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Episode2. 女神と魔王、そして補佐官との出会い
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黒須英雄はどこにでもいる会社員だった。見た目も平凡、能力も平凡。真面目なことが取り得の、30代未婚。ゲームも漫画も小説も好きだったけれど、最近忙しくて以前ほど手に取れていないのが目下の不満事。彼女はいたけれど、忙しすぎてフラれたばかりだった。まあ、現世にそれほど思い残すことがない状態、と言える。それが何より不幸な出来事だったかもしれない。
彼が目覚めると、真っ暗な空間に居た。まだ夢の中だったか、とポリポリと頬を掻いたところで、ふと疑問に思う。夢の割には、頬を掻く感触がある。そのまま頬を抓ってみた。
「痛い。」
英雄は呟いた。夢じゃないのか。ちょっと待て? と腕を組んで考える。昨日は普通に2時間の残業をして家に帰った。適当に晩飯を済ませて、面倒なのでシャワーだけ、ほんの少しゲームをしてそうして明日に備えて寝たはずだ。繁忙期でもないのに2時間の残業はどうかと思うが、終電には余裕があるしまだマシかと思っている。繁忙期の残業は考えない。友人は毎日終電ギリギリとぼやいていたしな。だから今は微妙に過労死はしない程度の労働時間のはずだ、まあ早出もしてるけど。
「でも、やっぱり死んだってことなのかなあ。」
心残りは無いけど、親より先に死ぬのは申し訳ないと思う。気のせいだといいのだけれど、この状況は果たして。
「む? 目が覚めていたか。」
聞きなれない女性の声がしたかと思うと、英雄の目の前の空間が歪んだように見えた。歪みは次第に実体を帯びていくように中心部に集まっていく。やがて人型になり、輪郭がしっかりしてきた。
「われはエニューオー。惑星ドミニオンの守護女神じゃ。」
歪みは女性の姿に変わり、そうしてエニューオーと名乗った。夢か現実か判断に困った英雄は言葉も出ず硬直した。
「おぬしにはな、われの守護する世界で魔王の役割を与えようと思って呼んだのじゃ。」
「…え? 魔王?? なぜ自分が?」
唐突に魔王に成れと言われ余計に混乱する英雄だったが、エニューオーはその様子に気分を害したようで不機嫌そうに眉を吊り上げた。
「これは決定事項じゃ。反論は許さぬ。魔王城と補佐官は用意してやったのじゃ、励めよ。」
エニューオーはそう言って、英雄の言葉を聞くことも無くデコピン一発、ドミニオンへ彼を落とした。英雄の悲鳴にほんの少し機嫌を良くした彼女は、勇者の人選をするために地球へと視線を移した。
酷い出来事だった、と、床にたたきつけられた大の字のまま、英雄はぼんやりと天井を眺めていた。おそらく、というか確実に落ちてきた自分が開けたであろう人型の穴がぽっかりを口を開けている天井。何だか分からないが、黒い色の建材で出来た天井の穴は、じわじわと塞がっていくのが不思議で仕方がない。
天井に穴を開け、なおかつ床にめり込むほどの威力で叩きつけられたのに、『あっ、痛!』程度で済んでしまっている辺り、本当に魔王に成ってしまったんだろうなあ、と英雄はぼんやりと考えていた。正直、どう反応して良いか分からない。ゲームも漫画もたしなむけれど、自分がその立場になってみたいとまでは思わなかった。現実逃避の手段が無くなってしまうではないか、と言うのが英雄の考えだった。趣味や好きなことは仕事にしたくないタイプである。
「魔王様! 大丈夫でしょうか? どこか、お怪我でもされましたか?」
遠くから足音が近付いてきたかと思った次の瞬間には、見知らぬ顔が英雄を覗きこんでいた。
「いや、多分怪我は無いかな。ただ、自分の状況を整理していただけだ。」
むくりと起き上がって、英雄は答えた。床に叩きつけられた直後は、その衝撃に痛みも感じたが、今はもうすっかり引いてしまっている。ちょっと転んだくらいのダメージだな、と考えていると、
「それは良かったです。」
安心したのかにこにこと笑顔を向けてくる。よくよく見ると、黒ウサギの耳が生えた二十歳ばかりの青年のようだ。黒いスーツに身を包んでいる。
「…君は?」
「はい! 魔王様の補佐官のラソンと申します!」
それが魔王と補佐官の出会いであった。その後、体制を整えた魔王軍は、惑星ドミニオンに存在する全ての国々に宣戦布告をし、攻め入ることとなる。
彼が目覚めると、真っ暗な空間に居た。まだ夢の中だったか、とポリポリと頬を掻いたところで、ふと疑問に思う。夢の割には、頬を掻く感触がある。そのまま頬を抓ってみた。
「痛い。」
英雄は呟いた。夢じゃないのか。ちょっと待て? と腕を組んで考える。昨日は普通に2時間の残業をして家に帰った。適当に晩飯を済ませて、面倒なのでシャワーだけ、ほんの少しゲームをしてそうして明日に備えて寝たはずだ。繁忙期でもないのに2時間の残業はどうかと思うが、終電には余裕があるしまだマシかと思っている。繁忙期の残業は考えない。友人は毎日終電ギリギリとぼやいていたしな。だから今は微妙に過労死はしない程度の労働時間のはずだ、まあ早出もしてるけど。
「でも、やっぱり死んだってことなのかなあ。」
心残りは無いけど、親より先に死ぬのは申し訳ないと思う。気のせいだといいのだけれど、この状況は果たして。
「む? 目が覚めていたか。」
聞きなれない女性の声がしたかと思うと、英雄の目の前の空間が歪んだように見えた。歪みは次第に実体を帯びていくように中心部に集まっていく。やがて人型になり、輪郭がしっかりしてきた。
「われはエニューオー。惑星ドミニオンの守護女神じゃ。」
歪みは女性の姿に変わり、そうしてエニューオーと名乗った。夢か現実か判断に困った英雄は言葉も出ず硬直した。
「おぬしにはな、われの守護する世界で魔王の役割を与えようと思って呼んだのじゃ。」
「…え? 魔王?? なぜ自分が?」
唐突に魔王に成れと言われ余計に混乱する英雄だったが、エニューオーはその様子に気分を害したようで不機嫌そうに眉を吊り上げた。
「これは決定事項じゃ。反論は許さぬ。魔王城と補佐官は用意してやったのじゃ、励めよ。」
エニューオーはそう言って、英雄の言葉を聞くことも無くデコピン一発、ドミニオンへ彼を落とした。英雄の悲鳴にほんの少し機嫌を良くした彼女は、勇者の人選をするために地球へと視線を移した。
酷い出来事だった、と、床にたたきつけられた大の字のまま、英雄はぼんやりと天井を眺めていた。おそらく、というか確実に落ちてきた自分が開けたであろう人型の穴がぽっかりを口を開けている天井。何だか分からないが、黒い色の建材で出来た天井の穴は、じわじわと塞がっていくのが不思議で仕方がない。
天井に穴を開け、なおかつ床にめり込むほどの威力で叩きつけられたのに、『あっ、痛!』程度で済んでしまっている辺り、本当に魔王に成ってしまったんだろうなあ、と英雄はぼんやりと考えていた。正直、どう反応して良いか分からない。ゲームも漫画もたしなむけれど、自分がその立場になってみたいとまでは思わなかった。現実逃避の手段が無くなってしまうではないか、と言うのが英雄の考えだった。趣味や好きなことは仕事にしたくないタイプである。
「魔王様! 大丈夫でしょうか? どこか、お怪我でもされましたか?」
遠くから足音が近付いてきたかと思った次の瞬間には、見知らぬ顔が英雄を覗きこんでいた。
「いや、多分怪我は無いかな。ただ、自分の状況を整理していただけだ。」
むくりと起き上がって、英雄は答えた。床に叩きつけられた直後は、その衝撃に痛みも感じたが、今はもうすっかり引いてしまっている。ちょっと転んだくらいのダメージだな、と考えていると、
「それは良かったです。」
安心したのかにこにこと笑顔を向けてくる。よくよく見ると、黒ウサギの耳が生えた二十歳ばかりの青年のようだ。黒いスーツに身を包んでいる。
「…君は?」
「はい! 魔王様の補佐官のラソンと申します!」
それが魔王と補佐官の出会いであった。その後、体制を整えた魔王軍は、惑星ドミニオンに存在する全ての国々に宣戦布告をし、攻め入ることとなる。
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