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第6話 失われし★聖女のためのパヴァーヌ

チートな聖女様

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「バルザックは金儲けに目がないけど、自分の【商売】を愛してるから、聖女様やネコランドを売るようなマネは決してしないわ。悪い奴が細工した契約書で聖女様を騙そうとした時なんか、『商売に対する冒涜だ!』って激怒して、聖女様と一緒になって血祭りに上げてたし」

「聖女様まで!?」

 驚いてマッツオ団長を見ると、団長はそっと目をそらす。

「……聖女様、実は怒ると怖いんだナ」

 異世界チート無双系聖女様は実在するらしい。

「一国の王様相手にタンカ切って『ダンジョンの全てを引き受ける』って言い切りましたからねぇ、クックック」

「これ幸いとダンジョンに関する全てを聖女様ひとりに押し付けたこと、ハイゼル王は今頃きっと後悔してるでしょうね」

 地上からダンジョン内に引き込まれた地形は、以前の面影を残しながらも魔力による影響で変質し、役に立つ魔法植物や魔法鉱物が多く取れるようになったそうだ。しかも定期的に復活する。
 倒したモンスターの皮やウロコなども加工素材として使えるし、モンスターそのものの剥製も需要がある。ネコランドはそれらを売って必要な物資や食料を輸入しているが、観光地としても有名になったため、かなりの貿易黒字国らしい。


「「「アンコール!、アンコール!」」」

 パパラチアダンスが終わり、観光客や、オフの猫好き冒険者達がはやし立てる。
 最近はすっかりステージ後のサービスタイムが常態化している。
 客席に近い所をゆっくり歩いたり笑顔で手を振ったりする程度なのだが、とてもウケがいい。結果、バフをもらったらすぐにでもダンジョンに出発したい冒険者達と、ゆっくりと猫達を見たい人達は時間差で移動する事になるので混雑緩和に役立っている。

「今日もよくバフが飛んだナ!」

「そうですねえ。なんか、光に模様が浮かぶようになってません?」

「……天然の魔法陣が発生しかけてるナ。みんな、魔法スキルが上がってるんだナ」

 パパラチアダンスのルーツは儀式魔術らしい。
 この辺り一帯をモンスターごとダンジョンに閉じ込めたエルフ達の秘儀。身体全体を使って踊るように呪文を練り上げる集団を目の当たりにし、そのカッコ良さに感動した猫達は本能のおもむくままに踊り出した。踊らにゃそんそん♪とばかりに。
 戦闘集団からダンス集団になったパパラチアキャット達のために作られた魔除け付きステージで毎日踊っていたら、そのうちバフが飛ぶようになったそうだ。

「聖女様も見てくれてるかなぁ☆?」

「聖女様ぁ~☆」

 ピップルとポップルが大きな時計台に向かって手を振る。園内のどこからでも見えるほど大きな塔だ。ダンジョンよりも奥にある。
 近くまで行った事はないが、1日24時間正確に時を刻み続ける時計の盤面は、毎日何度も確認している。

「あの時計台って聖女様と何か関係あんの?」

「ええっ☆、ユウキ、知らないの!?」

「聖女様は、あの時計が付いてるおっきな塔に住んでるんだよ☆!?」

「……ごめん、全く知らんかった」

 何となく、聖女様は異世界チートキャラとして無双しながら世界を旅してるイメージがあった。勝手な思い込みだ。
 そうか、居るのか。ネコランドに。

「ふたりは会った事あるの?、聖女様」

「あるよ。開園式で。だいぶ前だけどね☆」

「長い金髪に花の飾りをつけた、とても優しそうでキレイなお姫様☆」

「金髪? 黒髪じゃなくて?」

「ん~、キラキラの髪の毛に見えたけど……」

 とすると、転移者じゃなくて転生者なのかな?
 ……どちらにしろ、やっぱり一度会ってみたい。
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