ある日、始まった物語

どこか儚げな美少女

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犠牲の章

第58話

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 ___山田風太郎は、分からない。


 ゆっくり、それはそれはゆっくりと緩慢な眼差しで下を見つめる。これが地面と気づくのに開眼から約2秒の誤差が発生し、更には自分自身が病院の外にいるという事実確認に約3秒の遅れを要したのだ。己は今、病院外に設置されたベンチに座っていた。そして、その手には非常に軽く、空っぽとなったオレンジジュースの缶が握られており、己が先程まで妹の病室にいた筈である認識が間違っていたのではないかと疑いたくなる程に全ては平穏、今までの全てが何もかも無かったと言わんばかりの現実が眼前に広がっていた。

 だがしかし、開かれた目、その月明かりに照らされた目に彼女……否定者の顔がこちらを覗き込んでいた事に気づく。訳も分からず、俺は苦笑いを浮かべて仕方なしに呟いた。

 「なぁ、今までのは夢か……?」

 否定者は何も答えない。

 「あれ?、そもそも俺って何してたっけ…??」


 疑問に首を傾ける、むむぅ……と声を唸らせて今までに何が起こったか、散らばったパズルピースを正しく組み合わせように一つ一つ混乱した記憶の中身を整理していく。

 「あれ…?、ダメだ?、上手く思い出せないな…」

 先程まで鮮明かつ克明に覚えていた筈の記憶が上手く思い出せない。

 「というか、アンタ……誰だ…?」

 俺は先程から顔を覗き込んでくる女性を見つめ返した、その女性は月明かりに映える程の綺麗な白髪に、真夜中の暗闇すら飲み込むほどの真っ黒なコートを着込んでいた。詰まる所、すれ違う奴が100人中100人が振り返るほど美人な顔立ちだと思った。

 「やはり、こうなるか……」

 女性は、さも納得した様子でこちらを見つめていた。そして、こちらの額に伸ばした片腕、その先の伸ばされた指先が俺の額を軽く突いた。

 「少年……いや、加担者。お前は未だ不完全で曖昧な存在のようだな」

 女性の伸びた指先、その先の爪先が再び俺の額を突いた。俺の額は疑問と不審感という感情によって大きく歪み、目の前の女性に向けて改めて問いた。

 「えと、アンタ……誰ですか?」

 そんな疑問、ただの疑問、ほんの僅かに足りないピースを探し出す問いかけだ。それに対して女性は笑うような、はたまた呆れたような絶妙な表情を浮かべて俺の顔を改めて見返した。

 「加担者…………いや、私とお前は赤の他人、この病院で偶然にも顔を合わせたに過ぎない一瞬の出来事だ。」

 よく分からない事を女性は呟くと、少しだけ小さくフフッ……と笑った。そして、それ以上は語らぬまま俺へと背を向けて立ち去っていく。

 「あ、ちょっ…!」

 俺は直感的に引き止めようとするが、女性はこちらを振り返る事なく片手をヒラヒラと振っていた。

 「今日という日に感謝を、また会おう若人よ」

 そんな女性からの別れの言葉、それに対して俺は呟いた。

 「なぁ!、俺とアンタ!、何処かで会った事があるか?」

 ___ピタッ

 女性の足が止まった、そして振り向き様にこちらに呟いた。

 「いや、少なくとも私は以前に君と会った覚えは無い筈だ」

 そして、再び歩き出してしまった。しかし、数歩先で何かを思い出したかのように何かを呟いた。

 「明日、改めて病院に来るといい。そうすれば、元気になった妹と会える筈だ」

 女性は、フッ……と柔らかな微笑みを浮かべていた。

 「本当か!?、妹は無事なんだな!」

 しかし、それ以上は何も答える気がないのか女性は再び歩き出した。しかし、こちらの問いかけに首を縦に振った訳でも、ましてや横に振って否定した訳でもないのだ。今回はこちらの良いように解釈するとしようではないか。

 「ん?、ってか、なんで俺に妹がいるって分かったんだ?」

 疑問を呟く、そして女性の後ろ姿を見返そうとするも先程までの影はなく。女性はサッサッと帰ってしまったようである。

 「あれ?、さっきまで確かにいたよな?」

 疑問は色々と残ったが、明日は"詩(うた)"が好きなモノを差し入れに訪れるとしよう。

 「よーし!、そうとなれば帰るか!」















 ___アレ?、というか俺って病院まで救急車で来たよな??


 「俺……、どうやって帰ろう………」


 自宅までの距離を脳裏で考えつつ、絶望という名の長い帰路へと俺は仕方なく足を踏み出したのであった。













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