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第154話 神を失くす研究
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「いやぁ~、久々にまともな睡眠が取れて助かったよぉ~。体が怠くてお尻が痛いのが不思議でならないけどねぇ~?」
犯人が明確な疑問をフォルゴが口にし、私とヴィットリアはそっとそっぽを向いて知らんぷりした。
王城地下の研究室に通された私達は、スッキリしてスッキリされた彼に詰問されている。
尻を擦る頻度から残る痛みの程度を察し、笑顔に潜む怒りの業火を直視できない。原因の片割れである清水さんが逃走済みなのも悪材料。私達に向けられる非難の目は、融けて赤熱するガラスより遥かな最悪を感じさせてくる。
ガラス棒や毛細管を自作する、化学系研究室に語り継がれる重大事故。
触れると火傷確定で、肌に張り付いて固まって取れなくなるという凄惨さ。実際に見たことは無いが、今目の前にいる凶悪はそれすらも下に思わせる強烈な圧を宿している。
見なくてもわかる。
「私と俺はわかんない。ベッドの上がやけに激しくギシギシしてたのだけは覚えてるけど…………」
「ご馳走様でした。お尻の件は清水さんに言いなさい。五回くらいぶちまけてました」
「そっかぁ~。今度ヘブンズアイの駆除剤でも作ろっかなぁ~? ヴィットリアにはサキュバス殺しの貞操帯を付けてあげるから全部脱いでぇ~?」
「ゴメンナサイ、研究費を追加しますから許してください……」
内側に二本の張り型が取り付けられた貞操帯を見せつけられ、屈したヴィットリアは冷たい石の床に土下座した。
四分の一だけサキュバスが入っている彼女は、吸血と吸精の両方をしないと生きていけない。精を搾れない張り型で刺激され続けるだけの毎日なんて、磔にされたまま炎天下に放置されるに等しい。
フォルゴのはらわたは、そんな物を突き付けたくなる程に煮えくり返っているのだろう。
――――私は関係ないよね? 大丈夫だよね?
「費用の追加も良いけど、研究試料の方が欲しいなぁ~? ところで、しなずち神は俺の研究について何か聞いてるぅ~?」
「何も。聞いてたのは肉同士が擦れる音と喘ぎ声だけだよ」
「何で止めてくれなかったのぉ~?」
「だって、犯すのは好きだけど、犯されるのは嫌なんだもん…………」
「『だもん』じゃねぇよ、腐れ神ぃ~。ケツに寄生ローパー突っ込んでやろうかぁ~?」
「最近、ローパーくらいなら良いかなって…………張り型とか、握りこぶしとか、発情期の巨狼のアレとか、ぶち込まれ過ぎてもうガバガバなんだよぉぉぉ……ぅぅぅぅぅ…………」
「ぉ、ぉぅ~…………」
男性蹂躙の性的被害を打ち明け、フォルゴに一歩どころか三歩以上引かれた。
私がここにいる原因だから隠す必要なんてない。
むしろ、同志である彼には一から百まで聞いてほしいくらいだ。入口の際を一周、ごりゅごりゅごりゅごりゅ擦って入って出てを繰り返し、腰下に熱い何かが蠢きまくって這いずり回るあの感覚。
頭が覚えていなくても、身体はきっと覚えている筈。
耳だけでわかる程に、あんなに激しくされていたんだ。『逆レイプ被害者の会』への入会資格はしっかり満たしている。今度ギュンドラ達に話をして、温かく快く迎え入れてあげよう。
ようこそ。
ようこそ、ようこそ、ようこそ。
「ぁ~……話を戻すよぉ~? 俺がやってるのは『神を神でなくす』研究ぅ~。不本意に神にさせられた連中を、元の種族に戻す方法を探してんのぉ~」
「『そんな事が出来るのか?』」
「理論上は可能だよぉ~。前世の大学が化学屋なら、平衡状態って知ってるでしょぉ~? 一定条件の安定した環境下では、内にある物の気体・液体・固体の相状態や、同位体・同素体・イオンなんかのバランス配分が一定に保たれるってやつぅ~」
「『真冬――ヴァテアが高分子に応用できないかとかいろいろやってたな。だけど、それが神とどう関係していると?』」
「生命と神と世界は、気体と液体と固体の関係と変わらないんだよぉ~」
…………?
何だ?
今、かなり滅茶苦茶な事を言われた気がする。
「俺達みたいな生命と神々は、世界の中に在る存在と思われてるけど実際は違うんだよぉ~。生命があるから神はあって、神があるから世界があって、世界があるから生命はあるのぉ~。どれかが無いとバランスが悪くなるから、神が少なくなれば生命か世界が神になるし、世界が足りなくなれば神か生命が世界になるぅ~」
「『存在の平衡状態によって、三者のバランスが保たれていると? そんな馬鹿な。なら何で殆ど神がいない地球はヴィラ達を放逐して、神々で溢れているディプカントは受け入れたんだ? 筋が通らない』」
「壊れかけてるんじゃないぃ~? 原初世界ノクフィルナも、神界戦争で生命と神が減り過ぎて、渡界しまくっていなくなったって頭領から聞いてるよぉ~?」
「『地球が……? 壊れかけ……?』」
前世を引きずる俺は、地球の危機を聞かされて心をざわつかせる。
私にとってはあんな世界どうでも良いけど、理解できない事もない。向こうで生まれて育った俺は、地球との結びつきが特別強い。
帰りたいと思うだろうか?
でもダメだ。
私達は既に地球では死んだ身。あの世界との縁が切れているのだから、思い入れはあっても何かをするわけにはいかない。
こっちの世界で存分に謳歌し、滅び逝く様を笑って眺めるのが精々だ。
それに、私達は私達の背負う物、守るべき者達がたくさんいる。
「続きをどうぞ」
「はいぃ~。生命から成り上がった神々を調べた結果、神になる前後で異なる点が一つだけあるのぉ~。それは、『世界から力を借りる資格』を持っているか否かぁ~」
「あ、それはわかる。ヴィラから最初に教えられたのも、『世界を認識して協力を引き出せ』だった」
「そうぅ~。だから、神々の数は世界と繋がれる接点の数って考えられるのぉ~。これを人為的に増やせば、神々の数が増えすぎてバランスが崩れたって平衡全体を誤認させられて、神は生命か世界に代わるって寸法ぅ~。簡単でしょぉ~?」
「理論は簡単でも実践する手段が無いって、不貞腐れていたのはどこの誰かしら? とはいえ、しなずち神の協力があれば、多少なりとも研究は進むでしょう。二人とも、仲良くするんですよ?」
「友達」
「友達ぃ~」
ヴィットリアの言いつけに対し、私とフォルゴは両手で固く握手して仲の良さを見せつけた。
被害者同士という絆が、私達を強く強く結んでいる。
そう簡単に壊れたりはしない。これでも不死だ。意識があるまま全身を解剖されて腑分けされても、もう何度もされて慣れてるから気にしたりしない。
大抵の事は、笑って済ませられる自信がある。
「そうですか。では、私は公務があるので失礼します。ご飯になったら呼びに来ますからね?」
「は~い、ままぁ~」
「あら? パパになりたいのかしら、フォルゴ?」
「ひぃっ!?」
「冗談よ。しなずち神、彼をお願いします。無茶をしないようによく見張っておいてください。それと、今夜は私の寝室にどうぞ。お待ちしていますから」
「はぁ~い」
断る意味がないお誘いに、必ず行くと微笑みを返す。
清水さんさえいなければ、彼女との逢瀬は願ったり叶ったり。今後も仲良くしてイケる様に、全力を以って狂わせて見せよう。
人外の快楽は、簡単に人の理性を壊すからね。
一晩かけてたっぷり仕込もう。
他では満足できなくなるくらいに。
「じゃあフォルゴ。まずは何をする?」
「あれぇ~」
「ん? んっ!?」
研究室の端を指差され、そこにある品々に私は自分の目を疑った。
犯人が明確な疑問をフォルゴが口にし、私とヴィットリアはそっとそっぽを向いて知らんぷりした。
王城地下の研究室に通された私達は、スッキリしてスッキリされた彼に詰問されている。
尻を擦る頻度から残る痛みの程度を察し、笑顔に潜む怒りの業火を直視できない。原因の片割れである清水さんが逃走済みなのも悪材料。私達に向けられる非難の目は、融けて赤熱するガラスより遥かな最悪を感じさせてくる。
ガラス棒や毛細管を自作する、化学系研究室に語り継がれる重大事故。
触れると火傷確定で、肌に張り付いて固まって取れなくなるという凄惨さ。実際に見たことは無いが、今目の前にいる凶悪はそれすらも下に思わせる強烈な圧を宿している。
見なくてもわかる。
「私と俺はわかんない。ベッドの上がやけに激しくギシギシしてたのだけは覚えてるけど…………」
「ご馳走様でした。お尻の件は清水さんに言いなさい。五回くらいぶちまけてました」
「そっかぁ~。今度ヘブンズアイの駆除剤でも作ろっかなぁ~? ヴィットリアにはサキュバス殺しの貞操帯を付けてあげるから全部脱いでぇ~?」
「ゴメンナサイ、研究費を追加しますから許してください……」
内側に二本の張り型が取り付けられた貞操帯を見せつけられ、屈したヴィットリアは冷たい石の床に土下座した。
四分の一だけサキュバスが入っている彼女は、吸血と吸精の両方をしないと生きていけない。精を搾れない張り型で刺激され続けるだけの毎日なんて、磔にされたまま炎天下に放置されるに等しい。
フォルゴのはらわたは、そんな物を突き付けたくなる程に煮えくり返っているのだろう。
――――私は関係ないよね? 大丈夫だよね?
「費用の追加も良いけど、研究試料の方が欲しいなぁ~? ところで、しなずち神は俺の研究について何か聞いてるぅ~?」
「何も。聞いてたのは肉同士が擦れる音と喘ぎ声だけだよ」
「何で止めてくれなかったのぉ~?」
「だって、犯すのは好きだけど、犯されるのは嫌なんだもん…………」
「『だもん』じゃねぇよ、腐れ神ぃ~。ケツに寄生ローパー突っ込んでやろうかぁ~?」
「最近、ローパーくらいなら良いかなって…………張り型とか、握りこぶしとか、発情期の巨狼のアレとか、ぶち込まれ過ぎてもうガバガバなんだよぉぉぉ……ぅぅぅぅぅ…………」
「ぉ、ぉぅ~…………」
男性蹂躙の性的被害を打ち明け、フォルゴに一歩どころか三歩以上引かれた。
私がここにいる原因だから隠す必要なんてない。
むしろ、同志である彼には一から百まで聞いてほしいくらいだ。入口の際を一周、ごりゅごりゅごりゅごりゅ擦って入って出てを繰り返し、腰下に熱い何かが蠢きまくって這いずり回るあの感覚。
頭が覚えていなくても、身体はきっと覚えている筈。
耳だけでわかる程に、あんなに激しくされていたんだ。『逆レイプ被害者の会』への入会資格はしっかり満たしている。今度ギュンドラ達に話をして、温かく快く迎え入れてあげよう。
ようこそ。
ようこそ、ようこそ、ようこそ。
「ぁ~……話を戻すよぉ~? 俺がやってるのは『神を神でなくす』研究ぅ~。不本意に神にさせられた連中を、元の種族に戻す方法を探してんのぉ~」
「『そんな事が出来るのか?』」
「理論上は可能だよぉ~。前世の大学が化学屋なら、平衡状態って知ってるでしょぉ~? 一定条件の安定した環境下では、内にある物の気体・液体・固体の相状態や、同位体・同素体・イオンなんかのバランス配分が一定に保たれるってやつぅ~」
「『真冬――ヴァテアが高分子に応用できないかとかいろいろやってたな。だけど、それが神とどう関係していると?』」
「生命と神と世界は、気体と液体と固体の関係と変わらないんだよぉ~」
…………?
何だ?
今、かなり滅茶苦茶な事を言われた気がする。
「俺達みたいな生命と神々は、世界の中に在る存在と思われてるけど実際は違うんだよぉ~。生命があるから神はあって、神があるから世界があって、世界があるから生命はあるのぉ~。どれかが無いとバランスが悪くなるから、神が少なくなれば生命か世界が神になるし、世界が足りなくなれば神か生命が世界になるぅ~」
「『存在の平衡状態によって、三者のバランスが保たれていると? そんな馬鹿な。なら何で殆ど神がいない地球はヴィラ達を放逐して、神々で溢れているディプカントは受け入れたんだ? 筋が通らない』」
「壊れかけてるんじゃないぃ~? 原初世界ノクフィルナも、神界戦争で生命と神が減り過ぎて、渡界しまくっていなくなったって頭領から聞いてるよぉ~?」
「『地球が……? 壊れかけ……?』」
前世を引きずる俺は、地球の危機を聞かされて心をざわつかせる。
私にとってはあんな世界どうでも良いけど、理解できない事もない。向こうで生まれて育った俺は、地球との結びつきが特別強い。
帰りたいと思うだろうか?
でもダメだ。
私達は既に地球では死んだ身。あの世界との縁が切れているのだから、思い入れはあっても何かをするわけにはいかない。
こっちの世界で存分に謳歌し、滅び逝く様を笑って眺めるのが精々だ。
それに、私達は私達の背負う物、守るべき者達がたくさんいる。
「続きをどうぞ」
「はいぃ~。生命から成り上がった神々を調べた結果、神になる前後で異なる点が一つだけあるのぉ~。それは、『世界から力を借りる資格』を持っているか否かぁ~」
「あ、それはわかる。ヴィラから最初に教えられたのも、『世界を認識して協力を引き出せ』だった」
「そうぅ~。だから、神々の数は世界と繋がれる接点の数って考えられるのぉ~。これを人為的に増やせば、神々の数が増えすぎてバランスが崩れたって平衡全体を誤認させられて、神は生命か世界に代わるって寸法ぅ~。簡単でしょぉ~?」
「理論は簡単でも実践する手段が無いって、不貞腐れていたのはどこの誰かしら? とはいえ、しなずち神の協力があれば、多少なりとも研究は進むでしょう。二人とも、仲良くするんですよ?」
「友達」
「友達ぃ~」
ヴィットリアの言いつけに対し、私とフォルゴは両手で固く握手して仲の良さを見せつけた。
被害者同士という絆が、私達を強く強く結んでいる。
そう簡単に壊れたりはしない。これでも不死だ。意識があるまま全身を解剖されて腑分けされても、もう何度もされて慣れてるから気にしたりしない。
大抵の事は、笑って済ませられる自信がある。
「そうですか。では、私は公務があるので失礼します。ご飯になったら呼びに来ますからね?」
「は~い、ままぁ~」
「あら? パパになりたいのかしら、フォルゴ?」
「ひぃっ!?」
「冗談よ。しなずち神、彼をお願いします。無茶をしないようによく見張っておいてください。それと、今夜は私の寝室にどうぞ。お待ちしていますから」
「はぁ~い」
断る意味がないお誘いに、必ず行くと微笑みを返す。
清水さんさえいなければ、彼女との逢瀬は願ったり叶ったり。今後も仲良くしてイケる様に、全力を以って狂わせて見せよう。
人外の快楽は、簡単に人の理性を壊すからね。
一晩かけてたっぷり仕込もう。
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