凡骨の意地情報局

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ブレストパスト抗争

自己紹介

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「やぁ、良く来たね。来るとしても後数日はかかると思っていた。立ち直りが早くて良かったね」
部屋に入ってきたアシュリーに向き合い、少しばかり彼女を見つめると男はそう言いながら手振りでソファーへ座るよう促した。
 アシュリーは初対面の人物にそんなことを言われ、面食らいつつも素直にソファーへ腰を埋める。

 男は黒髪短髪、光の加減で焦げ茶色に変化するようだ。
 細い目は柔和そうに目尻が下がり、一目見たときは大柄な人物かと感じたが小柄なアシュリーより頭一つ分しか上背がなく、男としては普通くらいの身長だろう。

 傭兵と広く言われている様に筋骨隆々までは行かないまでもがっしりとした体格で、気弱な人なら怯えてしまうかも知れない。そんな評価を下しながら、アシュリーは言葉を紡ごうと口を開いた。

「アシュリー・フォン・ブレストマイズ嬢。
 肩甲骨中程まで父譲りの金髪を伸ばし、最近のお気に入りの髪型はハーフアップ。
 鈴の様な大きな瞳は父と母の中間を持ってきたかのように若干のつり目。
 瞳の色は母親譲りのエメラルドグリーン。
 小柄ながら十二才にして北方にこの人有りと噂されるほど武に長け、母親譲りの高い魔力量に幼い頃から魔法に触れていたお陰で天才的と言われる程緻密な魔力操作が可能。
 で、良いかな?悪戯好きのお嬢様方?」

しかし、言葉にする前に男からそんな事が紡がれた。
 無礼者!と怒るところかも知れないが、その前にアシュリーは彼の言葉に興味を引かれる。
 『凡骨の意地』という傭兵団は貴族嫌いで有名で、ここ最近、貴族からの依頼をことごとく断っていると噂されていた。
 その事から北方の辺境出身のアシュリーの事など知らないだろうと思っていたのだが、どうやら知っていたらしい。
 一応、話し掛けた女性にはブラウン商会の娘と名乗ったが、役に立たなかった様だ。
 それから、お嬢様方と言ったことから澄まし顔で後ろに控えているマーシェリーの事も知っているのかも知れない。

「私はハリス・フォード。
 先の戦争で男爵位を賜った、傭兵団の団長だ。
 男爵と言っても名ばかりでね、様付けされると怖気が走るから出来れば呼び捨てにして欲しい」
自己紹介のつもりだろう。アシュリーの正面に腰を下ろした男はそんな事を言う。
 興味を持って静かにしていたのが幸いしたと、アシュリーは心の底で安堵の溜息を吐く。
 実際の立場は親が伯爵であるアシュリーの方が上だろうが、名目上、伯爵家と言えど令嬢でしかないアシュリーより男爵の位に居る目の前の男、ハリスの方が上だ。
 彼がどんな知識を持っているか知らないが、言外に注意してくれたのだろう。
 そう思える程彼の言葉は柔らかい声音をしている。

「わかりました」とアシュリーが応えると、ハリスは苦笑を漏らしつつ、いつの間にか後ろに控えていた背広の男に何事かを指示した。
 男は恭しく礼を取ると素早く部屋から退出し、姿が見えなくなった。

「まぁ、楽にしなさい。
 一応、此処ここには咎めるような輩は居ないし、人目を気にするような所ではないからね。
 丁寧に受け答えされる方がこちらとしては緊張してしまうよ」
男爵と聞いて緊張したのが解ったのか、溜息を吐くように吐き出された言葉には、何故か慈愛のようなモノをアシュリーは感じた。

「此処は傭兵団『凡骨の意地』の拠点であると同時に、『駆け込み相談所』の事務所でもある。
 君が此処へ来た理由はどちらに持ち込むモノなのかな?
 もし、相談所に持ち込む話ならば本人がそんなに緊張していると本音が出てこないかも知れない。
 そうなると私達が発する助言も見当違いになるかも知れないからね。
 できうる限り実家の執事に相談するような態度で居てくれるのが望ましい」
優しく諭すように、アシュリーへ言葉を重ねるハリス。
 言葉の端々に此方こちらの持って来た問題を知っていそうな雰囲気はあるが、あくまでもハリスはアシュリーからの生の声を聞きたがっている雰囲気がある。

 ハリスの言葉が終わると、先程の男がワゴンを押しながら入ってきた。
「お茶をお持ちしました」
 変声期前の少年のような見た目の彼からは想像できない程の低い声でそんな言葉が紡がれる。
 アシュリーがそちらへ目を向けると、見たことのない茶器が並んでいた。

「こちらのお茶は緑茶と言いまして、気分を落ち着け、リラックスする効果があります。
 後、多少の覚醒作用もあり、前述の効果と合わせて気分をスッキリ、リフレッシュしてくれます」
「ん?」
言いつつ、ティーポットに似た茶器へ水差しからお湯を注ぎ、取っ手のない寸胴のティーカップへ黄緑色に変色した液体を注ぐ様を見せつける男。
 アシュリーはそんな効用のあるお茶が有ったのかと感心しながら見つめるが、ハリスは彼の説明に疑問を持ったかのように声を上げる。

 すると、男は上半身は優雅にアシュリー達へ配膳しつつハリスを蹴り上げる微妙に器用なことをしてのけた。
 アシュリーの視線は配られた緑茶に釘付けで、ハリスがどうなっているか見えていない。
 マーシェリーは目の前で起きていることに対して理解が追い付いていないかのように微動だにしていなかった。

「す、少しこのお茶を飲んで羽を伸ばすといい。お茶請けは……これも初めて食べる物だろう。
 煎餅と言ってバリバリとした食感、音、それから味を楽しむお菓子だ。気にせず食べるといい。
 少し、席を外すね」
顎を押さえつつ、マーシェリーまでお茶が廻るのを見届けてからハリスが席を立った。
 席について直ぐのため失礼だと思う反面、彼自身の言葉や背広の男が用意したお茶の効果を聞く限り言葉通りできる限り自分達がリラックスしてから話を聞きたいのかもとも思ってしまう。
 何はともあれ、彼の真意は解らないが、唐突にできた空白の時間、これを使ってできる限り緊張を解しておこうとアシュリーは思った。
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