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第6話 失われし★聖女のためのパヴァーヌ
何処へ?
しおりを挟む「コレット。使者を迎える準備はできてるかナ?」
「冒険者ギルドに警備の要請はしています。ですが……」
「聖女様が当日接見する前提で準備を進めていて欲しいんだナ。出迎えの儀式や晩餐会も、急に開催するより中止にする方が楽なんだナ。必要な人材と物資の手配を頼む」
「聖女様不在のため、指揮系統の順位に基づき、マッツオ・サトパッド・パパラチアの指示を受け入れます。王国よりの使者を迎える準備を始めます」
「よろしく頼むナ」
コレットの肖像画が色を失い、動かないただの【絵】になると、疲れた顔のマッツオが俺の方に向き直る。
「手助け、ありがとうなんだナ、ユウキ」
「……団長ってエライ人だったんですねえ」
「ほっほっほ。聖女様からコレットの使い方を教わってるだけなんだナ」
「聖女様を助けに行くんですよね?」
「………………」
マッツオは無言で考え込んでいる。一年以上も前に居なくなった人を探すのって難しそうだ。
俺がもしチート無双キャラだったら、「さらわれた聖女様? 俺に任せろ!」って今すぐダンジョンに探しに行くのに。
「手伝えなくてすいません……俺、弱くて。まだ地下3階をウロウロしてます」
「ほっほっほ。自分のペースでいいんだナ。リトや双子達と頑張ってるんだろう?」
「はい。毎日2時間ずつ」
「聖女様の事は、おいらが何とかするんだナ。ただ、もしも……もしもどこかで聖女様に会ったら、『マッツオが心配している』とだけ伝えて欲しいんだナ」
「はい」
この話は他の者には内緒に、と念を押された。ただし、異世界から来た日本人には内密に意見を聞いてみて欲しいそうだ。
……早く手がかりが見つかりますように。
「おい。掲示板を見たか? 来週、王国から使者が来るってよ」
「け。あの王サマは虫が好かねえ」
「おい……不敬だ。捕まるぞ」
「それより何か新しいクエストない?」
「見ろよ魔女クエが更新されてる」
冒険者ギルドの掲示板前で騒ぐ冒険者達。
やはりガタイの良い冒険者が多く、まるでバリケードのようだ。
そんな中、小さな子供がピョンピョンと飛び上がって掲示板に張り出された告知を読もうとしている。
青い髪の少女の背中にはコウモリのような羽が一対。
だが異種族混合が当たり前のネコランドでは、特に気にする者はいない。
少女は背伸びをして冒険者のスキマから手を伸ばす。その手には丸い物が握られ、掲示板に向けられている。
「魔女様~っ、魔女様ぁ~っ!!」
洞窟内に響く声。明るい子供の声に聞こえるが、発しているのは目玉だ。コウモリのような羽が左右についた大きな目玉が宙を飛びながら大声を出している。
「聞いてくださいよぉ~!! 冒険者ギルドで最新情報ゲットですよぉ!?」
「まあ。地上に出たの? 危ないわよ、ダマ」
振り返ったのは、長いストレートの黒髪をゆるく三つ編みにした少女。ノートに数字や魔法陣のカケラを書き付けながら何か実験をしているようだ。
「ダイジョーブ、ダイジョーブ。ちゃあんと変身して行きましたからあ」
そう言うと、ポン!と音と煙を出して、羽つき目玉は小さな子供の姿になった。片目を隠すようなスタイルの青い髪、背中についた一対のコウモリ羽。先ほど冒険者ギルドで情報収集をしていた女の子である。
「ハイ!」
子供が差し出したのは目玉の形をした乳白色のクリスタル。受け取った少女はそれを台の上に起き、指先でタッチする。すると目玉型のカメラは映写モードになって、撮影してきたばかりのギルドでの様子を平らな白い壁に映し出す。
「魔女様の情報、また値段が上がってますよ。もしも生捕りにしたら20万ルーンですって!」
「ふぅん。コレットも馬鹿よね。そんな方法で聖女サマを探そうだなんて」
「うんうん! あ、いっそ、ちょっとだけ魔女様の情報売って稼ぎますぅ?」
「馬鹿。怒るわよ?」
「うっそでぇす! ママ大好き~!!」
「もう」
セリフとは裏腹に優しい口調の少女に、ダマは元の羽つき目玉の姿になって甘えるようにグリグリとすり寄る。
「疲れたでしょ? 昼寝してなさい。ちょっと出てくるわ」
「はぁい……むにゅう」
クッションの山に埋もれて目を閉じるダマ。大きな目玉の周りをおおう薄い膜がまぶたであり皮膚でもあるようだ。
(そんなに……わたしが憎いの? コレット……)
少女は書きかけのノートを閉じて机から離れる。
(【世界】が【わたし】を排除するなら……)
少女は部屋の隅のコート掛けから帽子とマントを手に取る。防御力と各種耐性が高いレア装備だ。その血のように紅い魔女帽子とマントを身につけ、少女はダンジョンの暗い通路を歩いてゆく。
(……抗うだけ)
ーーーーーーーー
※ 作者より
第6話終了。
本業の関係で更新は不定期になります。
当初の予定より少しだけコメディ多めで進行してるので、タイトルを「ネコランドへ ようこそ!」に変更しようか悩んでいます。
今後もよろしくお願いします。
応援ありがとうございます!
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