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ああ、あの子が手を振っている。あの子はどうしてあそこにいたのだろう。最後に私に会いたいと思ってくれたのなら、私は彼女の友達としてうまくやれていたことを誇らしく思う。今では思い出すことも稀になってしまったあの子、それでも記憶から消してしまいはしなかった。
いっそ記憶から消してしまった方がよかったのだろうか。もうその話をするのはやめなさいなと、お母さんに言われたことがあった。私は釈然としなかった。その時はまだ一緒に暮らしていたパパは、苦笑いするだけだった。あの頃は、何も言わずに微笑んでくれるパパのことを優しい人だと解釈していたんだっけ。あの時に一緒にいたのがパパじゃなくてお祖父さんだったなら、何と言ってくれただろう。案外パパと同じような反応をしたのではないかという気がする。何も言わずに微笑むお祖父さんの顔が思い浮かぶ。
最後まで私のことを気遣ってくれていたお祖父さん。私がついてくることをどう思っていたのだろう。歓迎していたわけではないだろうに、微笑んでくれた。ただそれだけだったけれど、それでも幾分か救われたような気持ちがしていた。
もしお母さんだったら、私がついてくるのを許しただろうか。あの子とお祖父さんは私に会いに来てくれたけれど、お母さんは私に何も言わずに行ってしまった。どうしてお母さんは私に会いに来てくれなかったのだろう。
――お母さんは、本当には私を愛していなかったのかもしれない……。
いっそ記憶から消してしまった方がよかったのだろうか。もうその話をするのはやめなさいなと、お母さんに言われたことがあった。私は釈然としなかった。その時はまだ一緒に暮らしていたパパは、苦笑いするだけだった。あの頃は、何も言わずに微笑んでくれるパパのことを優しい人だと解釈していたんだっけ。あの時に一緒にいたのがパパじゃなくてお祖父さんだったなら、何と言ってくれただろう。案外パパと同じような反応をしたのではないかという気がする。何も言わずに微笑むお祖父さんの顔が思い浮かぶ。
最後まで私のことを気遣ってくれていたお祖父さん。私がついてくることをどう思っていたのだろう。歓迎していたわけではないだろうに、微笑んでくれた。ただそれだけだったけれど、それでも幾分か救われたような気持ちがしていた。
もしお母さんだったら、私がついてくるのを許しただろうか。あの子とお祖父さんは私に会いに来てくれたけれど、お母さんは私に何も言わずに行ってしまった。どうしてお母さんは私に会いに来てくれなかったのだろう。
――お母さんは、本当には私を愛していなかったのかもしれない……。
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