異世界探訪記

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九十八日目。エルフ族の集落にて

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九十八日目。
 昨日は一日中裁縫に集中していた。巧くならん物だ。
 今日は気分転換で、と言うよりずれ込んでしまっていた休暇日だったので集落を見て回った。少年少女達が笑いながらついてくるが、何が楽しいのか、これが解らない。
 始めに訪れたのは南西方面にある湖。それからその畔にある水車小屋。
 相変わらず水車小屋の外壁は手が付けられていないが、内部は殆ど出来上がっていると見て良さそうな仕上がりになっている。
 兵士達が作っていたのは水車の回る部分のようだ。半分まで組み上がった車輪が大小二つ横倒しになっている。
 興味津々に触ろうとしていた少年たちに、これが完成したら此処まで水を酌みに来なくて良くなるんだよと教えると離れていって喜びの舞を披露してくれた。後で作ってくれている木工職人と兵士達にお礼をしようねと言うと満面の笑みで同調してきたから頭をなでてやった。

 次いで訪問したのは食後の皿洗いで慌ただしい広場の青空厨房。青空厨房と言っても九本の柱と屋根はある。屋根も中心が高く周囲が低い傾斜を持ち、煙を逃がすため中心は開いており、その上に少し間を空けて中心の屋根がある造りだ。
 ラスティー、ファルムスさん、マナフィさんは食後はここで皿洗いをしている。今日は俺も手伝った。
 皿洗いの水は近くの池から持ってきたもので、料理人のスタットさんが殆ど水の使用量を気にせず使えるようになって楽になったと言っていた。

 次は大体の狩り組が集まる西北西の広場を訪問した。前に今愛用している弓を作った所だ。
 休暇日ながら訓練に勤しむ狩り組の面々は頼もしい。訪問した時刻では兵士達の姿が見えなかったが、この時間、兵士達は集落の周囲を駆け回っているらしい。学校の外周を走る体育の授業を思い出した。
 狩り組の横で少年たちが木の枝を持ち、打ち込んでくるのを俺が避ける遊びをした。途中から少年少女達の方にハヌラット君とメヌエットさんが加わり、投石の代わりとして草花を小袋に詰めたものまで飛んできて大変だった。

 そこの訪問で昼になったから広場に戻ると、俺の散歩に興味を持ったハヌラット君とメヌエットさん、バヤット君が同行の許可を求めてきた。面白くもなんとも無いとは思うのだが、まぁ、断る理由もないので了承した。

 次に訪問したのは農作業組の居る南東方面。こっちには二つ目の池が有り、南方面にもう一つ。更に南西方面にも池があり、そこから湖に戻っていく。
 今日は休暇日と言うことでさすがに農作業をしている人は少なかったが、やっている人はやっている。やっていない人も見回りをしているようだ。
 水車小屋の完成が心待ちなのか、会う人会う人水車小屋の話題が多い。
 それでなくとも、先の雨で池に貯まっていた水で楽が出来てるとハヌラット君達と同世代の女の子が笑顔でお礼を言ってきた時には提案して良かったと胸をなで下ろした。

 その次は中央から東北方面に至る住居区画。ここには内職組やご高齢の方達がのんびりと過ごしている。完全に休んでいる狩り組、農作業組の人達も見受けられた。
 内職組の中には工芸品などを制作する生産者と、木の実などを拾う収穫者がおり、貨幣獲得や食材提供など、農作業組とやる事は全く違うが殆ど同じ役割を担っている。水車小屋の制作を担っている木工職人も内職組だ。
 木工職人の人達は俺とギルビットさんに感謝していた。何故かというと、俺がギルビットさんに教えたギア、それを理解し設計に反映したギルビットさん。
 そのお膳立てがあったからこそ現場の自分達が研鑽し続けていた技術を遺憾なく発揮出来ると言っていた。
 どこからも感謝の声が聞こえて来て提案した側の俺は逆に感謝しかない。受け入れてくれた恩を返せている実感があるからだ。
 この実感はかなり癖になるが、これ以上提案できないとも考えている。この集落にはやはり、自然と共生する信念みたいな物が言葉や仕草の中に見受けられるからだ。
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