいだっつーの」
誰も来ない屋上には、私と花ちゃんの笑い声が響き渡る。
今まで私は何を怖がっていたんだろう。
頼りになる友達がずっと側にいたのに。
「いい友達をもったなー」
空を仰いで大きな声で呟けば「だろ?」と目を細めて笑みを向けてくる花ちゃん。
やっぱり私はこの優しい瞳が好きであり苦手だ。
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