RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya

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第十六篇第六章 天下分け目の大戦・伍

会心の一振り

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吹き飛ばされたティアは何とか建物への衝突
寸前の所で撫子色の水流に乗り体勢を今一度
立て直してマリアの前に立つ。

そして、一振りを受けた三叉槍を一瞥すると
マリアに向けて改めて視線を飛ばした。



「やはり、耐えたわね……伊達じゃ無いって事ね。独立師団革命軍副長の名は…」



マリアに感じられていたロイを巡る一件から
滲み出る錯乱と怒りの表情をいつの間にやら
消え失せていた。

其れは、ティアという人間が放つ強者として
持つべき洗練された武芸の数々に依りマリア
もまた其のゾーンへと没入して来た事に強く
由来している事は明白だった。

そして、両者が出し惜しむ事無く見せ付けた
覚醒のステージが齎す固有特性という恩恵。

マリアの固有特性は、“会心”。

戦乙女から名が付けられた“戦騎ヴァルキュリア”。

其の名が持つチカラは、一撃に自身の身体に
流れる波動を固める事で一撃が放つ会心率を
大幅に引き上げる事にあった。

得意特性では無いが、迅雷のギフトが秘める
特性の中で“蓄電”という特性が在り其の特性
で一撃にチャージを掛ける事でマリアの持つ
固有特性は圧倒的な一撃へと変わる可能性を
秘めていた事になる。



「未だに…腕が痺れています。今の一撃をもし身体で受けていたらと思うと…ゾッとしますわね…」



ティアの一言に、マリアは緩りと指を差す。

其の指先の行方は、ティアの背後の建物へと
繋がり其方へと視線を向けたティアの表情は
より一層曇る事となる。

其れは、建物に付けられた一つの斬り傷。

マリアの持つ刀の鋒から放たれた雷電の斬撃
は三叉槍に触れると同時にティアの背後へと
解き放たれていたのだが、其の一撃が建物に
付けた細い傷には異様な点があった。

其れは、傷の周囲に一つのヒビすら無い事で
あり、其れが示すは其の会心の一振りが一点
に集中され切ったモノだったという事。



「(冗談にもなりませんわ……ゾッとする所じゃありません…身体に孔が開いていた所でしたわ……ッ…)」



其の一撃の余りの強烈さにティアは全身から
恐怖を抱きマリアの強さに慄く。

しかし、其の儘恐れ慄いている時間はティア
には全くと言って良い程、残されていない。

何故なら、既にマリアが次の一撃を放つ為に
地面を蹴り上げるとティアに向けて正面から
突き進んで来ていたからだ。



「もう…退けない。せめてもの手向けよ…反逆者であるロイは…私の手で排除する。だから……もう此れ以上…彼を悲しませるのはやめてッッ!!!!」



マリアの身体が此れ迄とは比べる事等出来ぬ
程に精錬された蒼色の稲妻を纏い始める。

其の稲妻がひた隠す様にマリアの表情に言葉
と共に湧き出た悲痛なモノが掻き消える。

そして、ティアもまた愛し合う者達が此の先
迎えようとしている未来に胸を痛めた。

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