1話完結の短編集

月夜

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遠回りの恋/テーマ:子どもの頃の友達 ※別サイトにて優秀作品

1 遠回りの恋

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 私には、子供の頃からの友達がいる。
 家が隣同士の幼馴染という仲で、幼稚園、小学校、中学校と一緒に通い、昔から変わらず仲のいい関係が続いていた。

 中学生になったばかりの頃は難しい年頃という事もあり、周りに仲の良さをからかわれる事が増えた。
 同じ小学校の子達は、私とあおのことを長く見てきたからこんなことはなかったけど、中学生ともなれば他の小学校からも生徒が来る。
 その人達にとって私と蒼は珍しくて、からかう的になったんだと思う。



なつと蒼、今日も仲良く登校かよ。中学生にもなって毎日女子と一緒とか恥ずかしい奴等」



 そんなことを言われても蒼はいつも通り私に接してくれて、男子にからかわれたりすれば「幼馴染で仲良くして何が悪いわけ?」なんて言い返してからかう男子達を黙らせた。
 昔から変わらない蒼に、私達はずっとこのままなんだとどこか安心する気持ちがあった。

 なのに、同じ高校を受験して二人共受かってから、蒼は変わってしまった。
 入学式では何も変わらないいつもの蒼がいたのに、本格的に授業が始まりだした頃、蒼は変わった。

 今まで通り一緒に学校へ行こうと蒼の家のインターホンを鳴らすと、出てきたのはピンクの髪に三つ編みをした知らない人。
 ポカーンとしていた私に「おい、何してんだよ。遅れるぞ」と声をかけられハッとする。



「蒼……ですか?」

「ふはっ! なんで敬語だよ」



 反応に声は間違いなく蒼なのに、あまりの変わりように同一人物なのかまだ疑ってしまう自分がいる。
 二人並んで歩きながら、私はチラチラと隣を歩く蒼と思われる人物を盗み見る。

 入学式の日は黒髪で、男にしては少し長めの黒髪は弄らずそのままだった。
 昔から変わらないその髪型から、こんないきなり変えるなんて何かあったんだろうか。
 女は失恋すると髪を切るとか言うけど、まさか男はこんな風に派手に変えてしまうとか。



「蒼、失恋とかした?」

「は? 何で俺告白すらしてないのに失恋してんだよ」



 どうやら違ったみたいとホッとしたのも束の間。
 今確かに蒼は告白すらしていないと言った。
 つまり、好きな人はいるということなんじゃないだろうか。
 だとしたら、好きな人が出来た事でイメージチェンジをしたということ。

 もしそうなら、何で蒼は私に話してくれないんだろう。
 好きな人がいるなんて今まで聞いたこともない。



「蒼、その髪なんだけど、もしかして好きな──」

「気付いたか! いいだろこの色。三つ編みも練習したんだぜ」



 私の言葉は途中で遮られてしまったけど、三つ編みの練習までするなんてこれは恋に違いない。
 それを私に話さないということは、私も知っている人物かもしれない。
 確か、私達がいた中学からこの高校に入った女子は数人いたし、何より私がこの高校の受験を受けるって言ったとき蒼も迷い無くここに決めた。

 でも、私はそれが不思議だった。
 幼馴染だと母親同士も自然と仲が良くて、お母さん伝いに私の希望校とは別の高校を受験することを聞いていたから。
 なのに、私がこの高校を受験するって話たら何故か蒼もこっちに変えた。
 今思えば、好きな相手がこの高校を受験するって聞いたから変えたのかもしれない。


 何て考えていたら、いつの間にか私は教室の自分の席についていた。
 蒼とは同じクラスなんだけど、席は離れている。
 私が窓際の一番後ろで、蒼は一番前の廊下側。
 蒼の髪に気付いた同じ中学からの男子がちょっかいをかけていたり、女子達も「カワイイー」なんて言っている。
 その女子の中には、蒼と席が隣の森川もりかわさんもいて、何だか楽しそうな雰囲気。

 森川さんも同じ中学の人で、明るくて皆から好かれるタイプの人。
 蒼と話しているのも何度か見たことあるし、私も時々話してたりしてた。

 まさか、蒼が好きな人って森川さんなんじゃないかと思ったとき、何故か蒼と森川さんだけ皆と雰囲気が違うように見えてきた。
 何というか、他の人に髪をからかわれると「うるせー」とか言ってるのに、森川さんが「似合ってるよー」って言うと「そうか?」とかいって何か嬉しそうだし。

 私はそんな光景を目にして机に突っ伏した。
 だって、初恋すらしてこなかった私と、そういう話を一切しなかった蒼。
 同じ者同士だと思っていたのに、私の知らないところで先に恋してるなんて裏切りだ。



「何やってんだ?」



 さっきまで向こうで森川さん達とわいわい盛り上がってたのに、顔を上げれば蒼がいる。



「裏切り者ー! そうやって蒼は私の先を行くんだー」

「何だそれ」



 蒼は意味がわからず眉を寄せているけど、これは私が勝手に拗ねているだけ。
 今まで沢山助けてもらったんだし、蒼の恋を応援してあげようじゃないかと、バッと伏せていた顔を上げると「うわっ!? 今度はなんだよ」と驚く蒼。

 私に好きな人を話すのが気まずいなら陰ながら応援しようと、立ち上がった私は蒼の両肩に手を置き「任せてね」と言って席につく。
 何がなんだかわからない蒼は「何をだよ……」なんて言ってたけど、兎に角二人の関係が更に親密になるようにすればいいんだから、いっちょ私が一肌脱ぐかな。


 その日のお昼。
 中学までの私なら、自然と蒼と一緒にお昼を食べていたけど、今回は違う。
 先ず蒼の席に行き「学食行くか」と言った蒼の言葉のあとに私はチラリと森川さんに視線を向けて「森川さんも一緒にお昼食べない?」とさり気なく誘う。

 今まで私と蒼が二人でお昼を食べていたことを知ってる森川さんは自分が誘われたことに戸惑ってたみたいだけど「ダメかな?」と言う私の言葉に「うん、いいよ」と返事をしてくれた。



「学食は一階の奥だったよね」

「ああ、学校案内のパンフレットに載ってたからな」



 いい感じに話す二人と学食へ向かう途中、私は「あっ! 用事あるの忘れてた」と今思い出したかのようによそおいその場から離れた。
 本当は何の用事もない私は、購買でパンを買って教室に戻ると自分の席でお昼を食べる。

 これで好きな人と二人になれたんだから、蒼は私に感謝すべきね。
 こんな感じで二人きりになる機会をつくれば、お互いに惹かれ合ってゴールインになるかもしれない。
 そう思ったら嬉しいはずなのに、心がモヤモヤするのは何故だろう。

 パンを食べていた手は止まり私の表情は曇る。
 森川さんは良い人だし、しっかりしているのに明るくて可愛い一面もある。
 蒼も小さい頃から女の子みたいに可愛くて、髪を変えた今なんてまるで本当の女の子みたいで、正直二人はお似合いだと思う。
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