ルナーリア大陸の五英雄Ⅱ 高潔な視線のその先 ~大魔導師は真理以外へも想いを馳せるか~

渡邉 幻月

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カルミネという男

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何のために生まれてきたんだろう。
それは、ずっと、疑問に思ってきたことだった。

商いを営む我が家は、まあ裕福な方だったのだと知ったのは随分後になってからだった。と、カルミネは酒の席でポツリと呟いた。
「…急にどうした?」
アレッシオが尋ねる。
酒盛りの喧騒から少し離れた場所で、静かに酒の注がれたグラスを傾けるのは前線で指揮を任された五人。前衛の聖騎士アレッシオ、剣士スピネル、兵站の魔工技師ミアハ、後衛の治癒師ラファエレと魔導師であるカルミネだった。
 魔導師カルミネの協力の下、魔工技師ミアハの開発した魔導具は戦況を一変するほどの性能があった。マナ耐性やマナ属性の相性によって使用できる者が限定されるという制約はあったが、それでも使用できる者がいるのだから有用性は高めだ。
 静かに酒を酌み交わす五人は、その魔導具の中でもより高性能な武具の使用者であり、それ故に前線に送り込まれた。指揮官というのは名ばかりというのは、彼ら自身良く知っている。知ってはいるが、それぞれの思惑故にその立場に甘んじていた。

「…いや、時々思い出すだけだ。」
グラスを呷ったカルミネはアレッシオに答え、盛り上がる兵士たちの方へ視線を向ける。
「彼らの話が時折耳に入る。」
「ああ…」
カルミネの言わんとするところを察して、アレッシオはただ頷く。

彼らは、良くも悪くも普通だった。普通、そう多数派なのだ。貧しいなら貧しい、裕福なら裕福な者の中の多数派。貧しい集団の中の特殊でも、裕福な集団の中での特殊でもない。
翻って、カルミネは少し特殊だった。言ってみれば、アレッシオたちも少しずつ特殊な立場だった。詳しくは知らずとも、互いに抱えている問題があることを察している。
本人が自ら語るまで、触れずにいるようになったのは何時からだったか。そんな不文律がいつの間にか五人の中にできていた。
 だからこの時も、アレッシオだけでなく他の三人もそれ以上追及することはなかった。

 グラスの中の酒に、自分の顔が映る。優男だ、とカルミネは思う。父親と母親を足して、逞しさをそぎ落としたような顔。幼い頃、病弱だったこともあって未だに痩身のままだ。兵士たちとの差、何より、前衛のアレッシオやスピネルと比べると貧相にもほどがある。兵站担当のミアハは元々が鍛冶師だったこともあってか、彼は彼で逞しい体つきをしている。それでは同じ後衛のラファエレはどうかと言えば、細身ではあるが貧相ではない。
「はぁ… なんでこんなに貧相なんだ…」
思わず、カルミネの口を吐いて出た言葉に、
「あぁ? なんだよ急に。酔ってんのか?」
そう、思わず声をかけるスピネル。
「君は良いよ。男らしい体つきでさ。僕なんか、見なよ。こんな細い腕で…」
「酔ってんな。」
溜息を吐いてスピネルが言う。
「確かにさっきも様子がおかしかったですしね?」
そう言ってラファエレは、私が看ておくよ、と言うと酔いが回った様子のカルミネに肩を貸して彼のテントへ連れ立っていく。

「珍しいな。」
二人を見送りながら、ミアハが呟いた。
「…そろそろ、この戦争も終わりが近いからな。」
「ああ…」
アレッシオの言葉に、ミアハとスピネルが言葉少なに同意する。戦争が終われば、その後は。
 今は、休戦協定を結ぶための会談期間だ。未だに陣を解かないのは、万が一決裂した場合の保険だという。カルミネとミアハによって生み出された魔導具がこちらにある以上は、そうそう結論が覆ることもないのだろうから、後はもう、帰還するだけなのだ。
 だからこそ、こんな場所で悠長に酒盛りをしていられる訳なのだが。

誰ともなく溜息を吐いた。それは、カルミネの酔った理由はこの後の憂鬱さが原因なのだろうと予想した誰かの溜息だった。
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