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始まりの章
第4話(※修正済み)
しおりを挟む私は強い___。
勝負ありッ!!
「ハァァ………」
とある道場、熱気を帯びた室内、吐いた息が白く染まった。
私は強いから___。
血に染まった床に佇んでいたのは瑞稀ただ一人、痛みに呻き声を挙げては床に倒れ伏した男達を尻目に家政婦からタオルを受け取った。
「瑞稀様、お体の方は大丈夫でしょうか…」
「んっ?、あぁ、いつもの返り血だから心配しないで、私のじゃないわ」
「そうですか……、ではお顔に少し触りますね」
瑞稀の頬にタオルが触れる、優しく頬に付着した血を拭ってくれる。
「やはり瑞稀様は美人ですから、もう少しお化粧をなさった方がよろしいかと…」
柔肌に付着した血を拭いながら家政婦はそう呟いた。
「いいの…、私そういうのには向いてないから」
「あら…?、でしたらこの前に買われていた赤色のリップは何だったのでしょうか?」
家政婦の少しイタズラっぽい声と表情が、瑞稀の心をドキリとつつく。
「げっ…!?、見たの!」
「ふふっ、たまたまですよ……」
____ニッコリ…
家政婦の笑顔、少し影の入った笑顔であった。
「その笑み怖いからやめて」
良い人ではあるのだが、だけど何だか表情の奥が読みづらくて苦手でもあるのだ。
瑞稀は、そう思った。
「もういい、あとは私一人で出来るから」
家政婦の手からタオルを奪い取ると、自身の汗や返り血を拭き取っていく。
「かしこまりました、では私はこれより"後片付け"を始めさせていただきます。」
___ニコッ
「いや!、わざわざ意味深に言わなくていいから!、そのまま外に投げ捨てておいて、そのうち目が覚めて勝手にいなくなる筈だから」
「ふふっ、かしこまりました。」
ようやく終わった、毎回つまらない割に無駄に抵抗心を剥き出して立ち上がろうとするから手加減が難しいのだ。
「さ~て、お風呂でも入りますか…!」
……私は、ただ強いだけだ___。
いや~、一日の労働から解放される瞬間が一番気持ちいいですなぁ~
どうも~、今お風呂で絶賛のぼせ気味の瑞稀です~、えへへへ……
身体をゆっくりと肩まで浸からせるように沈めた、湯船……と言っても大衆浴場と同等かそれ以上の規模の風呂場なので、彼女がどんなに両手両足を広げて大の字になっても余裕の広さである。
「フゥ……、さて私はこれからどうするべきかな?」
額に乗せたタオルを取って、瑞稀はそう呟いた。
たぶん今夜、フウタローは件の女性に会いに行くのだろう。
私は考える、私は単なる幼馴染、本当のところフウタローのお嫁さん候補というのも自称でしかない……
だけど、この胸を締め付ける感覚は何……?
苦しい……?、悔しい……??、憎たらしい……!?
複雑な感情が瑞稀の心を掻き乱す、フウタローが私以外の誰かと一生を添い遂げる…?
そんなのって___、
「絶対!、ぜったいにイヤだッ!」
これは私の我儘です、もしかしたらフウタローに嫌われてしまうかもしれない……だけど私は…はい、分かりましたと黙って指を咥えているなんて絶対に嫌です、それでは絶対に一生後悔が残ってしまうのです……ッ!
「…………フウタロー!」
私は考える、そして____、
___バシャン!
浴槽から立ち上がる、適度に体は温まり、頭はもう十分に冷えただろう。
頑張れ私!、私なら大丈夫!、きっとフウタローの心を撃ち落としてみせる!、もしもダメなら物理的に締め落としてやるわよ!
「頑張れ瑞稀、私は強いんだから!」
___わたしは、強いだけが……。
____何も出来ぬまま時が過ぎる。
自室の時計は夜中11時を指し示す。
メールや電話をかけても返信は一切来ないまま、一抹の不安が瑞稀に押し寄せていた。
「ねぇ虎次郎…?、虎次郎なら好きな相手がいなくなりそうな時、どうするかな……?」
ベッドの傍ら、そこに寝転がる猫へと問いかける。
「ナァ~オッ」
先日、この家の近くで拾った黒猫だ。しかし、拾った野良猫の割には人懐っこくて可愛いやつなのである。
「ふふっ、ごめんごめん、猫に聞いても分からないよね」
ベッドに横になり、黒猫を撫でていた瑞稀はそう自嘲した。
「グルグルグル…!」
「ふふっ、もう虎次郎…くすぐったいなぁ」
黒猫が瑞稀の頬に顔を擦り寄せる、何度目かの後……猫は不思議そうに頬を嗅いでみせた。
「あれ……、もしかしてまだキレイに洗えてなかったのかな?」
そう言って頬をグシグシと擦る、人間には分からずとも猫には血の臭いが分かるのだろうか…?
少しだけ瑞稀の表情は曇った……。
「ナァ~~」
虎次郎の鳴き声、すると仰向けにベッドに寝転んだ瑞稀の胸部に全体重を込めてのしかかる、そしてそのまま寝息を立てて眠ってしまったのだ。
「ふふっ、私を怖がらないのは君で二人目だぞ~……って、猫だから一匹目かな?」
ふふっ、なんだか懐かしい……
そう、これは本当に懐かしい記憶だ……
幼き日のフウタローの笑顔が走馬灯のように過ぎ去っていく。
私は……、私は……ね、…ただ私は……
___スゥ……、ハァァァァ………。
よし!、覚悟を決めた。瑞稀はそっと寝ている虎次郎を抱えてベッドから身を起こす。
「やっぱり私、絶対に誰にもフウタローを渡したくない…!」
ベッドから立ち上がった反動で、その上に寝ていた猫が起きてしまった。
「ナァ~~!」
「あっ、起こしちゃった!?、ごめんごめん……」
そして、瑞稀を服装を着替え、動きやすいように軽装にジャンパーを羽織った。
「じゃあ行ってくる、良い子にしててよ虎次郎」
「ナァ~~!」
そして、瑞稀は飼い猫と別れを告げたのだ。
「非モテのフウタローの癖にどこ行ったのよ…!」
満月の夜、その光に照らされて瑞稀は真夜中の歩道を駆けていた。
あいつの家には居なかった、思い当たる場所も全部探した。
____だけど、、、
月明かりが儚く道路を照らす、駆けた足取りは早まっていき、欠けた相手を探す目には焦りが滲んでいく。懸けた命を燃やしては、掛け違えた糸を解きましょう。
希望に賭けた、暗い架け橋を走り抜け、白く月明かりが反射する階段を駆け上る。
電話には未だ出ない、胸騒ぎが彼女を苦しめた。
大丈夫、あの非モテのフウタローに春が来るわけがない……
どこか不安気な声___、
きっと……、きっと大丈夫だから……!
そんな確証は何処にもない___、
私とフウタローは幼馴染、あいつの事は全部知ってるんだから……!
本当にそうだろうか___?
大丈夫!、大丈夫だから、私は強いから…!、私は強いんだから…ッ!、私は……ッ!?
その時だった____、
「フウタロー___ッ!?」
誰かの気配、間違いない……フウタローだ!
私は駆け出した、無意識のうちに駆け出していたのだ。息が苦しい、いつもなら平気なのに……心臓が震え出した、怖くて仕方がなかったのだ…!
「でも……、でもフウタローなら!」
私は息を切らして立ち止まる、そして____。
やっと見つけた、遠くにフウタローの見知った背中を見つけたのだ。こちらには未だ気づいていない様子、私は手を振って彼を呼ぼうとした……。
その時であった___、
「一目惚れです!、初めて見かけた時から恋に恋がれるぐらい好きでした!」
「……………………………………?………………………………??………?????……………?????????………???????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????」
へっ_____っ???
フウタロー、なに……言ってるの………?
視線が泳ぐ、そして初めて気づいた。遠くに見えるフウタローの背で見えなかった少女の姿、そんな彼女の姿を見つけたのだ。
月明かりの下に少女がいた___。
"儚い"……、そうとしか表現しようがなかった。
憎くて憎くて仕方がない、その少女がいた___。
「フウ……タロー………???」
気づくと私は、彼の背後に立っていた。
「うおっ!、瑞稀ッ!?、居たのかよ!」
彼は慌てた様子で私を見返した。
「お邪魔……だったかな?」
私は、いつもより少し低い声でそう呟いた。
「いや、ちょうど良かった瑞稀に頼み事があったんだよ!」
フウタロー、彼はそう言って笑う。
「へぇ…?、私に……???」
なんで…?、何で、なんで何で君はそんな平然と笑っていられるのかな?
私は今この瞬間、ちゃんと笑えてるのかな……?
「それでさ瑞稀、頼み事ってのは___」
咄嗟の事でした___、
ごめんなさい____、
殺意が湧きました___、
だから、私は君を蹴り殺したいと思いました___。
「ごめんね、フウタロー……」
地面が爆ぜたと同時、瑞稀の蹴りがフウタローへと繰り出された。手加減はない、躊躇はない、殺意しかない……。
そんな蹴りを___、
……君に向けて繰り出した。
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