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Episode1.極寒の叛逆地獄(アリーチェの溜息)①
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それは、届かない願い。
神様が居るか居ないか、そんな話で盛り上がれたのは、今となっては遠い遠い昔の、懐かしい思い出。
『極寒の叛逆地獄』そんな異名を関するこの場所は、イリテュム王国の中でも最北端に位置する極北の辺境だ。吐く息も刹那に凍るほどの寒さと、魔王量が隣り合わせにある絶望の地。
吐き出した息が凍り付いては砕けてきらきらと舞う様だけを見れば、ただ美しい。だがそれは、生物が、特に体毛の薄い人間が生き延びるには過酷どころではない環境という証左でもある。
雪と氷だけが広がる世界。いつしか王国の流刑地とされたのも納得の、残酷な銀世界。謀反人とされた者が多く流されてきたことから、この地が叛逆地獄と呼ばれるようになったのは何時の頃からだったか。
それでも人は生き延びてきた。多くは謀反を疑われるほど優秀な人材だった者たちだ。否、優秀すぎる故妬まれたり、諫言を逆恨みされたりして飛ばされたと言った方が良い者たちだ。この過酷な環境の中でさえ、どうにか生き延びようと智慧と力を出し合ってきたのだ。いつの日か、自らの能力を正しく、国と人々のために使ってくれる指導者が現れることを夢見て。
アリーチェ・プラトリーナ侯爵令嬢は一面に広がる銀世界に、今日何度目か分からない溜息を吐いた。今年17歳になる彼女は、つい最近までイリテュム王国の王太子の婚約者であった。そんな彼女がこの流刑地を目の前にしているのには理由がある。いつの間にか聖女を害した罪人として裁かれ、婚約破棄され、あれよあれよという間に馬車に乗せられ、気が付いたらここにいたのである。
御者たちは寒さから逃れるように、少しの防寒着と、これまた少しの携帯食料を置いて逃げるように来た道を引き返していった。つまりは、アリーチェただ一人取り残された状態である。
「…困りましたわね。」
と、溜息交じりに呟くアリーチェであったが、表情筋は一切動いていないので本心なのかは分からない。状況的には困っているのは間違いないのだろうが。
さて。このアリーチェ・プラトリーナ侯爵令嬢についてもう少し詳しく説明しようか。彼女の父親は軍務卿を務め、自身も相当な実力のある武人であった。それ故に(と、世間は認識している)娘であるアリーチェにも武芸を身に付けさせた。
アリーチェの実力は現役の騎士に勝るとも劣らないものであった。もちろん、令嬢であり王太子の婚約者でもある彼女は淑女としての礼儀も知識も申し分ない。彼女は血を吐くほどの努力をしてそれらを身に付けてきた。もちろん、騎士道も。
そんな彼女が、守るべき聖女を害するなどということが有り得るのだろうか。
神様が居るか居ないか、そんな話で盛り上がれたのは、今となっては遠い遠い昔の、懐かしい思い出。
『極寒の叛逆地獄』そんな異名を関するこの場所は、イリテュム王国の中でも最北端に位置する極北の辺境だ。吐く息も刹那に凍るほどの寒さと、魔王量が隣り合わせにある絶望の地。
吐き出した息が凍り付いては砕けてきらきらと舞う様だけを見れば、ただ美しい。だがそれは、生物が、特に体毛の薄い人間が生き延びるには過酷どころではない環境という証左でもある。
雪と氷だけが広がる世界。いつしか王国の流刑地とされたのも納得の、残酷な銀世界。謀反人とされた者が多く流されてきたことから、この地が叛逆地獄と呼ばれるようになったのは何時の頃からだったか。
それでも人は生き延びてきた。多くは謀反を疑われるほど優秀な人材だった者たちだ。否、優秀すぎる故妬まれたり、諫言を逆恨みされたりして飛ばされたと言った方が良い者たちだ。この過酷な環境の中でさえ、どうにか生き延びようと智慧と力を出し合ってきたのだ。いつの日か、自らの能力を正しく、国と人々のために使ってくれる指導者が現れることを夢見て。
アリーチェ・プラトリーナ侯爵令嬢は一面に広がる銀世界に、今日何度目か分からない溜息を吐いた。今年17歳になる彼女は、つい最近までイリテュム王国の王太子の婚約者であった。そんな彼女がこの流刑地を目の前にしているのには理由がある。いつの間にか聖女を害した罪人として裁かれ、婚約破棄され、あれよあれよという間に馬車に乗せられ、気が付いたらここにいたのである。
御者たちは寒さから逃れるように、少しの防寒着と、これまた少しの携帯食料を置いて逃げるように来た道を引き返していった。つまりは、アリーチェただ一人取り残された状態である。
「…困りましたわね。」
と、溜息交じりに呟くアリーチェであったが、表情筋は一切動いていないので本心なのかは分からない。状況的には困っているのは間違いないのだろうが。
さて。このアリーチェ・プラトリーナ侯爵令嬢についてもう少し詳しく説明しようか。彼女の父親は軍務卿を務め、自身も相当な実力のある武人であった。それ故に(と、世間は認識している)娘であるアリーチェにも武芸を身に付けさせた。
アリーチェの実力は現役の騎士に勝るとも劣らないものであった。もちろん、令嬢であり王太子の婚約者でもある彼女は淑女としての礼儀も知識も申し分ない。彼女は血を吐くほどの努力をしてそれらを身に付けてきた。もちろん、騎士道も。
そんな彼女が、守るべき聖女を害するなどということが有り得るのだろうか。
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