【完結】ZERO─IRREGULAR─

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第3章 バイト初日の二日間

2 バイト初日の二日間

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「なるほどな」

「よーし、そうと決まれば、夏休みは佳っチと遊びまくるぞー!」



 どうやら俺の夏休みは自分が遊んでもらえると思ってるみたいだが、俺がここにいるのはバイトとしての仕事をするためってことを忘れてるんじゃないだろうか。
 五番らしいといえばらしいが、こんな疲れ知らずと遊んでたら俺が死ぬ。
 そもそも夏休みの間は、バイトの仕事以外大学の宿題をやるからそんな時間に割いてる暇はない。

 直ぐ様「遊ばないからな」と言ったが、五番は何をしようかと考えを巡らせていて聞こえてない。



「今から夏休みの計画立ててくるね!」



 そう言ってダッシュで去っていく五番の背を見送る。
 夏休みに入って遊ばない事がわかったらガッカリするんだろうけど、人の話を聞かないアイツが悪い。

 そんなことをしてる間にスマホを確認すると、そろそろ昼飯を準備しないとマズイ時間だ。
 俺はキッチンへ向かおうとして思った。
 場所を知らない事を。

 誰かに聞くしかないが、誰に聞くべきか。
 五番は論外として、やっぱりここは一番話しやすい二番か、それとも一番落ち着いている大人な雰囲気を纏った三番さんか。
 誰に声をかけたらいいのか悩んでいると、扉が開く音が聞こえ視線を向ける。
 あそこは四番の部屋だが、とくに出てくる様子はなく不思議に思っていると、手だけがそろりと出て来てこちらに向かって手招きしてる。

 まるでホラーのようにも見えるが、ここにいるのは俺一人。
 考えなくても俺を呼んでいるんだろうと思いその手の元へ近づく。
 真っ暗な部屋にモニターの明かり。
 前にも見た光景。
 そして、開かれた扉の前に立つ俺の前には四番。



「えっと、どうかした?」

「何考えてたの」



 俺が質問したのに、無視して質問返し。
 五番に案内してもらった時、四番の態度は冷たかった事を思い出す。
 やっぱりここにいる奴らはみんな変わってるなと思いながら、俺は質問に答えた。
 すると四番は部屋の中へと戻り、モニターの前にある台の上で何かしだす。

 俺が不思議に思っていると、四番は俺の方に戻り紙を差し出した。
 訳もわからず受け取ると、扉は閉められてしまう。

 一体何だったのか。
 渡された紙を見てみると、そこには簡単にわかりやすく描かれた研究所内の地図。
 四番はモニターで監視をしているから、もしかしたら俺の様子に気付いて心配してくれたのかもしれない。
 研究所内にも数カ所監視カメラがあるから見られていてもおかしくはない。

 冷たい奴かと思っていたが、意外な優しい一面を知って何だか嬉しくなった俺は、その地図を見てキッチンがある場所へ向かう。
 独り暮らしの男は料理が出来ない、もしくはしない人が多いみたいだが、俺は母親が煩かったんで実家を出る前に一人で自炊をする知識は母親から得ている。
 普段の生活もそのお陰で助かってるが、まさかここでその知識が活かされるとは思いもしなかった。

 取り敢えず俺は冷蔵庫の中を確認するが食材はあまりなく、今ある材料だと炒飯とお吸い物が作れそうだ。
 買い出しは後からにして、取り敢えず人数分を作る。
 流石に自分合わせて六人分ともなると大変だが、数回に分けて作ることで無事完成。

 あとはこの料理をどうやって運ぶか。
 いちいちキッチンに戻ってくるのも手間だしなと考えていたとき、料理を運ぶ台車が視界に入りそれに全員分を乗せて一部屋ずつ回る。

 先ずは一番さん。
 さっき部屋から出て行ったけど、もう戻っているだろうか。

 扉を二回ノックするが反応はない。
 更にもう二回と繰り返すがやはり何の反応も返って来ず、やっぱりまだ戻っていないのかと思った俺は一番さんを後回しにして二番の部屋へと行くことにした。

 扉をノックすれば直ぐに返事が返ってきて、昼飯を二番の部屋にある机の上に置くと「うまそー! お前、料理できたんだな」なんて言ってきたんで「どんなもんだ」と言ってやった。
 まるで、冬也と会話をするように。


 二番の部屋を出た俺が次に向かったのは、三番さんの部屋。
 一番まともで大人びた雰囲気のある三番さんだが、そのおっとりとした感じが俺には話しやすく感じさせる。
 ただ、記憶を消すチカラがあるせいで、少し怖くもある。
 もし俺の記憶が消されでもしたら、こんなことが行われている事実も忘れて平和な日々に戻ることになってしまうから。

 知らない頃に戻れれば楽なのかもしれないが、知ってしまった以上は忘れたくない。
 まだ短い時間しかコイツ等との関わりはないし、何を考えているのかとかわからないことだらけ。
 それでも知ったんだ。
 二番のフレンドリーさ。
 五番のアホだけど真っ直ぐなところ。
 四番が実は優しいってこと。
 俺はコイツらのことをもっと知っていきたい。

 そんなことを考えていたらあっという間に着いた三番さんの部屋の前。
 少し躊躇いながらもノックをすると、落ち着いた声音で返事が聞こえる。
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