1話完結のSS集

残酷世界/テーマ：レンタル○○

　私の毎日はとても充実している。
　イジメや喧嘩、犯罪などもないこの世界は平和そのもの。
　皆と楽しく会話して時に恋をする。
　心は幸せで満たされていく。

　でも、この世界は所詮レンタル。
　平和をテーマにした星に過ぎない。

　いつからだろう。
　無数にある星をレンタルする会社ができたのは。
　客が希望を紙に書き、それを元に数日で完成させた世界の星をレンタルして暮らすことができる。
　星は無数にあるとはいえ人には限りがある。
　そのため、レンタル可能な星は五つ。
　期間は三日間。



「明日で終わり……」



　ようやく手にした希望の世界とは明日でさよなら。
　予約で埋まっているから、私が生きているうちにレンタルすることはもう叶わない。

　あの残酷な世界に帰るのかと思うと今から憂鬱になる。
　このままここで暮らしたいけど、この世界は作り物。
　ここにいる人達は所詮仕事でしていること。
　現実世界が残酷なら、作り物の世界だって残酷なのかもしれない。

　作り物。
　つまりは、現実では絶対にありえないことだと突きつけられているのだから。
　三日という期間が過ぎていくほどに、現実を思い知り絶望する。

　今ならわかる。
　レンタル世界を借りた人が、何故その後命を断つのか。
　自分の世界に絶望したからだ。



「三日間素敵な時間は過ごされましたか？」

「はい。ありがとうございました」



　元の世界に戻ってきた私は、まるで久しぶりに踏み入るように自分の家へと帰る。
　同時に鳴り響くスマホの通知音。
　画面を見れば、上司からの小言が何十件も入っている。

　あの世界のように平和なら、こんな上司いないのに。
　あの世界のように平和なら、学生の頃イジメられることもなかったのに。



「理想の世界をレンタルして、未来を明るく過ごそう」



　テレビから流れてきたのはレンタル世界のCM。
　未来は明るくなんてならない。
　それを教えたのがレンタル世界なんて皮肉なものだ。

　私の足は宙に浮く。
　これで本当の理想世界へいけるのだ。


《完》