20 / 21
ハリス、幼女を拾う
裁判
しおりを挟む
ジェフリーがリリーを連れ去って二日がたった頃、昼前にアステヤック侯爵邸へ王城から登城するよう命令が出された。
その時にリリーも帯同するよう申しつけられ、馬車を分け、リリーの乗る馬車にはアステムのみ乗り込むよう通達された。
王城に到着するとジェフリー達はリリーから離されてから待合所に通され、そわそわしながらその時を待つのであった。
リリーはジェフリー達から離されて別の待合所に入ると、そこには少し窶れた雰囲気があるハリス、タツヤ、サリーが居り、リリーは思わず駆け寄ってハリスの足に抱き付いた。その様子を見ていた案内人は頷いて立ち去って行く。
「直接会うのは久し振りですな」
「えぇ。情報収集のためにサリーを受け入れてくださって感謝しております。
滞在中、良くしてくれたとサリーも申しておりますよ」
「ホッホッホ、サリー嬢はやんちゃだったと記憶しておりましたからな。伸び伸びと動かれた方が成果が出ると思い、思った通りでしたよ」
リリーを抱き上げつつ会話を行うハリスは窶れてはいる物の穏やかな面持ちで居て、タツヤやサリーを震え上がらせた雰囲気は霧散しているようだ。
「そう言えばリリー、一昨日私の部屋へ入ってくる前にサリーが渡したネックレスは持ってきてくれたか?」
頬擦りするような勢いで笑いかけるハリスに、リリーは頷いてから服の下に身に着けていた深緑色の宝石を据えたネックレスを取り出す。
それにハリスはポケットから取り出した緑色の宝石を取り出して触れさせると、両方の宝石が輝きだした。
暫くして通された部屋は王城の最奥部。国王の応接室だった。
迷路のような下層に加え、一般的な子女であれば息切れしてしまうような螺旋階段の先にあったので案内人に許可を得てハリスはリリーを抱き上げて移動している。
挨拶をして親しげにハリスと国王が会話を交わしていると、遅れてジェフリーがやってきた。
自動書記の魔道具を眺めていたリリーはそれに気づくと慌てたようにハリスに張り付き、アステムもリリーを庇うように立ち位置を変える。
「ふむ。揃ったな。
ジェフリー子爵、こちらの者からアステヤック侯爵の後見人には不適格との訴えが来ているのだが、申し開きはあるかね?」
「そんな事はありますまい。私はレイリー……前アステヤック侯爵が逝った後一生懸命にミスリーを育てています」
国王の言葉に、ジェフリーはなんだ、そんな事かと身構えて強張った体を緩め、堂々とそんな事を言う。
「ふむ。それにしてはリリー嬢は痩せているように見えるし、年齢ほど教養を身につけてないように見えるが?」
「それは彼女が小食であまり食事をせず、家庭教師の言う事を聞かないからでしょう」
「それは異な事を言う。彼女の行動を見ていたが、大人の話はよく聞き、好奇心も旺盛だ。知らない事も周りに合わせて行動するのが最善である事も理解しているようだ。そのような者が家庭教師の言う事を聞かないなど無いと思うのだが」
「その娘は外面だけは賢しく良いのです。育てるこちらとしてはほとほと困っているところですよ」
国王の追求に、薄く笑みも浮かべて答えるジェフリー。それに対して国王は一つため息を吐くと話を切り替えた。
「そうか。それともう一つ。
代々女系の貴族としてこの国では名を馳せているアステヤック侯爵を名乗ったそうだが、こちらに関しては?」
「ただの噂でしょう。私はアステヤック侯爵の嫡子であられるミリーの後見人。
名乗るときは誤解を生まないよう細心の注意を払って名乗るようにしております」
「だ、そうだが?」
ジェフリーが自信満々に言うのを最後まで聞かずに国王はジェフリーから視線を外し、それをハリスに向ける。
「では、私が彼に受けた事をこの記憶玉に記録していますので国王様にご覧に入れましょう」
そう言ってハリスは表に二つあるポケットの一つから記憶玉を取り出し、もう一方に入っていた投影機に乗せ、照明代わりのガス灯を消して闇の帳を下ろす。
「ふむ。以前見たときは明るい所だったが暗い方がよく見えるのだな。……さて、ジェフリー。言い訳はあるかね?」
「こ、こんなのはでたらめだ!大方私に似ている奴を使ってそれっぽく見せているだけだろう!」
先日、ハリスの拠点に乗り込んできた時の事案を放映され、いきり立ったジェフリーはつばを吐きながらがなり立てる。
「では、どうしてリリー嬢がアステヤック邸に居たのかね?使いの者が告知を出したとき、リリー嬢の姿をアステヤック邸で確実に確認したと言っておったぞ」
「それはリリー嬢が一人で帰ってきたのです!」
国王の問いかけに、苦し紛れのジェフリーは適当な事を言い始める。
それを聞いて我慢の限界に達したリリーはハリスの側から離れて投影機の上にネックレスを置き、その中身を再生し始めた。
再生の途中でジェフリーはリリーを殴り倒して再生を止め、ネックレスを破壊するが抵抗はそこまで。国王に呼ばれた近衛騎士に拘束され、退席していった。
「さて、静かになったな。それで、どうしたものか。リリー嬢は何を見せたかったのかな?」
国王自ら回復魔法を使ってリリーのけがを治して、慈愛のこもったまなざしを送りながらリリーに尋ねる。
それを聞いたリリーはハリスを見て彼の胸元あたりを指さした。
『複製があります』
その時にリリーも帯同するよう申しつけられ、馬車を分け、リリーの乗る馬車にはアステムのみ乗り込むよう通達された。
王城に到着するとジェフリー達はリリーから離されてから待合所に通され、そわそわしながらその時を待つのであった。
リリーはジェフリー達から離されて別の待合所に入ると、そこには少し窶れた雰囲気があるハリス、タツヤ、サリーが居り、リリーは思わず駆け寄ってハリスの足に抱き付いた。その様子を見ていた案内人は頷いて立ち去って行く。
「直接会うのは久し振りですな」
「えぇ。情報収集のためにサリーを受け入れてくださって感謝しております。
滞在中、良くしてくれたとサリーも申しておりますよ」
「ホッホッホ、サリー嬢はやんちゃだったと記憶しておりましたからな。伸び伸びと動かれた方が成果が出ると思い、思った通りでしたよ」
リリーを抱き上げつつ会話を行うハリスは窶れてはいる物の穏やかな面持ちで居て、タツヤやサリーを震え上がらせた雰囲気は霧散しているようだ。
「そう言えばリリー、一昨日私の部屋へ入ってくる前にサリーが渡したネックレスは持ってきてくれたか?」
頬擦りするような勢いで笑いかけるハリスに、リリーは頷いてから服の下に身に着けていた深緑色の宝石を据えたネックレスを取り出す。
それにハリスはポケットから取り出した緑色の宝石を取り出して触れさせると、両方の宝石が輝きだした。
暫くして通された部屋は王城の最奥部。国王の応接室だった。
迷路のような下層に加え、一般的な子女であれば息切れしてしまうような螺旋階段の先にあったので案内人に許可を得てハリスはリリーを抱き上げて移動している。
挨拶をして親しげにハリスと国王が会話を交わしていると、遅れてジェフリーがやってきた。
自動書記の魔道具を眺めていたリリーはそれに気づくと慌てたようにハリスに張り付き、アステムもリリーを庇うように立ち位置を変える。
「ふむ。揃ったな。
ジェフリー子爵、こちらの者からアステヤック侯爵の後見人には不適格との訴えが来ているのだが、申し開きはあるかね?」
「そんな事はありますまい。私はレイリー……前アステヤック侯爵が逝った後一生懸命にミスリーを育てています」
国王の言葉に、ジェフリーはなんだ、そんな事かと身構えて強張った体を緩め、堂々とそんな事を言う。
「ふむ。それにしてはリリー嬢は痩せているように見えるし、年齢ほど教養を身につけてないように見えるが?」
「それは彼女が小食であまり食事をせず、家庭教師の言う事を聞かないからでしょう」
「それは異な事を言う。彼女の行動を見ていたが、大人の話はよく聞き、好奇心も旺盛だ。知らない事も周りに合わせて行動するのが最善である事も理解しているようだ。そのような者が家庭教師の言う事を聞かないなど無いと思うのだが」
「その娘は外面だけは賢しく良いのです。育てるこちらとしてはほとほと困っているところですよ」
国王の追求に、薄く笑みも浮かべて答えるジェフリー。それに対して国王は一つため息を吐くと話を切り替えた。
「そうか。それともう一つ。
代々女系の貴族としてこの国では名を馳せているアステヤック侯爵を名乗ったそうだが、こちらに関しては?」
「ただの噂でしょう。私はアステヤック侯爵の嫡子であられるミリーの後見人。
名乗るときは誤解を生まないよう細心の注意を払って名乗るようにしております」
「だ、そうだが?」
ジェフリーが自信満々に言うのを最後まで聞かずに国王はジェフリーから視線を外し、それをハリスに向ける。
「では、私が彼に受けた事をこの記憶玉に記録していますので国王様にご覧に入れましょう」
そう言ってハリスは表に二つあるポケットの一つから記憶玉を取り出し、もう一方に入っていた投影機に乗せ、照明代わりのガス灯を消して闇の帳を下ろす。
「ふむ。以前見たときは明るい所だったが暗い方がよく見えるのだな。……さて、ジェフリー。言い訳はあるかね?」
「こ、こんなのはでたらめだ!大方私に似ている奴を使ってそれっぽく見せているだけだろう!」
先日、ハリスの拠点に乗り込んできた時の事案を放映され、いきり立ったジェフリーはつばを吐きながらがなり立てる。
「では、どうしてリリー嬢がアステヤック邸に居たのかね?使いの者が告知を出したとき、リリー嬢の姿をアステヤック邸で確実に確認したと言っておったぞ」
「それはリリー嬢が一人で帰ってきたのです!」
国王の問いかけに、苦し紛れのジェフリーは適当な事を言い始める。
それを聞いて我慢の限界に達したリリーはハリスの側から離れて投影機の上にネックレスを置き、その中身を再生し始めた。
再生の途中でジェフリーはリリーを殴り倒して再生を止め、ネックレスを破壊するが抵抗はそこまで。国王に呼ばれた近衛騎士に拘束され、退席していった。
「さて、静かになったな。それで、どうしたものか。リリー嬢は何を見せたかったのかな?」
国王自ら回復魔法を使ってリリーのけがを治して、慈愛のこもったまなざしを送りながらリリーに尋ねる。
それを聞いたリリーはハリスを見て彼の胸元あたりを指さした。
『複製があります』
0
あなたにおすすめの小説
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる