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16 きんいろのかぎの章

2月29日生まれの閏くんと夢の欠片

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やはりフロント前には先生が見張りについていた。

そんな事もあろうかと、従業員用の出入り口は調査済みだ。


修学旅行の夜、詩織はどーしても、スナック菓子が食べたくなって、ホテルを抜け出そうとしていた。
旅館の売店にはなかった為だ。


詩織は関係者以外立ち入り禁止地区を走り抜けた。

詩織の高校は代々、修学旅行時に問題を起こす高校ナンバー1の座を維持していた。

なので、ちょっと位なら、問題ないのだ。


従業員出口を走り抜けた。

さすがにここには見張りは居なかった。


脱出成功だ!


コンビニぐらいどこにでもあるだろう。

それは都会の人間の甘い見積もりに過ぎなかった。

地図には合ったのだが、コンビニではない店舗に変貌していた。


諦めるか。

と街路樹を歩いていると、前に学校のジャージを着た少年がうろうろしていた。


同じルートで脱出した同士がいた?


「あれ?2月29日生まれのうるうくんじゃん、何してるの?」

まだ中学生みたいな閏は振り返ると、

「生年月日は余計」

「そうね、まあ二つ名みたいなもんだからね。で、何してるの?」

「散歩」

「真夜中に?って言うか、そのお菓子どこで買ったの?」

「ずっと向こうにあるお店。もう閉まってるけど」

「ちょっと欲しい」

閏くんは、その場で袋を開けた。

「閏くん、優しい~」

と閏くんの頭をなでなでしてあげた。


「美味ちぃ」

と唸る詩織を横に、閏くんは、何かを拾った。

「何か拾った?」

拾った何かが見えなかったのだ。

「夢の欠片」

手の平の上には何もないのだが。 

「ん?」


閏は、

「いい?」

何がいいのか解らなかったが、詩織は、

「いいよ」

と答えた。


閏は、右手で詩織の目に手を当てた。1秒か2秒くらい。

閏が手を離すと、閏の左手には、キラキラ輝く石の様なものが合った。


「これが夢の欠片?」

「そう、正確には破れた夢の欠片。冬が近づくと、時々落ちてるんだ」

「それをどうするの?」

「花火の火薬に混ぜて、夏に打ち上げるんだ。これがあるとないではキラキラ感が全く違うんだ」


閏くん家は花火職人だったのか。


閏は、夜空を見上げると、

「父が言うには、それは夢を追いかけていたキラキラしていた時の輝きらしいんだ。

観客はそんな花火を見ると、無意識に懐かしさがこみあげて来るらしい」

詩織は閏と一緒に夜空を見上げた。


夢を追いかけていたキラキラしていた時の輝き。


「綺麗な話だね」

と詩織は言ったのだが、閏の目は怒っていた。


「なんで?」

「お菓子、ちょっとだけって言ったのに」

「ごめん」

と詩織は、まだあどけない閏の頭をなでなでしてあげた。



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