幼馴染のエルフは全部見えちゃうそうです

健野屋文乃(たけのやふみの)

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1章

幼馴染のエルフは、なかなか成長しない。

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思春期に入る頃、ぼくは感じ始めた。


隣の家に住む同じ年のエルフの少女は、可愛い幼馴染だ。

同じ年と言っても、人間とエルフでは時間の流れが違う。

哀しい事に。


ぼくは彼女より先に成長して、そして先に死んでいく。

同じ時間を生きているのに、エルフのイリスは、ぼくよりかなり幼い。



ぼくとイリスは、放置された果樹園を歩いていた。

人に手が入らなくても、果樹は果樹で、それなりに実を着けていた。

特に栗の木は、何も変わる事なく、実を着けていた。


「ねえ、あれも食べれるの?」

イリスは栗の実を指して聞いた


「皮をむけば、ちゃんと食べれられるよ」

「どんな感じ?」

「うん、他の果実と違って、変わった味がするよ」


同じ年の幼馴染だけど、まるで好奇心いっぱいの子どもの表情でイリスは感心していた。


ぼくは成長している。

ぼくだけ成長しているんだ。

ぼくが哀しんで?いると、声がした。



「おーーーい!人間&エルフのガキども」

スライムだ!最弱の癖、悪そうだ。

ぼくはイリスを守るべく、剣を抜き構えた。


「威勢がいいな人間のガキ!」

「ガキちゃうわ!」

「ふっお前、この世界の支配者が誰だか知っているか?」


この世界の支配者?

今のところもっとも有力なのが、人類全盛期に作られたAIたちだろうか。

エルフもゴブリンもドラゴンも、未だAIを駆逐できずにいる。


ぼくは、

「AIか?」

「ふっ違うわ!お前何も知らねーな、いいかよく聞け、この世界の支配者はスライム族だ!」


「絶対違う!」

スライムが、最弱なのは古今東西変わりがない!


放置された果樹園を見渡すと、どうやらスライムたちに包囲されたみたいだ。

最弱スライムとは言え、ぼくらにとっては強敵だ。

ぼくは大きな栗の木を背にして、剣を構えた。


「ケータロウ、ここはあたしに任せて」

ぼくの背後で、エルフのイリスが言った。

まだ幼いイリスの魔法の攻撃力は低すぎるのだが。


「ほお、やる気が?数の上でも俺らは圧倒してると言うのに、笑けてくるぜ!」

最弱スライムは、悪そうに言った。


対してイリスは魔法の杖を握り、魔法を唱えた。

「・・・色気過剰!」

「?」


数秒の沈黙の後、スライムたちの様子が、何か変わった。

ちょっと顔が赤くなってる!


「おい、お前!何身体を寄せてるんだ!」

「わたしは、貴方の事が、すっごく恋しいの」

「今は、こいつらと戦ってるところだろうが!」

「恋しいのは今!こんな奴らと戦っている場合じゃない!」


ぼくらを包囲しているスライムたちは、みんなそんな状態だ。


「お前の事を愛し始めてしまった!」

と叫んでいるスライムもいる。



「今だ、逃げるよ」

イリスの声で、ぼくらはスライム包囲網を突破した。


ある程度の距離を逃げ切った後、イリスは、魔法の杖を握り、

「解除!」

と唱えた。


背後で愛を叫んでいたスライムたちに静寂が訪れた。

「・・・」

「・・・」


愛が覚めたスライムたちを背後にイリスは言った。


「お家に帰ろう」

「うん」


このファンタジーになった世界で、ぼくらは無事に、今日も一日を終えることが出来たらしい。


つづく
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