1話完結のSS集Ⅱ

月夜

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キミが望むなら/テーマ:約束の場所

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 冬、私はある夢を見続けている。
 顔が見えない誰かと話す私。
 笑い合って楽しくて、なのに目が覚めると話した内容を忘れてしまう。
 最初は気にしていなかったけど、同じ夢を見続けて一週間。
 夢の中では楽しい時間。
 現実に戻ると、それは気になる事に変わる。

 今夜は顔を確かめようと、強く思いながら眠りにつけば、いつもの様に楽しく会話する私と誰か。
 何度も見てきた夢にハッとし、忘れていた眠る前のことを思い出す。
 顔を確認しなくてはと、その人物に声をかけた。
 この夢の中で、私が自分の意志で行動したのは初めてのことだ。



「アナタは誰なの? なんで、私の夢に出てくるわけ」



 顔を確認したくても、まるで霧がかかったように真っ白で見ることができず、それでも何か聞き出せることはないかと問いかける。
 驚いているのか、口がポカンと開いたかと思えば弧を描き、何かを話しているのか口が動く。

 そこで目覚めた私は、楽しく話していた時の内容はいつも通り思い出せなかったけど、最後の言葉は何故かわかった。
 声も発していなかったのに「約束の場所」と言っていたと確信してる。



「約束の場所……」



 ポツリとつぶやいた言葉は、冬の冷たい空気が攫っていく。
 ぼーっと考えていると、スマホのアラームが現実に引き戻す。

 制服に着替え、朝食を済ませ学校へ向かう道中、あの言葉の意味を考えていた。
 約束の場所が夢の人物に関係しているのだろうか。



「おいっ!」



 突然の声と共に腕を引かれ顔を上げれば、横断歩道の信号は赤。
 考え事をしていたせいで全く気づかなかった。



「ありがとう、私の命の恩人よ」

「お前、死にかけといてよくそんな笑顔で言えるな」



 呆れながら私を見ているのは、同じクラスの男子。
 仲良しだからというのもあるが、普段から笑顔を絶やさない私は、自分で言うのもなんだがかなり軽い。
 流石に今のは危なかったので、教室につくまでの間は説教されまくったけど反省はしていない。



「わかってんのか」

「はいはーい、以後気をつけまーす」



 軽く返事をして自席に向かう。
 心配してくれてるのはわかるし、助けてくれたのは感謝してるけど、無事だったんだからそれで良しだと思っている。

 その後、夢の事はすっかり忘れて帰路を歩く放課後。
 信号で立ち止まり青に変わるのを待つ。
 暇だなと視線を下に向けたとき、花束が置かれていることに気づく。
 誰かここで亡くなったのかなと思ったとき、脳裏に夢で見た光景が浮かぶ。

 楽しそうに私と話すのはクラスメイトの友達。
 見覚えのある景色は、その子の家近くにある信号へ向かう道。
 何故、忘れていたんだろう。
 去年の冬、その子は私の目の前で亡くなったのに。

 家に帰った私は、再び外に出るとある場所へ向かう。
 あの子の家から、一番近い横断歩道。
 ここにもやっぱりあったお供えの花束。



「約束したのにね」



 友達なのに名前も忘れて、亡くなったことさえ忘れてるなんて薄情だろうか。
 私は横断歩道を前に見つめる。
 あの時の光景が鮮明に思い出され、あの子が最後に言った言葉が私の口元を緩めさせた。

 ——去年の冬。
 その子は私にあるお願いをした。
 何処から流れた話かは知らないけど、一部の特定の人だけに広がった私の噂。



「できるんだよね?」

「うん、いいよ」



 ニコリと笑みを浮かべれば、その子はホッとしたのか柔らかな笑みを私に向けた。
 大切な友達の頼みなんだから、きいてあげないわけにはいかないよね。

 翌日、私はその子の家へと向かい、二人で近場の信号までの道を楽しく会話しながら歩く。
 青い信号が見えてくると歩く速度を緩め、赤に変わるタイミングでピッタリと立ち止まる。



「一つ約束してほしいことがあるの」

「なあに?」



 その子の言葉に頷けば「ありがとう」と言って足を一歩と前に踏み出す。
 信号は赤。
 横から来た車に轢かれ、その子は亡くなった。
 すっかり忘れてたけど、丁度冬のタイミングで夢に出てくるなんてね。



「約束だったよね。この場所に来てほしいって」



 まさか、学校帰りのあの花束で思い出すとは思わなかったけど、もう名前も忘れたこの子が安らかに眠れることを願う。
 ついでに思い出した、学校帰りにある、花束が置かれていた信号で亡くなった子は、幸せになれただろうか。

 本当に噂ってどこから流れるかわからない。
 自殺をしたい人は、私に頼めば見届けてくれるなんて。
 噂というより事実だけど、この話が広がるのがその一部の人だけというのが不思議ではある。

 きっと、そういう人達は周りに知られたくないんだろう。
 だから同じ思いの人にしか話は回らない。
 いつかこの辺は、花束だらけになるんじゃないだろうか。

 何人目か、なんて名前かなんて覚えていない。
 居なくなった人の事は、最初から居なかったように私は生活をする。
 その子との楽しかった出来事もあるのかもしれないけど、私が出来ることは最後を見送るだけ。
 死にたいのに一人は寂しいなんて言われたら可哀想だから。



「なあ、噂聞いたんだけどさ」



 私の腕を引いて助けてくれたこの男子も、やっぱり噂から近づいてきた人だったみたい。
 いつも仲良くなる相手は同じお願いをする。
 でも、友達だから協力するのは当然だよね。
 名前も忘れたキミの最後を、私だけは見届けてあげる。



《完》
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