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2章 松の実事件

最終話 かすみは怒り、那実人は踊る。

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優しい海風の雰囲気を失った松山くんは、哀れだった。


「許せない?」

那実人くんがわたしに聞いた。

「うん、許せない!」

「かすみちゃんの想うまま、行っても大丈夫だよ」


わたしの想うまま?

行っても大丈夫?

わたしが行って、どうするの?

わたしが松山くんを助けるの?

わたしは松山くんを助けたいの?


でも、どうやって?


わたしの脳内に色んな可能性が浮かんだ。


不可思議な少年・那実人くんは、さらに付け加えた

「諸々は、吾輩に任せて」

諸々?何を言っているのか不明だが、不可思議な少年の事、今は任せよう。

それに那実人くんが言うなら、大丈夫だろう。


意を決したわたしは、松山くんの後を追って隣のクラスに突入した。

怒りを露わにして教室に、突入してきた頑固な職人気質まるだしのわたしを、餓鬼どもは睨み付けた。


そこにちょうど担任が入ってきた。

「あなたたち何してるの!」

【あなたたち】と言ってはいるが、完全にわたし1人に向けられた言葉だった。


この教師は、餓鬼どもと松山くんの関係性を知っている。

わたしの直感はそう判断した。


「松山くんは、うちのレストランの常連!」

わたしは、何、言ってるんだろう?

当然、教室中から「何言ってるんだろう」って視線を浴びた。


しかし、わたしの想うまま!


わたしは言葉を続けた。

「松山くんは連れて行く!このクラスにはいさせられない!」

何故そんな事を言ったのかわたし自身不明だし、常識的に考えて、そんな事が出来る筈はないのだが。


その刹那。

那実人くんは工作用の小刀を抜刀し、わたしの周りで演武を始めた。

離島から来た不可思議な少年の演武は、教室の外からも注目を集めた。

その演武は、見えない何かを斬っているように思えた。


キーンコーンカーンコーン♪


休み時間の終了を告げるチャイムがなると、那実人くんはカッコよくポーズを決めた。突然始まった意味不明の演武だが、何故が拍手が起こった。


なんか不可思議な時間ではあった。


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だからなのか?

その日の午後には、松山くんのわたしのクラスへの編入が認められた。


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「あの時、何したの?」

わたしは渡り廊下で那実人くんに聞いた。

「吾輩が、松山くんとあのクラスの縁を斬った。縁を斬ったら同じ場所にはいられないでしょう」


縁を斬ったから、松山くんがうちのクラスに来られた?

常識的には意味不明だが、那実人くんが言うなら、そうなのだろう。


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うちのクラスに編入された松山くんは、優しい海風の雰囲気を取り戻し、女子の好感を集めた。うちのクラスの雰囲気に合ったのだろう。


いつしか、わたしだけの松山くんじゃなくなっていった(泣)


【吟遊詩人松の実チャンネル】も、更新されることがなくなり、閉鎖された。

あの痛い吟遊詩人松の実は、わたしだけの記憶の中に残ったのだ。


さよなら、わたしだけの吟遊詩人松の実。



おしまい
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