悪役令嬢になりたいのです!

Luckstyle

文字の大きさ
3 / 14
01 決めました!私、悪役令嬢になります!

01

しおりを挟む
「ようやく・・・・・・ようやくこの時がやってきましたわ!」
秋。うだるような暑さが漸く鳴りを潜め、晴天の佳き日に俺の主人、レディグレイ=アルグレイ伯爵閣下は両手を握り締め、歓喜の雄叫びのように全身を力ませて小声で叫ぶ。・・・・・・いつも思うが、非常に器用な方だ。
 ここはアブラム王国が王都、メイングラムの北東に位置する国立学園、サンディア学園の正門前の馬車乗降場。アルグレイ伯爵領が保持する馬車を降りたお嬢様が最初に取った行動がこれだった。
「お嬢様、そこで立っていると邪魔ですのでこちらにおいで下さい」
見かねて俺が声をかけると、お嬢ははたと周りを見渡して赤面し、少しばかり駆け足で俺の方へ逃げてきた。
 なにも知らない大人たちは、その姿を微笑ましそうに眺めている。
 それもその筈。お嬢が降りた馬車はアルグレイ伯爵が保持する馬車の中でも一番品の劣る、何処かの男爵が使うようなお忍び用の馬車だ。
 それに重ねて、隠せない金髪碧眼、陶器のように白い肌はそのままだが、身に纏う生地は三流品。誰がどう見ても貧乏男爵の次女以下の格好だ。服のデザインは学園指定なので、大貴族はこぞって生地に金を使うものだが、お嬢はその大枚を民の為にと使い、ほんの少し残したお金でコレを用意していた。
「父も母もこういう使い方をするはずですわ」
とはお嬢本人の言だ。
「少しでも見窄らしい格好をしていれば、鬱陶しいハエも少しは減るでしょうしね」
と続いていたので、こちらが本音なのだろう。
「それにしても、よろしいのでしょうか?私も一緒に学園に入学して」
辺りを見渡しながら、俺は臆病風に吹かれながらお嬢に聞く。
「あら?お嫌でしたか?学園の方針として、護衛の数人同じ授業を受けられるのですから、あなたが授業を受けられても何の問題も有りませんよ。それに、言っていたではありませんか。マックスが授業を受けて更に私の領に貢献がしたいと」
「それはそうなんですが、こうしていざその場に立つと気後れしてしまいまして・・・・・・」
理路整然と並べ立てられる言葉に返す言葉がなく、しどろもどろに胸中を明かすと、レディグレイ嬢は片手で口元を覆い、クスクスと笑う。
「あなたの、その素直な物言いを私は買っていますわ。知識と知恵を身に付けても、そこだけは変わらずあるよう、お願いしますね」
「・・・・・・精進します」
「期待していますよ。・・・・・・さあ、立ち話はここまでにして、行きましょうか」
そう言って、お嬢は優雅に歩を進め始める。まるで、どこかの貴婦人のようだ。
 その二、三歩後ろに付いて行きながら、そっと周りに視線を走らせる。
 最初の奇行では大分注目を集めてしまったが、お嬢が真っ先に向かったのは年端もいかない俺の元。両親では無いことで一族の中でも低位と見て興味を失ったのだろう。
 年端も行かないとは言うが、俺はれっきとした十五歳で成人している。童顔で、尚且つ飯の少ない環境で育ったため小柄なだけだ。お嬢とは三つ年の差がある。

「一週間後に入学式、次の日からはクラス交流を兼ねて一週間レクリエーションが行われます。その後は通常授業が続き、学期の中頃に二週間の休暇と一週間のレクリエーション。学期末に能力検定そして直後からもう一度レクリエーション。冬の長期休暇を経て後期始めに能力検定。後期中頃にこれまた二週間の休暇と一週間のレクリエーションがあり、学期末に能力検定とレクリエーションです。・・・・・・レクリエーション、多いですね」
お嬢の部屋の支度をしていたジーンと合流し、人払いの魔法をかけてから寮の男女共用スペースで今後の打ち合わせをする俺達。俺達の他にもちらほら同じようなことをしている集団があるが、俺達のように人払いの魔法までかけるところは皆無だ。
 ジーンは銀髪に青い瞳。メイド服に身を包んでいるが気品がありどこぞのお嬢様のような品のある立ち居振る舞いをしている。上司から教えてもらったのだが、どうやら何とかって言う子爵家の令嬢らしい。今は共にお嬢に仕える同僚なので砕けた会話をさせてもらっているが、実際には俺なんかは名前も呼ぶのもおこがましい雲の上の存在だ。
 どうしてそんな令嬢がお嬢に仕えているかというと、本人曰く「彼女の才能に一目惚れ致しました」と、頬を赤くしながら鼻息荒くしていた。ちなみに俺と同い年。主席で卒業したその年に今一度入学するとは、何と言っていいのかわからない複雑な気持ちになる。
 それはそれとして。
 人払いしたのはジーン曰く、俺の為でもあるらしい。
 何でも、一応『子供は平等』と言う謳い文句のこの学園は貴族が多く、平民は商家、それも枕詞に大がつく家の者しか居ない。
 俺が籍を置くお嬢の領の方が、平等と言う言葉は似合うかもしれない。
 お嬢の領は首都カナンの他に副首都が十都を抱え、その中で首都をお嬢が、副首都を子爵家が治め、そのほかに副首都の周辺にある町を男爵が治めている。そこでは生まれた子供が六歳になったら貴族平民関係なく領立学園に入れられ、最低限の学と家毎に必要な知識と技を学ぶ。希望者は領内限定で研究職に就く事もできる。
アルグレイ領ウチと比べてはダメですよ。何をやればいいかわかってないのですから」
「そんなもんですか」
実感の籠もった刺々しいジーンの言葉に、嘆息するように俺は応じる。
「一部は私達が一年で学ぶモノを三年かけて教えてますからね。まぁ、収穫があるとすれば魔法学と騎士学くらいでしょうか。今年、暇つぶしで農業学を取ったら生徒は私一人で、教師の方に連作の事をお教えしましたよ」
「うへぇ・・・・・・」
更に言葉を重ねるジーンに、俺は閉口するしかなかった。連作と言えばお嬢の領地では十年も前に実用化された知恵で、五年前には一般教養として周知され、領内では知らない人は居ない古い知識だ。それだけに、この学園のレベルの低さが伺える。
「あら?ここの人たちは農業学は受けないのですね。農業学を学べば、より早く自分の領地を発展させられますのに」
お嬢が食いついたのは、俺とジーンが問題としている部分ではなかった。
 お嬢が常々言っている、「民の為」「民の為」と言う言葉は真に心からそう思っているとわかる。
「なんでも、土いじりは平民のやることらしいですわ」
「そうなの・・・・・・。研究院の成果は一度領主に集められ、領主の権限で知識を拡散させる事になっているのに・・・・・・」
ジーンの言葉に、見たこともない民を想ってしょんぼりとうなだれるお嬢。
 こんなお姿を見せられると、どうにかして明るい顔をさせたくなる。
「およ?ここら辺、人が少ないじゃない。やっと落ち着けるわー」
そんな折り、なんとも能天気な声が人払いの魔法の中で唐突に響いてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...