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第三幕 徳川家康は策略家?

一 徳川家康は策略家?

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そして翌日、今日は何をしたらいいのかわからず、自室の窓から外を眺めていた。


焦る必要がないのはわかるんだけど、やっぱり部屋の中にいても暇だ。


そうだ!信長様に、何か仕事をもらおう!


私は立ち上がると、早速信長様の部屋へと向かった。




「御影です。信長様いらっしゃいますか?」



呼び掛けに返事はなく、出直そうとしたとき、襖が少し開いていることにきずき、私は中をチラッと覗いてみた。


あれ?信長様いる…。


俯き座っているが、そこには確かに信長様の姿があった。



「失礼します……」



私はゆっくりと信長様の前に座るが、何故か俯いたままの信長様を不思議に思い、声を再びかけてみるが返事はない。


どうしたんだろう?


信長様に近付いてみると、小さな寝息が聞こえてきた。


もしかして、眠ってるの?


顔を覗き込もうとしたその時、突然腕を掴まれ引き寄せられると、私は信長様の腕へとすっぽり収まってしまった。


顔を上へと向けると、私を見詰める信長様の視線とぶつかった。


近い距離に、私の鼓動はドクッと音を立てる。



「貴様に寝込みを襲われるとはな」

「違いますから!信長様の姿が見えたので起きているのだと思って。まさか座りながら寝てるなんて思わないじゃないですか!」

「くくっ…。わかっておる、少しからかっただけだ」

「からかわないでください!」



今だに私を抱き寄せる腕は、緩むことなくしっかりと私を抱いて放さない。



「あの、離していただけますか?」

「何故だ」

「何故だって、話したいことがあるからですよ!」

「このまま話せば良いだろう」



先程から私へと向けられている視線に、私の鼓動はさらに高鳴り、信長様の方を向くことすらできなくなっていた。

こんなに近いと、私のこの鼓動の音も聞かれてしまいそうで、私はバッと信長様から離れる。



「し、失礼します!!」



私は、染まった頬を見られぬように、顔を伏せたまま慌てて信長様の部屋からでると、熱くなった頬を冷まそうと、廊下を歩いた。

吹き抜ける風が頬を撫で、次第に熱も冷め始める。


結局信長様に聞くのを忘れてしまった……。


今更戻ることもできず、仕方なく自室へ戻ろうと歩みを進めると、廊下に秀吉さんの姿が見えた。



「秀吉さん!」

「お前か、何してんだ?」

「えっと、ちょっと……秀吉さんはどちらにいかれるんですか?」

「俺は家康のところに行くところだ」



そう言えば、家康さんの部屋がどこにあるのか知らないことを思い出した。


いつも会うのは廊下で、部屋にいったことってないんだよね……。



「あの、私も一緒に行っても大丈夫ですか?」

「それは構わねぇけど」

「ありがとうございます!」



私は秀吉さんと家康さんの部屋へと向かった。


廊下を歩いていると、秀吉さんの部屋の方へ向かっているようだけど、秀吉さんのお部屋の近くなのかな……?



「ここが家康の部屋だ」

「え?」



足を止めた部屋は、秀吉さんの隣の部屋だった。


今の今まで全然気づかなかった。



「家康、いるか?」

「開いてるから入りなよ」



何だか、いつものおっとりとした家康さんの声とは違い、ハッキリとした言葉で返事が返ってきたことに驚きつつも、私も秀吉さんと一緒に家康さんの部屋へと入る。

部屋へと入ると、家康さんと目が合い、家康さんは一瞬驚いた顔をしたけど、その表情はおっとりとした表情へと変わる。



「美弥ちゃんも一緒だったんだね」



あれ?


さっき返事をしたときとは声のトーンも変わり、いつも通りの家康さんになっている。


気のせい、だったのかな……?



「はい。先程廊下で秀吉さんとお会いしたんですけど、家康さんの部屋へ行かれると聞いてついてきてしまいました。まだ私、家康さんのお部屋はどこにあるか知らなかったですし、遊びに行くって約束をしてましたからね」

「そうだったね!美弥ちゃんが僕を訪ねてくれるなんて嬉しいな」

「よくやるな、このタヌキめ……」



秀吉さんが呟くように小さな声で言った言葉は、家康さんには届かなかったみたいだけど、すぐ横にいた私には微かに聞こえていた。


前にもズル賢いタヌキって言ってたけど、どういう意味だろう……?



「サっ、秀吉は何しに来たの?」

「今お前サルって言おうとしたろ!!」

「やだなぁ、僕がそんなこと言うわけないじゃないか」

「まぁ良いけどよ。用ってのは、今度の戦のことで今日軍議が開かれるのを知らせに来ただけだ」



戦……。


戦という言葉に、私の鼓動がドクッと高鳴った。

戦が近いうちに行われるということは、死人が出ると言うことだ。



「用もすんだし、俺は部屋へ戻るぜ」

「じゃあ、私も失礼しますね」

「うん。美弥ちゃんはまた遊びに来てね」

「俺は来るなとでも言いたいのかよ」

「ははっ、そんなこと言ってないじゃないか」



家康さんの顔は、笑っているようで目は笑っていなかった。


家康さんの部屋から出ると、自室へと戻ろうとした秀吉さんの背中に声をかけた。



「秀吉さん、少しお聞きしたいことがあるんですけど大丈夫でしょうか?」

「別に構わねぇぜ」



秀吉さんの部屋へと入れてもらい、畳の上へと座った。



「で、聞きたいことってのはなんだ?」

「秀吉さんが、家康さんのことをタヌキと言う理由です。前にも、ズル賢いとか気を付けろと言われてましたよね?」

「ああ。家康は、お前の前だと呆けたように見えるだろうが、実際のあいつは違う。まぁ、お前が見てきた家康は表の顔って訳だ」



私が今まで見てきた家康さんは、何だかおっとりしていて、癒し系と言う感じだった。

私が悩んでいたときは、背中を押してもらったりと、本当に好い人のイメージだ。


でも、それが全部表の顔ってことは、裏の顔があるってこと……?



「まだよくわからねぇって顔してるな。家康は、ああ見えて策略家だ、あいつのやることには裏があんだよ」

「裏、ですか?」

「あいつがお前に表の顔を使ってるってことは、何かしらあるんだろうよ。タヌキは人を化かす。あいつは表の顔で近づいて、その裏には何かある。そのへんが、タヌキに似てることから呼ばれてる理由だな」



秀吉さんから聞いたあと、私は自室へと戻り、さっき秀吉さんが話していたことを思い出していた。


何だか、家康さんに表と裏の顔があるなんて言われても、今まで見てきた家康さんからは想像できない。
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