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守銭奴と苺大福

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わたしは、通称「アキナイ」
小学校の時から学校で、商いをしていた守銭奴に会うために此処に来ている。
その守銭奴に今日は用があるのだ。

和菓子屋に入ると可愛い少女が店番をしていた。
目当ての人物の妹だ。高校生だったような。
守銭奴の妹なのに、目がギラギラしてなく、純粋な目をしていた。
可愛らしい。

「いらしゃいませ」
「あきなりくんいますか?」
「お兄ちゃんですか。多分、2階に、お兄ちゃ~ん、メグミさんだよ」

可愛い妹は2階にいるであろう、アキナリに声を掛けた。
甘い声だ。例え兄が守銭奴だとしても、兄妹の絆は強いのだろう。

数分後、2階からアキナリが降りてきた。
完全に私服のだらけた格好だ。

ちゃんと見たのは七年ぶりだ。
「久しぶり」
わたしは愛想の良い表情を作った。
「・・・」
アキナリは七年ぶりの再会なのに、何の感動も示さなかった。
寝起きなのか、目がギラギラしてない。
寝起きはさすがに、守銭奴ではないらしい。

妹ちゃんの情報だと、小さな商社に内定が決まったらしい。
小学校から商いをやったいただけあって、商才はあるのだ。

アキナリは、じっとわたしを観察しながら、
「久しぶり、妹から常連だって聞いてたけど」
「うん、まあ」
「いつもありがとうございますって感じ」
「それでね、ちょっとモモカの件で用が」
「モモカ、百合友の?」
「百合友ちゃうわ!ちょっと仲が良いだけ」

中学の修学旅行の時、モモカとの禁断のシーンを、アキナリに見られたのを思い出した。守銭奴とは言え、中学生男子には衝撃的だったに違いない!

そして、その口止め料の額は、中学生女子にとって衝撃的だった!
奴の守銭奴感は半端ない。

でもその結果、その後、誰にも知られずモモカとのゆりゆり生活を楽しめたのは、かけがえのない素敵な思い出だ。

アキナリは意味深に笑うと、和菓子屋のカフェ風のフードスペースに誘った。
ちょっと前はなかったエリアだ。
わたし達が中学の頃は、古臭い和菓子屋だった。

「あっあの苺大福、持ってきて、俺の付けで」
アキナリは妹に告げた。
アキナリは守銭奴だけど、人に奢るのが好きだ。
基本、金は天下の回りモノなのだと言う。

お洒落な椅子に座るとすぐに、
「お待たせしました」
と妹が苺大福と緑茶を持ってきた。

妹は去り際、微笑みながら意味深に兄の肩に手を置いた。
兄はすぐに「違う!」と首を振った。

「何が違うんだよ」とわたしは口には出さなかった。

兄妹を見ながらわたしは苺大福を食べ、緑茶を飲んだ。
妹が去ると兄は話し始めた。

「妹がさ、和菓子屋を手伝うようになってから、少しだけど繁盛し始めたんだ。
お菓子作りの才能があったんだよ。なんか味のレベルが違うって言うの?」
妹の自慢をするアキナリは嬉しそうだった。昔から仲の良い兄妹だった記憶はある。
そして和菓子の味は、確かにレベルが変わったのは事実だ。

わたしが美味しく食べたのを確認した後、彼は言った。

「で?モモカちゃんが、どうしたの?」


つづく

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