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第十六篇第六章 天下分け目の大戦・伍
望まざる戦い
しおりを挟むマリアは此の事実を、ロイ脱退後に知らされ
哀しき因果か、同隊大佐だったマリアは位の
一つ上、准将への昇格を言い渡された。
其れは、脱退したロイの席次だった。
ロイの思惑を知らず、人生を賭けた大博打を
打つ事となったロイに対してマリアは非常に
大きな悔恨の念を抱き始める。
何故、私に声を掛けなかった?
何故、私に相談すらしてくれなかった?
マリアは遂には自身の事すらも痛め付ける様
に己を自責し続ける日々を送る。
そして、今。
遂に邂逅してしまった二人は互いに一つだけ
自身に決め事を与えて此の戦場に来たのだ。
「もし、私が……ロイと相対する事になったなら…決めていた事があるの…。ロイ…貴方の暴走は私が此の手で止める……覚悟しなさい…反逆の徒…ロイ・バーナードォォッ!!」
マリアが刀を腰元の鞘から抜刀する。
すると蒼色の迅雷のギフトがマリアの身体を
包み込む様に風を立て巻き上がって行く。
青い髪が、優雅にも揺れる。
「迅雷覚醒…“ 奔青戦騎”ッッ!!!!」
蒼き稲妻を宿した鎧を纏い、モチーフである
コヨーテが描かれた盾を左手に右手に稲妻に
依り強く強固に洗練された刀を左手に持つ。
そして、同じく蒼き稲妻を纏う優雅な尻尾と
獣耳を携えて鋒をロイへと向けた。
既に天馬の覚醒を果たしたロイは、其の鋒を
ジッと見つめたまま緩りと口を開いた。
「俺は……此の時代に抗う為に帝国軍を出て敵であった革命軍の門を潜った…だからこそ俺の覚悟は変わらず強い……だけど俺もマリアと仮に相対す事になったとしたら…一つだけ心に決めた事があったんだ……」
「其れは……何よ?」
「悪い、まだ言えねェ……」
「貴方って男は……本当に昔から大事な所ゆそうやってひた隠すわね……私は貴方のそういう所が…“嫌い”だったのよ……ッ!!」
マリアが奔る稲妻と共に地を蹴り上げて正面
に立つロイに向けて距離を詰めて行く。
ロイは静かに一度瞳を閉じた後、何かを誰の
耳にも届かない様にボソッと呟いた。
そして、其の瞳を開く。
振り上げられた刀の一閃にロイもまた自身の
手に握られた刀をグッと掴んで其の攻撃へと
刀身を疾らせるのだった。
同じ、迅雷のギフト。
臙脂色と蒼色の稲妻が互いに交わり高密度の
衝撃を周囲に与えながら正に五分五分と表現
出来る鍔迫り合いが起こった。
そんな折、マリアはとあるモノを其の瞳の中
に映し込んで一瞬の動揺が生まれる。
「(アレ…は……?)」
其れは、ロイの団服の裾に縫い込まれ腰元に
揺れる一つの御守りであった。
マリアの動揺をロイは見逃さなかった。
しかし、敢えて見過ごす事にした。
マリアは其の御守りに瞳を奪われ一瞬の隙を
作ってしまった事を直ぐに自覚し首を大きく
横に振って集中を言い聞かせるのだった。
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