異世界探訪記

Luckstyle

文字の大きさ
上 下
81 / 141

八十日目。クリスタル洞窟入り口前にて

しおりを挟む
八十日目。
 うーん、昨日より調子がいいような?

 朝起きたらそんな事を思った。朝食の時にそれを話題に出すと、それぞれ程度は違うが概ね俺と同じ感覚らしい。
 何かあるんだろうなぁ。とは思ったが、話題はそこで終わった。

 今日は魔法を発動させてからの操作の訓練だった。
 今まで俺は基本的に発動したらそれっきりの魔法を多用してきたのでイメージが解らなかったが、使ってみたら何のことはない。『千里眼』の操作と殆ど変わらなかった。
 『灯火トーチ』の魔法を指先から空中へ浮かべ、周囲を集会させるとギルビットさんは「まぁ、当然だろう」と言う表情を浮かべ、ラスティーを除いた物達は唖然と、ラスティーはどこか自慢するような表情を取る。
 千里眼では気付かなかったが、魔法を操作するとき、魔力で圧す様な使い方をするんだな。
 この周囲を回す操作も、進行方向へ押し込むイメージと離れすぎないよう、上下にぶれないようにガイドを作って支えるイメージ二つで成り立っている。
 それを見て取ったのが年の功とでも言うべきかギルビットさん。「効率が悪い」と一言貰った。
 では。と、『灯火トーチ』に重力概念を取り入れ周囲に螺旋状の外へ下がった床と壁をイメージしてその上を転がす。
 阿呆。と額にチョップを貰った。
 今度はギルビットさんが『灯火トーチ』を発動させ、俺が見る側。ギルビットさんは魔力探知の魔法陣を使って見ていたらしい。
 あ。
 と、思った。周囲を回すだけなら紐にボールを繋げて回すようにしたら確かに効率が良い。
 話の続きで、ギルビットさんは先程の紐をゴムのように伸縮させ、有り体に言えば打ちっ放し。精度は目をむく物があるが、飛び方は弓矢のそれだ。
 対して俺は『灯火トーチ』の後ろにすり鉢状の押し込む魔力を発生させる。素早くはないが、縦横無尽に空を翔るそれに対し、ギルビットさんは目を潜めた。

 そうやって俺がギルビットさんと張り合っている間、皆は『灯火トーチ』を指先から離して維持する事に苦戦していた。
 燃料である魔力をどう『灯火トーチ』に供給するか悩んでいたそうだ。
 燃焼時間を増やそうとしても、ただ『灯火トーチ』が燃え上がるだけでストックされない。アズラータさんがそうなのだから他の皆も推して知るべし。
 第八級収束魔法『火球ファイヤーボール』が最初の関門と言われているらしいが、それがこの為らしい。
 あれは元から浮いているのでイメージしやすく、ギルビットさんがやっていたように打ちっ放しなので制御も簡単なのだとか。
 『灯火トーチ』と『火球ファイヤーボール』は別物として考えているのかな?

 アレこれやりながら歩いていたら昼休憩の野営地を発見。昼食後にギルビットさんと魔法談義に華を咲かせていると、ハヌラット君がヒントを求めてきた。
 俺は魔力探知の魔法陣を彼に渡し、『灯火トーチ』を指の周りで回してみせる。
 俺を指さししながら「あー!」と声をあげた彼は年相応か低く見えた。
 そこで唐突に『火球ファイヤーボール』を発動させて自分の状態を確認したのは慧眼だと誉めざるを得ない。もう一度「あー!」と声を上げたのは彼の中での青天の霹靂だったのだろう。メヌエットさん達にに魔法陣を渡して同じ驚きを共有したのは彼の優しさからか。

 午後の道のりでは、複数の『灯火トーチ』を浮かばせる訓練を行った。
 まぁ、先ずは指先全てに『灯火トーチ』を発動させるところから。
 これはそれ以上に困難な伝達魔法を数十人にかけた俺は見学となった。まぁ、やれと言われたら出来るので問題ない。
 ここで開始と同時に達成したのはメヌエットさん。
 単一の魔法を複数発動させるのは練習していて、出来ていたらしい。
 少し経って出来たのはハヌラット君。こちらは一度複数の魔法を発動させる事を思い付いたが、数回練習をして難しく、一発の威力の底上げを目指した手合いだった。
 ラスティーとアズラータさんは学校の授業で複数発動の事は教わったが、とても難しいと言われていたので無意識下で苦手意識を持っていたようだ。
 ラスティーにはガスコンロの火口を想像させ、アズラータさんは竈門の火を焚く部分を一口、火を当てる部分が複数ある竈門を想像させたら出来るようになった。
 そこで気付く魔力枯渇。アズラータさんとラスティーが唐突に倒れたことで思い至った。

 教訓。集中すると体の疲労は解らなくなる。
しおりを挟む

処理中です...