【完結】ZERO─IRREGULAR─

月夜

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第4章 土下座するんでもう勘弁

3 土下座するんでもう勘弁

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「今度は皆に届けるんだよね。二人で別れて運べばすぐ終わるよ」



 流石に運ぶくらいなら問題は起きないだろうと、少し心配はありつつも昼飯の時間を等に過ぎてしまった今悩んでいる暇はなく別れて運ぶことになった。
 五番が届けるのは一番さんと二番。
 俺が届けるのは三番さんと四番。

 とりあえず一旦別れて届け終えたらキッチンに集合ということに決まり、俺は三番さんの部屋へと向かう。



「すみません、遅くなってしまって」

「構いませんよ。原因は五番でしょうから」



 なんでわかったんだと驚く俺の気持ちを察したのか「五番の鼻歌が部屋の前を通り過ぎるのが聞こえましたから」と言われて納得。
 五番が届ける一番さんと二番の部屋に行くには、三番さんと四番の部屋の前を通る必要があるからな。
 それにしても、まだ鼻歌うたってるなんてどんだけ浮かれてんだ。
 このままじゃ時間がかかって遊ぶなんて無理だってのに。



「五番は嬉しいんでしょうね。キミと過ごす時間が」



 そんな風に言われるとなんか照れくさいけど、つい口元が緩んじまう。


 三番さんに届け終えた俺が次に向かったのは四番の部屋。
 扉をノックしようとすると、いつも通り先に扉が開いて顔を伏せた四番が立っていた。
 遅れてしまったことを謝れば「べつに」と一言言ってお皿を受け取り扉が閉められたが、今日初めて言葉を発してくれた。
 なかなかに俺の中じゃレアだから嬉しいが、また礼を言いそこねた。


 無事に届け終えてキッチンに戻るが、まだ五番の姿はない。
 もう少しすれば戻ってくるだろうと待っていると、通路から騒がしい声と足音が響きこっちに近づいてくる。
 一体なんの騒ぎかと通路に出てみれば、二番が五番に追いかけられていた。



「おい、佳!! 五番を何とかしてくれ」

「一体何があったんだよ」



 状況はわからないが、俺の背に隠れる二番に、オムライスを手に持つ五番。
 昼飯を届けに行っただけで何故こうなった。

 兎に角状況を理解するために二番に話を聞くと、部屋に昼飯を運んできた五番が二番にオムライスを食べさせようとしたらしく、自分で食えると二番が拒否するも「早く食べてもらって食器も回収できた方が佳っチと遊べるから」なんて言って迫ってきたから逃げてきたらしい。
 それは逃げ出して当然だと思い、俺の背に隠れる二番に「すまなかった」と謝る。



「五番、これじゃ逆に時間がかかるだろ」

「でも、一番は食べてくれたよ」



 驚きの声が二番とハモる。
 俺以外が行っても読書に集中していて出ないみたいだし、まさかノックもせずに入った五番に気づかないまま読書に集中するあまり、なすがままになっていたんじゃ。

 考えていることは同じらしく、俺と二番は顔を見合わせると、それは一番さんだからだと二人ハモって五番に言う。
 納得いかないといった様子で頬を膨らます五番を無視し、俺と二番はオムライスをキッチンで食べた。
 二番が食べているオムライスは元々五番のだが問題ない。
 五番には手に持ったままの二番のオムライスがあるんだからな。


 こうして慌ただしいお昼を終え、一番さんの食器はすでに五番が回収済み。
 二番はキッチンで食べ終えて自室に戻っていったから、あとは三番さんと四番の食器を回収するだけ。
 なんだが、取りに行く気満々の五番を止めて俺が回収に向かう。

 三番さんの食器を回収し、いつも通り通路に置かれている四番の食器を回収したとき、皿の下にまた紙が置かれていた。
 内容は「五番はこの部屋に来させないで」というもの。
 モニターで監視してるから、きっと一部始終見てて恐怖を感じたんだろうな。
 まあ、今回に懲りてもう五番には何も手伝わせる気はないが。


 回収した食器を手にキッチンへ戻ると、ガシャンッという大きな音が響いた。
 床には割れたお皿が数枚。
 五番は「えへへ」と言いながら舌を出しているが全く可愛くない。



「お前、手伝いクビ」



 冷めた言葉と冷ややかな視線を浴びせたからか、五番は大人しく椅子に座った。
 部屋に戻ってくれても構わないのに、割れた食器を片付けるのをずっと見ていた。

 何とか散らばった破片の片付けが終わり、回収してきた残りの食器を洗う。
 それにしても、さっきから五番が大人しい。
 チラリと視線を向ければ、表情が少し暗い。
 言い過ぎただろうか。
 五番は一応手伝いのつもりだったんだろうし、あんな風に言わなくてもよかったかもしれないな。

 食器を洗い終わり蛇口を閉めると、俺は五番の前に行き「少し遊ぶか」と言ってやれば、いつもの笑顔を俺に向ける。
 本当に単純な奴だ。



「遊ぶっつっても長くは無理だからな」

「やったー! じゃあ、研究所の外にある森の中をぐるっと回って一周競争しよ」

「ああ、無理」



 ニコやかな笑みを浮かべ答えた俺に、ブーブー文句を言って考えていた遊びを次々に上げていく五番だが全て却下。
 どれもこれも底なし体力の五番にしか出来ない遊びで、俺がそんなのに付き合えるはずがない。

 まだまだ元気が有り余っているみたいだし、取り敢えず俺は五番にまた森を抜けたところまで運んでもらい、割れた皿の枚数を購入して再び五番に担がれ研究所に戻る。
 遊んでもらえないことを拗ねてはいたが、こうして運んでくれるんだから優しいところもあるんだよな。


 その日の夜、皆の夕飯を運んでいるとき俺は五番にあるものを追加で差し出した。
 母親が昔作ってくれたプリンだ。



「まあ、お前も一応頑張ってくれたからな」



 その言葉で満面の笑みを浮かべ、夕飯より先にプリンを口に頬張る五番。
 もし妹がいたらこんな感じなんだろうか、なんて思ったが、こんな単純なアホはここにいるコイツだけで十分だ。
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