RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya

文字の大きさ
640 / 954
第十四篇第三章 最悪の顛末

冷たい雨の下で

しおりを挟む





「アダム、イヴ……」


「御意ッ!」



怒りのままに地面を蹴るディルが狙うのは
宰相、ガズナの首だったが其の面前に側近の
二人が立ち塞がるとアダムが太刀、イヴが槍
を構えてディルの刀をクロス状に武器を交差
させて受け止めた。



「怒りのままに刃を振るうなど意味を為さない。此の世に生まれた以上、愉悦、愉楽…其れを求め続けるのが一番だと思わないか?」


「黙れッ!!」


「あら…貴方はもっと冷静な人だと思ってた。意外ね…でも致し方無いわ…焦りとはそもそも心の豊かさを奪うモノなのだから」



其の言葉がディルの琴線に触れる。

そして、遂にディルのギフトが解放された。

其の色は唐紅色、そしてギフトは流水。

深紅に染まる流水の渦とディルが誇る圧倒的
な波動が宰相警護特命衛士の二人、アダムと
イヴを怯ませる瞬間に一人の男が此の場へと
乱入を果たしディルの肩を引いた。



「………リゼアッ……!」


「ディルよ、此の場は某達と共に退くのである……ッ!」



突如として現れたリゼアに肩を引かれディル
は宰相ガズナ達から引き剥がされた。



「何故邪魔をするッ!?今…ストゥ達を救けねばならん事がわからないのかッ!?」



リゼアは、ディルが此処迄、平静を失い声を
荒げているのを久しく見ていなかった。



「言い分は解るのである…だが、今此処に大将アークの隊が向かっているのだ」


「だから、何だと言うのだ……今を逃したらッ……あの二人はッ……!」



リゼアに食って掛かるディルの背後から今度
は双剣小太刀を構えた白髪の女性が此の場に
乱入を果たし白銅色の氷の壁を張る。



「………ソフィア…」


「ディル、此処は引いてあの二人を救け出す手段を練るのよ…勝手に聞いていたけど十日はあるし…処刑をダシに呼び出したい人達が居るんでしょ?」



死蜘蛛狂天三大幹部が此処に揃う。

そして、会話をする真後ろでソフィアが放ち
壁としていた白銅色の氷塊が砕かれる。



「貴様等が向かって来ぬなら此方から一言述べて…帰らせて貰うぞ?暇では無いのでなあ。ワシらは……」


「貴様……ガズナ…」


「貴様等…死蜘蛛狂天もクビじゃ。もう二度と政府の敷居を跨ぐで無いわ…」



そして、振り返ったガズナは高笑いを浮かべ
部下達に持たせた鎖を引かせストラーダ達を
ネクロゲートの外へ向け引きずって行く。

最後までアダムとイヴの二人が死蜘蛛狂天へ
睨みを効かせた後で漸く目を切って足を外へ
向けて進めて行くのを見過ごすしか出来ずに
いたディルは両膝を着いて俯いた。

降り頻る雨に打たれ、絶望と失意の淵に堕落
させられたディルは地面を何度も叩く。



「ディルよ…ストゥの為に…此の十日は大事である…」


「行きましょう。大将はもう直ぐ近くに来ていたわ…立ち止まってしまったらもう二度とチャンスは訪れない」



脱力したディルは二人に肩を引かれて何とか
立ち上がり此の場を後にして行った。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...