『冒険者ギルドへようこそ(最強剣士と娘巫女) ~全ての謎を解き明かし、全てを救う物語~』

此木、大(しばいぬ)

文字の大きさ
30 / 103
第-1章 迷星の時量剣師(めいせいのときはかし)

第30話 改変

しおりを挟む
この男は何を言っているんだ?
俺達は冒険者ギルドの入り口に突然現れた男をしばらく見つめていた。
身長170前後の痩せた男だった。
年齢はまだ若そうだったがよく分からない。
息を切らし、俺達を見て立っている。
「エッジさんは?」
男は周りを見回すと、エムリィに尋ねた。
とりあえず面識があるのがエムリィだけだったのだろう。

「えーっと、今日はまだいらっしゃっていませんが?」
「この街にいますか?」
「えっと?」
エムリィが俺に目で助けを求めているのがわかった。
「エッジさんはこの街にいるよ、それよりアシハラの街が陥落って聞こえたけど?」
俺は見知らぬ青年に質問を返した。
立派な防壁と一流の冒険者に守られているんだ。
あの街が陥落するなんて考えられない。
何かの聞き間違いだろう。
しかし
「アシハラの街がオーガの大群に攻められて陥落した」
青年はひとつうなずくと、今度はしっかりとした口調でそう断言した。

「嘘ではないんだな? エルは? 無事なのか?」
ファンデルが血相を変えて質問する。
「エルさんだけは無事です、今はケヒの街で休んでもらっています」
「いやいや、お前ら、何でエルの心配してるんだ? あの街にはアンジュも他のメンバーだっているだろう? アイリスだって…」
俺は二人の言っている事に疑問と苛立ちを感じていた。
なんでピンポイントでエルの心配してるんだ?
「颯竢さん、エルさんは特別なんです」
エムリィが俺をなだめるように声を掛けてきた。
「いや、お前ら… 本当に何なんだ?」
俺は何か怖い物を見せられている気分になり、気が付けば冒険者ギルドから走り去っていた。

混乱していた。
もしかすると取り乱していたのかもしれない。
夕焼けに染まる街の中を走り回っていた。
エッジを探しているのかも知れない。
このままアシハラまで走るべきか?
馬車の方が早いか?
ケヒまで戻ればエルから詳しい事情を聞けるだろうか?
なにより、アイリスはどうなった?
あの日、あの時、アイリスは俺の元に戻ってきてくれた。
俺はアイリスの元に戻らなければならない。

街の中央付近で見慣れた馬車を発見した。
エッジの姿も見える。
「エッジ!」
「どうした? 血相を変えて」
エッジは駆け寄る俺に驚いた顔を向けた。
「アシハラの街がオーガの大群に襲われたらしい、戻れないか!?」
エッジは一瞬、思考を巡らせるように虚空を見上げるが
「街を襲う様なオーガの大群相手に人間が出来る事などないぞ」
冷静な面持ちでエッジは答えた。
「でも、仲間たちが!」
「でもも糞も無い。 お前が戻っても死体が一つ増えるだけだ」
「もしかしたら何とかなるかもしれないだろ?」
「落ちつけぃ!」
エッジは今まで聞いた事が無い程大きな声、そして力強い口調で一喝した。

「いいか、冒険は自殺ではない。 状況を見定め、最適な手段を選び、そして行動する。 それが冒険だ。 助けたい者がいるならお前が死んでは意味がないだろう、冷静になれ」
これが、本来の冒険者エッジの姿なのだろうか。
確かにエッジの言う事には説得力がある。
俺が冷静さを欠いていたのは明らかだ。
「どうすれば良い?」
「冒険者ギルドに行くぞ」
エッジはそう言うと、馬車に乗り込み鞭を振る。
危うく置いていかれる寸前で俺も馬車に飛び乗った。

「エッジさん!」
「シルベスタか! どうなっている?」
痩せた青年の名はシルベスタというらしい。
「オーガの大群がいきなり街に侵入してきて街は壊滅、エルさんを脱出させるためにライルさんとグラードさんとリーゼルさんは残りました、リディアさんはケヒでエルさんと一緒です」
「それはいつの事だ?」
「エッジさんが出た半日後くらいです」
「一体なぜオーガ達が…」
エッジが呟く。

オーガは文明的な種族だと聞いていた。
無意味に人類に攻撃してくるような相手では無いはずだ。
何かよほどの理由があったのだろうか?
「そうか、エルは無事だったんだな?」
「はい、なんとか」
エッジの問いにシルベスタがうなずく。
「なぁ、なんでエルの事しか心配しないんだ? おかしいだろ、街が襲われたってのに」
俺は我慢できずにエッジに食って掛かった。
「まぁ、颯竢がそう感じるのも無理はない、これは最高機密だが、お前にだけは話しておこう、口外無用だぞ?」
エッジはいつになく真剣な表情でそう言うと、俺の返事を待った。
「分かった、口外しないと約束するよ」
俺がうなずくと、エッジも静かに頷いた。

「お前も持っているだろう? 冒険者カードだ。 アレはエルの魔法でな、全ての冒険者を管理しておる」
「全ての冒険者を?」
「そう、一万人全てだ、冒険者が蘇生不能な状態で死ねばカードはエルの手元に戻るようになっている」
「どうしてそんな事を?」
「転生者を管理する為だ。 これ以上詳しい事は自分の力で調べることだな。 ただ、この管理体制に不備が出た時、世界の構造は大きく変化し、長きにわたり混沌とした時代が訪れるだろう」
「エルが重大な役割を果たしていて、彼女の安否が重要だという事は分かった、それで、アシハラにはいつ戻るんだ?」
俺の質問を受け、エッジはシルベスタに顔を向ける。
シルベスタはエッジの視線に首を横に振って応じる。
エッジは俺に向き直ると、静かに言った。
「アシハラには戻らない」


俺は深夜の林道を一人、ひたすら走っていた。
普段何気なく身に付けているナイフや剣がこんなに重いとは思わなかった。
すれ違った野生の鹿や小動物が走り去る俺を静かに見守る。
凶暴な野生動物に出会わない事を祈りながらほぼ全速力で坂道を駆け登る。
長い上り坂を走り切ると、空が開けた。
足を止めて見上げると、月がいつもの様に白くまん丸く輝いている。
これだけ走った後なのにそれほど息が上がっていない。
静かに息を整えて、再び走り出した。

ケヒまで、距離は大した事はないが、山越えがかなりキツイ。
今度は長い下り坂をひたすら走る。
急坂を飛び降りる様に走ると、一歩一歩の距離は伸びるが、膝にかかる負担が馬鹿にならない。
しかし俺の膝はどうという事もなくその衝撃を受け止めていた。
ステータスの高さは伊達ではないようだ。
自由落下にアシストされ、全速力で驚くほどの速さで坂道を駆け抜けた。

寄り道したとはいえ、馬車では半日かかった道のりだったが、全力で走って1時間ちょっとでケヒに到着した。
自分でも驚きの速さだった。
「ん? どうした兄ちゃん、一人か?」
ケヒの門番は俺の姿を見ると、すぐに気付き扉を開けてくれた。
エッジと一緒にいたのを覚えていてくれたようだ。
「急用なんだ」
俺はそう告げると街の中に駆け込んだ。
エルがいるなら冒険者ギルドに違いない。

「ようこそ、冒険者ギルドへ」
プラチナブロンドの知的な美女がカウンターの奥で柔らかな笑みを振りまいている。
確かミヅキだったか。
「颯竢さん、何かありましたか?」
この仕事に向いているのだろう、彼女は俺の名前を覚えているようだ。
「アシハラはどうなった? エルは?」
俺はミヅキに詰め寄ると、矢継ぎ早に尋ねた。
ミヅキは周囲を見回して人差し指を唇に当てた。
どうやらあまり公に出来ない事情でもあるのだろう。
俺も周囲を見回すが、数人の冒険者と情報屋がチラチラとこちらを見ている。
「こちらへ」
カウンターの中に招き入れられ、一番手前の部屋に案内された。

「マスター、エルさんにお客さんです」
ミヅキは部屋の中にそう声を掛けるとカウンターに戻って行った。
中を覗くと、30代後半くらいの女性がこちらを見ていた。
彼女がギルドマスターだろう。
期待したが、エルの姿はない。
「中に入って扉を閉めて貰えるかしら?」
思ったより高い声で声を掛けてきた。
いわれるがままに、扉を後ろ手に閉める。

「ギルドマスターのアイボリーよ」
アイボリーはそう名乗ると、テーブルを挟んだ椅子を示した。
「颯竢です」
俺はそう名乗り、彼女の勧める椅子に腰掛けた。
「エルね、彼女に会ってどうするつもり?」
アイボリーは俺に疑いの目を投げ掛けてくる。
「アシハラがどうなったのか知りたいんだ。 あそこの病院にいたアイリスがどうなったのかも…」
「病院?」
少し考えたあと、何かに気付いたようでうなずいた。
「あぁ、その子は駄目ね、残念だけど…」
アイボリーは何かを操作すると、右手の手のひらを軽く上げて裏返した。
その動作に連動して空中に画面が現れ、俺の方に向いた。

そこには最後尾に俺の名前、あとは見知らぬ名前が羅列されていたが
「やっぱり貴方の同期はもう貴方しか残っていないわ、12人も欠員が出てしまっているわね…」
アイボリーが残念そうに呟く。
これがエルの魔法による管理システムなのだろうか…
画面の右上には9988/10000と表示されている。
12人の欠員、というのはその事なのだろう。
「あまり見ないでね、一応個人情報なんだから」
そう言ってアイボリーは画面を閉じた。

もう外はすっかり暗くなっていた。
俺はギルドの2階の宿を取り、晩飯を食べる気にもなれずそのまま寝た。

酷い夢だった。
靄の中ではっきり見えないが、何度も何度もパズルをやり直すような感覚だ。
スライドパズルのようなテトリスのような、ブロックをあっちへやったりこっちへ動かしたり、それも俺がそのブロックになって動いているような不思議な錯覚。
そのゲームの目的もルールも分からないが、上手くいっていない事だけは理解出来る。
時に分裂し、また時には消滅するブロックを見てはため息をつき、またやり直す。
朝日が俺の顔をかなり温めるまで、その夢は続いた。

昨日はかなりの運動量をこなしたのに殆どなにも食べていなかった。
流石にかなりの空腹感に襲われ、気は進まないが食堂に足を運ぶ。
食堂に行くと、ある話題で持ち切りだった。
それは
「アシハラが陥落してエルさんが亡くなったらしいよ」
そう言ったのは金髪の少女だった。
相手は見覚えのある銀髪の女性だ。
あちこちから同じ話題が聞こえてくるが、俺はその少女を見て息をのんだ。
え?
「アイ…リス?」
俺の声はかすれていて、ハッキリとは聞き取れなかった様子だが、金髪の少女と銀髪の女性はこちらに目を向けると、不思議そうに俺の顔を見た。

「え? 何? 知り合い?」
聞き覚えのある声に振り返ると、アイリス達に声を掛けたのはリディアだった。
状況が呑み込めずに固まっていると、後ろからアイリスの声がする。
「そんな訳ないじゃないですか、まだこっちの世界にきて2週間ですよ?」
「あはは、そっか、それもそうだねー」
そう言いながら彼女達は通り過ぎて行った。
息をするのも忘れ、立ち尽くす俺の横を…


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
        是非↓の♥を押して応援して下さい
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~

仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。 ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。 過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。 ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。 世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。 やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。 至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!

神殴り代行 異世界放浪記 〜俺の拳は神をも砕く〜

ファンタジー
「フォース」——それは、あらゆる生命の魂に宿るエネルギー。 23世紀、日本は新たなエネルギー「フォース」を発見した。 石油の枯渇による世界戦争の中、日本が生み出したこの力は、やがて世界を変革する。 フォースの研究は、「能力開発」へと発展し、人々は意志と感情によって能力を発現するようになった。 主人公・神谷錬(かみやれん)。 東京で働く25歳のサラリーマンであり、趣味は走ることと美味いものを食べること。 幼少期からフォースに興味を持ち、独学で研究を重ねた結果、**「空間干渉」**という独自の能力を会得する。 空間干渉——それは、フォースの膨大なエネルギーを利用し、空間を操る力。 レンは、自在に空間を歪め、破壊することすら可能となった。 しかし、ある事件をきっかけに、世界の壁の向こう側へと放り出される。 彼が目を覚ましたのは、何もない**「虚無空間」**——そこから、レンの果てしない旅が始まる。 辿り着いた異世界には、神々すら支配する強大な力が渦巻いていた。 しかし、レンの拳は、世界の理すら破壊する力を持っていた——。 世界の壁の向こうにあるのは、希望か?それとも絶望か? 異世界を旅する放浪者が、神々と拳を交える物語が、今始まる——。

クラスの陰キャボッチは現代最強の陰陽師!?~長らく継承者のいなかった神器を継承出来た僕はお姉ちゃんを治すために陰陽師界の頂点を目指していたら

リヒト
ファンタジー
 現代日本。人々が平和な日常を享受するその世界の裏側では、常に陰陽師と人類の敵である妖魔による激しい戦いが繰り広げられていた。  そんな世界において、クラスで友達のいない冴えない陰キャの少年である有馬優斗は、その陰陽師としての絶大な才能を持っていた。陰陽師としてのセンスはもちろん。特別な神具を振るう適性まであり、彼は現代最強の陰陽師に成れるだけの才能を有していた。  その少年が願うのはただ一つ。病気で寝たきりのお姉ちゃんを回復させること。  お姉ちゃんを病気から救うのに必要なのは陰陽師の中でも本当にトップにならなくては扱えない特別な道具を使うこと。    ならば、有馬優斗は望む。己が最強になることを。    お姉ちゃんの為に最強を目指す有馬優斗の周りには気づけば、何故か各名門の陰陽師家のご令嬢の姿があって……っ!?

処理中です...