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第一章
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食堂に降りると、そこでの話題は昼間に発表された内容で持ち切りだった。
曰わくあそこの国の聖女はただの売女で、権力がほしいから教皇に取り入って聖女になったとか、あっちの国では年端もいかぬ王女に聖女にしてやるから体をよこせと宣ったとか、御使い様がこの地でシミュリストル様と協力して教国を打倒しようとしているだとか、そう言った具合だ。キワモノでは、ガンジュール様がまたシミュリストル様にイタズラされてぶっ倒れられたとも噂になっていた。それを聞いた人は「やはりガンジュール様はシミュリストル様の御寵愛を一身にお受けになられている」とまるで笑い話のように受け流していた。
ちょっと気になって突っ込んで話を聞いてみると、シミュリストルは気に入った人物が現れると先ずは少々の加護と多少のイタズラを仕掛けるらしい。イタズラがエスカレートするにつれ、加護も大いなる物になっていくという。・・・・・・この話しはこの領地でのみ噂されている事であって、世界的な噂ではないらしい。
この噂はシミュリストルの耳に入れてはいけない気がした。
因みに、ガンジュールの身に良くあるイタズラでは、領地視察に出た後屋敷に戻ってくると書類仕事が全部終わっていて、その夜は奥方にしっぽりと搾り取られるそうだ。この前なんかは朝までコースだったらしく、ふらっふらになっていたらしい。
それで良いのか神様よ。そう思わずには居られない。
「でもよ、あのガンジュール様が気絶する程の事ってなんだ?」
不意に、声のトーンを落として男が言葉を発する。噂を聞き出した手前、口出しするのは憚られる。
「なんでも、エリュシア様が昨日まで実家に帰ってご静養なされてただろう?それも遠からずに原因があるってもっぱらの噂だ」
「なるほど?俺が聞いた話じゃ、エリュシア様は静養地から娘たちを置いて、更には無理を推して来られたと言っていたぞ」
「つまり」
「静養を余儀なくされるほどエリュシア様のお加減が悪かったにも関わらず」
「無理を押すほどの重大なことが起こったので単身ご報告に?」
「それを聞いてガンジュール様は気絶した?」
「・・・・・・・・・・・・」
「めでてぇ!領民が皆待ち望んだご子息様だ!」
「あぁ!間違いねぇ!領主も待ち望んでいたに違いない!だから気絶する程驚いたんだ!」
「店主!酒だぁ!酒持ってこい!今日は宴だぁ!」
大喜びで酒をかっ食らう。どこもかしこも同じ結論に至るのか、そこかしこから祝いの声が上がり始め、いつしか食堂全体で祝いの宴になっていった。
次の日、何故か俺と美咲はヤイガニーさんに屋敷へ来るよう要請され、屋敷へ来ていた。
なんでも、朝早くから領民達が押し寄せてきていて、一人で対応は無理と判断。雌伏している騎士達を召集しようかとも思ったが、その騎士達も領民に混じっていたので断念。裏口からこっそり抜けて俺たちの下へ馳せ参じたとの事。了解の意を伝えると、「朝食を摂ってから来ると良い」と言い残して素早く立ち去ったのだから大分追い詰められているようだった。
で、話しを戻すと俺は今、屋敷の前で交通整理をしていた。領主へお祝い金を納めようとして来ている人は右へ。領主への祝賀の祝詞を納めに来た人は真ん中。領主へ質問をしに来た人は左へと分け、お祝い金の納付者はヤイガニーさんが、祝詞を納めに来た人は美咲が対応している。
・・・・・・完全に昨日の話が一人歩きしているし、同時多発的に起こったようだ。
交通整理が終わり、休憩にはいるため屋敷にお邪魔すると、怪訝な表情で外を見つめるガンジュールさんとエリュシアさんが居た。
ガンジュールさんは病み上がりだというのにしっぽりと搾り取られた後のようでフラフラだ。対するエリュシアさんは満足いったようにつやつやとして艶やかだ。
そんな二人に、昨日の食堂での出来事を詳細に教えてあげた。すると、エリュシアさんが花が咲き乱れるように微笑む。
「あらあら、領民がその様な事をお望みですのね?それに、ガンジュール様も人が悪いですわ。私にはどちらでも構わないと言っておきながら、男の子を待望していたなんて」
「ご、誤解だエリュシアっ!確かに領民は男子を望んでいるとは思うが決してっ!決してどちらが良いと願ったことはっ!!」
「本当に、ありませんこと・・・・・・?」
「・・・・・・そりゃあ、一度や二度はあった。なにせナターリアやエルフィンを見よ。あれほどの武の才、それにミリーシアとキスタニアは賢さ。サンディやメルーシはこれからどんな才が花開くか楽しみだ。これが男子ならばと思うこともなかった事はない。これから授かる子供が男子ならばどの才が花開くのかと興味はある。あるが、・・・・・・あるがなぁ」
叫ぶように言い募るガンジュールに対し、見透かすように静かに見つめるエリュシア。それに負けてガンジュールは胸中を吐露すると、今度はエリュシアがパッと表情を明るくしてガンジュールを抱きしめた。
「なら!当たるまでヤリましょう!次は男の子ですよ!任せてくださいっ!」
その言葉に、ガンジュールは恐れ戦く。
「やるって、何をやる気だねっ!?」
「そりゃあ、ナニですよ!領民達もっ!ガンジュール様本人も欲しがっているじゃありませんかっ!こうしちゃ居られません!領民に男子を授かった事を伝えて今日から当たるまでしっぽりぬっぽりバカになって気絶するまで致しましょう!」
・・・・・・壮年になると、女は性欲が強くなると言うが本当だったんだな。
エリュシアさんは逃げ出そうとするガンジュールさんの首根っこをひっつかんで消えていった。
遠くから、領民達の鬨の声が聞こえる。ガンジュールさんが男子を授かったと公表したのだろう。その、地響きでも起きたとばかりに錯覚する声を聞いて、俺は先程交わされた言葉を墓場まで持って行こうと決めたのだった。
曰わくあそこの国の聖女はただの売女で、権力がほしいから教皇に取り入って聖女になったとか、あっちの国では年端もいかぬ王女に聖女にしてやるから体をよこせと宣ったとか、御使い様がこの地でシミュリストル様と協力して教国を打倒しようとしているだとか、そう言った具合だ。キワモノでは、ガンジュール様がまたシミュリストル様にイタズラされてぶっ倒れられたとも噂になっていた。それを聞いた人は「やはりガンジュール様はシミュリストル様の御寵愛を一身にお受けになられている」とまるで笑い話のように受け流していた。
ちょっと気になって突っ込んで話を聞いてみると、シミュリストルは気に入った人物が現れると先ずは少々の加護と多少のイタズラを仕掛けるらしい。イタズラがエスカレートするにつれ、加護も大いなる物になっていくという。・・・・・・この話しはこの領地でのみ噂されている事であって、世界的な噂ではないらしい。
この噂はシミュリストルの耳に入れてはいけない気がした。
因みに、ガンジュールの身に良くあるイタズラでは、領地視察に出た後屋敷に戻ってくると書類仕事が全部終わっていて、その夜は奥方にしっぽりと搾り取られるそうだ。この前なんかは朝までコースだったらしく、ふらっふらになっていたらしい。
それで良いのか神様よ。そう思わずには居られない。
「でもよ、あのガンジュール様が気絶する程の事ってなんだ?」
不意に、声のトーンを落として男が言葉を発する。噂を聞き出した手前、口出しするのは憚られる。
「なんでも、エリュシア様が昨日まで実家に帰ってご静養なされてただろう?それも遠からずに原因があるってもっぱらの噂だ」
「なるほど?俺が聞いた話じゃ、エリュシア様は静養地から娘たちを置いて、更には無理を推して来られたと言っていたぞ」
「つまり」
「静養を余儀なくされるほどエリュシア様のお加減が悪かったにも関わらず」
「無理を押すほどの重大なことが起こったので単身ご報告に?」
「それを聞いてガンジュール様は気絶した?」
「・・・・・・・・・・・・」
「めでてぇ!領民が皆待ち望んだご子息様だ!」
「あぁ!間違いねぇ!領主も待ち望んでいたに違いない!だから気絶する程驚いたんだ!」
「店主!酒だぁ!酒持ってこい!今日は宴だぁ!」
大喜びで酒をかっ食らう。どこもかしこも同じ結論に至るのか、そこかしこから祝いの声が上がり始め、いつしか食堂全体で祝いの宴になっていった。
次の日、何故か俺と美咲はヤイガニーさんに屋敷へ来るよう要請され、屋敷へ来ていた。
なんでも、朝早くから領民達が押し寄せてきていて、一人で対応は無理と判断。雌伏している騎士達を召集しようかとも思ったが、その騎士達も領民に混じっていたので断念。裏口からこっそり抜けて俺たちの下へ馳せ参じたとの事。了解の意を伝えると、「朝食を摂ってから来ると良い」と言い残して素早く立ち去ったのだから大分追い詰められているようだった。
で、話しを戻すと俺は今、屋敷の前で交通整理をしていた。領主へお祝い金を納めようとして来ている人は右へ。領主への祝賀の祝詞を納めに来た人は真ん中。領主へ質問をしに来た人は左へと分け、お祝い金の納付者はヤイガニーさんが、祝詞を納めに来た人は美咲が対応している。
・・・・・・完全に昨日の話が一人歩きしているし、同時多発的に起こったようだ。
交通整理が終わり、休憩にはいるため屋敷にお邪魔すると、怪訝な表情で外を見つめるガンジュールさんとエリュシアさんが居た。
ガンジュールさんは病み上がりだというのにしっぽりと搾り取られた後のようでフラフラだ。対するエリュシアさんは満足いったようにつやつやとして艶やかだ。
そんな二人に、昨日の食堂での出来事を詳細に教えてあげた。すると、エリュシアさんが花が咲き乱れるように微笑む。
「あらあら、領民がその様な事をお望みですのね?それに、ガンジュール様も人が悪いですわ。私にはどちらでも構わないと言っておきながら、男の子を待望していたなんて」
「ご、誤解だエリュシアっ!確かに領民は男子を望んでいるとは思うが決してっ!決してどちらが良いと願ったことはっ!!」
「本当に、ありませんこと・・・・・・?」
「・・・・・・そりゃあ、一度や二度はあった。なにせナターリアやエルフィンを見よ。あれほどの武の才、それにミリーシアとキスタニアは賢さ。サンディやメルーシはこれからどんな才が花開くか楽しみだ。これが男子ならばと思うこともなかった事はない。これから授かる子供が男子ならばどの才が花開くのかと興味はある。あるが、・・・・・・あるがなぁ」
叫ぶように言い募るガンジュールに対し、見透かすように静かに見つめるエリュシア。それに負けてガンジュールは胸中を吐露すると、今度はエリュシアがパッと表情を明るくしてガンジュールを抱きしめた。
「なら!当たるまでヤリましょう!次は男の子ですよ!任せてくださいっ!」
その言葉に、ガンジュールは恐れ戦く。
「やるって、何をやる気だねっ!?」
「そりゃあ、ナニですよ!領民達もっ!ガンジュール様本人も欲しがっているじゃありませんかっ!こうしちゃ居られません!領民に男子を授かった事を伝えて今日から当たるまでしっぽりぬっぽりバカになって気絶するまで致しましょう!」
・・・・・・壮年になると、女は性欲が強くなると言うが本当だったんだな。
エリュシアさんは逃げ出そうとするガンジュールさんの首根っこをひっつかんで消えていった。
遠くから、領民達の鬨の声が聞こえる。ガンジュールさんが男子を授かったと公表したのだろう。その、地響きでも起きたとばかりに錯覚する声を聞いて、俺は先程交わされた言葉を墓場まで持って行こうと決めたのだった。
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