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第十六篇第三章 天下分け目の大戦・弐
託され続ける想い
しおりを挟む「(や、やばい………この圧力…やっぱりこの人は時代に名を残して来た英雄……その肩書きに相違ない人なんだ……)」
固有特性“追尾”を得たレザノフの放つ鈍色の
弾丸がアレスへと襲い掛かる。
其の圧力は凄まじく顕現させた二頭の鹿達は
ひたすら逃げの一手へと誘い込まれる。
当のアレスもまた深緑色のオーラを纏う武器
カリスティックに依って其の弾丸を弾く事が
精一杯となるほどの防戦一方となった。
「私は……貴方の様な若き芽を踏み潰す様な真似はしたくない……どうか此の戦いから外れては貰えないか?」
レザノフの此の言葉にはアレスへの蔑み等の
感情は混ざり合ってはおらず、其の真逆とも
言える感情が入り込んでいた。
其れはアレスの瞳に映る戦いへの悩み。
其処から抽出された物であると言ってもいい
だろうか、彼は今此の戦いに対する意味合い
を測り切れていない事をレザノフは悟る。
戦いを恐れ、其の真意を理解して居ない彼は
本気で自分自身に立ち向かって来る事は愚か
敵を敵として認識出来ずにいる。
だからこそ、レザノフはアレスに此の場から
いや、最低でも其の気持ちが固まる迄は道を
開け考える時間を持っていて欲しかった。
ただ、叩き潰すだけでは解決に至らない。
幾つもの戦争を乗り越えて来たからこそ出る
戦争への確信的なレザノフの答えだった。
「…………バ、バカにするな。言ったハズだよ?僕は帝国軍少将アレス・ニールズ……僕の背中に在る肩書きはそんなに安くないんだッ!!」
アレスの言葉がレザノフへと届く。
そして、防御主体だったアレスがレザノフの
動きが止まった其の瞬間に前へと出る。
カリスティックを構えたアレスがレザノフに
其の一撃を叩き落とすと同時にギフトの鹿達
がレザノフに襲い掛かる。
レザノフは其の攻撃を腕の盾でガードするも
其の鹿達が立て続けに雪崩れ込んで来た。
「戦いなんて嫌いさッ!!其れでも僕が前に進まなければいけない理由は一つ!!託されて来た想いが在るからッ!!僕一人が弱気にやられて立ち止まる事は出来ないんだッ!」
アレスの云う託されて来た想い。
其れは永年に渡って紡がれて来た帝国軍から
国民へと注がれて来た万栄の想い。
弱気だったアレスが帝国軍への入隊を目指す
キッカケとなった帝国軍軍兵達の存在。
ひたすらに憧れた時期もあった。
だが、どんなに弱気にやられても其の肩書き
は自身が今、背負うモノ。
いつかは、自分も憧れられる存在へと昇華し
其れを託す側へとならなければならない。
アレスの覚悟と言葉からレザノフの心は過去
自身が聞いた言葉を連想させていた。
『俺が託されて来た想いは…甘いモンじゃねぇんだろ……?だったら、俺も其れを背負って生き抜いてやるさ……アンタが先代から引き継ぎそうして来た様にな……』
レザノフが想起した其の言葉の主の顔が脳内
にじわりじわりと浮かび上がって来た。
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