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しおりを挟む鏡の中には、弟とかつての仲間たちの死体が転がっている。銃を持った男が振り向き、にやりと笑む。その顔は、幼い頃に憧れた兄のものだった。血を流した子どもたちがむくむくと起き上がり、兄に群がる。兄はにやにやしながら次々とその額を撃ち抜いていく。
倒れながら弟の瞳がこちらを見る。その瞳が訴えかけている。かたきをとれ、復讐しろ、と。
どうしてこんなものを見せるのだ。
それは、これが罪を映す鏡だからだ。憎しみと後悔の念で頭がどうかしてしまいそうだった。
どうして罪を映す鏡が望みを問い掛けるのだ。それは、罪は願望から生まれるからだ。鏡が望みを叶えるのは、その先の罪を見せつけるためなのだ。
わかっている。わかっているのに、抗えない。求める気持ちを隠し切れない。
こちらを見つめる弟の視線を受け、弟に報いるにはこれしかないのだと、手の中の拳銃を見つめた。それは少年が求めた力だった。
苦悶の表情を浮かべ、地面に倒れていく子どもたち。たくさんの苦痛と、わずかな喜びを分け合った仲間だった。どうせあのままでは未来などなかっただろう。でも、だからといってあんな風に殺される理由なんてなかったはずだ。とっくに未来は諦めたと嘯きながら、胸の底には微かな夢を抱いていたはずだった。たとえ叶わなくても、生きることを諦めてはいなかった。その命を奪う権利なんて、誰にもないはずだ。
血が熱くなる。頭の中が真っ赤になって、早く引き金を引きたくて堪らなかった。銃なんて撃ったことはないのに、自然に構えることができた。
弟たちを殺した殺人者が、同じように少年に銃口を向けた。同じように……。
鏡写しの二人。
悲鳴のような雄叫びを上げて、少年は引き金を引いた。
ガシャン、とガラスの割れるような音がして、目の前の風景に亀裂が走る。ひび割れた世界が血を流す。銃を握った手が震えていた。
弾を撃ち尽くすまで、少年は引き金を引き続けた。
派手な音を立てて目の前の世界が崩れ去った。少年は拳銃を捨て、足元に転がっていた小銃を拾い上げた。セミオートで繰り出される弾丸が、見えない敵を次々に撃ち砕く。世界はバリバリと悲鳴のような音を立てながら壊れていく。
いつか少年の口元には笑みが浮かんでいた。
自分を拒んだ世界を破壊する快感に溺れていた。これが本当に自分の望んでいたことなのだと思った。それなのになぜか、その目には涙が滲んでいた。
やがて少年の周囲の世界は、血を撒き散らしながら崩壊していった。全身を赤黒くドロドロに汚した少年は、崩れ去った世界の先へと足を踏み出す。
胸の底がじりじりと焼け、じくじくと痛んだ。
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