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第1章 初めての旅
出発!
しおりを挟む「悪いね、ミリアナ。馬車の中でゆっくりしてもらうつもりだったんだけど」
申し訳なさそうなデレファンに、
「ううん、私、御者台って乗ってみたかったの! マグリーの隣でもいいわよ。あの出っ張りに座ってるのって楽しそう!」
「あそこは危ない。マグリーは慣れてるから大丈夫だけど」
幌の骨組みにつかまって、馬車の荷台の後ろにある出っ張りに器用に腰かけたマグリーがこちらに向かって手を振っている。私も手を振り返しながら御者台に登り、手綱を持つデレファンの隣に座った。
ルーベンさんは幌の中で荷物に埋もれながら帳簿を付けている。
デレファンがこちらを見たので、注意される前にしっかりと手すりをつかんだ。
ニヤッと笑うデレファン。
「出発!」
号令と手綱の動きで馬が歩き出す。
馬車はゆっくりと進み、やがて村外れの柵を通り過ぎた。
ここからはもう、「外の世界」だ。
緊張したのもつかの間、私はすぐに知らない光景に熱中し始めた。
荷馬の太い足に盛り上がる筋肉や、ふわりふわりと動く尻尾。
自分で歩くよりもずっと高い位置から見下ろす風景。
村の方角から流れてくる小川。
遠くに見える美しい滝。
広い草原。
変な形の大岩。
丈夫な細いロープで固定されている荷物がカタカタと鳴る音。
そういったささいな事ですら楽しくて仕方ない。
ルーベンさんと息子達にとっては毎日のこと。でも私は初めて。
「そんなに興奮してると、すぐに疲れちまうぞ」
ついにデレファンに笑われてしまった。
「次に立ち寄る村でカブを半分以上売りますから場所が空きますよ。そうすれば昼寝くらいできるでしょう」
記帳が終わったらしいルーベンさんが幌から顔を出して言ったので、私はビックリした。
「ここしばらくは雨と晴れが程よく続いてたから、どこの村でもカブが大豊作じゃないの? 買ってくれるかなぁ?」
するとルーベンさんはニッコリと微笑んだ。
「次のラジテ村は特産品として漬物が有名なんですよ。私達以外の商人も買いに来る位にね。こんなに立派なカブなら、きっと漬物の材料として買ってくれるでしょう」
「そしたら塩も売れるね」
マグリーが抜け目なく付け加えた。
ラジテ村に到着すると、本当にカブが売れた。
「こんな見事なカブは見たことがない。ツヤツヤとして、いかにもうまそうだ。うちの村では、どうもカブがうまく育たなくてな。小さくて固いから、もっぱら家畜のエサにしとる」
ラジテの村長は手にしたカブをながめながら、うなった。
「シチューでも美味いし生でもイケるそうですよ。漬物にしても美味いでしょうね」
「これだけあるなら新しい味にも挑戦してみるよ。次、来るまでには何か新作を考えておくさ」
「それは楽しみです。じゃあ、これはオマケ」
と、もう数束のカブを渡す。ラジテの村長は大喜びだ。
私達が食べる分をわずかに残し、カブは全部売れた。
安くて得をしたとラジテの村長は喜んだが、私から見ると、逆にこちらが得をした気分。不思議。なんだか魔法みたい。
だって、カブならウモグル村に山のように余っているのだ。だけどラジテの人たちは、このカブの漬物ならきっと売れるに違いないと喜んでくれている。
買う時も売る時も喜ばれるなんて、ルーベンさんってすごい。
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