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第5話 つきまとう影★のディソナンス

呼び戻す声

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「まだついて来るよっ」

「しつこい男は嫌われるゾ☆!」

「【フェイタル・リーパー】は生命反応を。よほど離れるか、他の生物になすりつけない限り逃げきれない」

「それってヤバくない? 他の冒険者に移っちゃったら、ピップル達、『モンスターを利用した迷惑行為』ってヤツでギルドから怒られちゃう☆」

「アレは最悪の場合、冒険者の資格剥奪まで行くからな」

「ワザとじゃないのに~☆」

「他のモンスターを身代わりにするのは?」

 生物は、何も冒険者である必要はないだろう。別のモンスターと戦ってくれれば、その間に逃げられるかもしれない。そう、提案した瞬間、

 ウギャギャアッ!!

 甲高い声。【フェイタル・リーパー】の進路に飛び出した毛むくじゃらの何かが一瞬で切断されていた。
 どうやらこの辺りのモンスターでは全く刃が立たないらしい。
 うう、3秒で計画が破綻した。
 俺は脇腹を押さえて近くの岩に寄りかかる。リト達が数m先から振り返り、心配そうにこちらを見ている。

「……先に行ってくれ」

「「ユウキ!?」」

「お前達、本当はもっと早く走れるんだろ?」

「それは……」

「俺には無理だ。さっきの攻撃でアバラをやられてるし。お前達は全力で逃げろ……いや、助けを呼んで来てくれ」

「わ、わかった」

「すぐに戻って来るヨ☆」

 黒とラベンダー色の毛玉達は滑るように走り去る。やっぱり猫並みに早い。
 良かった。これで彼らは逃げ切れるはず。
 猫達が逃げた方向とは別の道を選び、移動を再開する。が、

 フウゥ…… フシュウウゥ……

 不気味な吐息が近づいて来る。ダガーを構えて振り返る。

 ギラリ

 鈍く光る大釜が振り下ろされ、俺の胸を貫く……!!

「かは……ッ」

 大量の血が流れ出し、—— そこで意識が途切れた。


  . 。※ ⚪︎ ◎ o ※ 。・


 ……ょ

 ……めよ

  遠くで誰かが何か言ってる。
  ささやき声が意識を刺激して非常に不快だ。
  眠い。眠らせてくれ。もう少し……

     ・— 我 —・

 ……ざめよ

  ・—— 我は何者ぞ ——・

 ……ざめよ、


   ・ ・・・—— 我は、我 ——・・・ ・



《 目覚めよ! 汝、岩佐いわさ悠希ゆうき、ネコランドに生きる者よ!! 》



「ぶはっ!」

 息を止めて潜っていた深い水から浮かび上がった時のように、勢いよく新鮮な空気が肺に流れ込む。心臓がバクバクと激しく打っている。軽いめまい。体全体のしびれが薄まるのを感じながら、何度も息を吸って吐く。

 ここは……?

「おお、ユウキよ。死んでしまうとはなにごとだ!」

「あ゛?」

 魔法陣が刻まれた祭壇に横たわった俺を、何かの祭司らしい初老の男が見下ろしている。金色の刺繍で縁取りがある厚手の白いローブに、同じ柄の見慣れない帽子。俺がにらむと、少し困ったように顔をしかめた。

「……このセリフが一番状況を伝えやすいと教わったのだが」

 誰だよ! 教えた奴!!

「ユウキッ」
「ゆうき!!」
「「やったー☆」」
「俺達が分かるか?、悠希!!」

「リト、チビスケ、ピップルとポップル、それにタイショー」

 魔法陣の周りに並ぶ見慣れた顔。
 ひとりづつ、確認するように名前をあげる。

「ああ、本当に復活して……」

「タイショー、俺、1は、やってないです」

「知ってるんじゃねえか。お前の訃報ふほうを聞いた俺達の衝撃を考えろ」

 そう言ってタイショーが差し出したのは白と灰色のアメショー柄の子猫。両目いっぱいに涙をためている。

「ゆうき、しぬ、だめ!」

「ごめん、チビスケ」

 俺はやっぱり一度死んだらしい。
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